丸紅の3位浮上もあり!コロナで激変する大手商社の序列と見えない脱化石時代の収益
大手7商社の序列に今期は異変が起きそうだ。
商社の2020年度第3四半期(4~12月期)の決算が出そろった。年度末決算の第3コーナーに入り、三井物産、丸紅、豊田通商が連結純利益見通しの大幅な上方修正に踏み切り、かつての王者三菱商事が2000億円に据え置いたため、1900億円に迫った丸紅の3位浮上も見えてきた。
一方、水素やアンモニアなど脱化石への取り組みが各社で始まっているが、明確な収益目標は見えておらず、デジタル化への対応と並びコロナ時代の商社はこれから大きな正念場を迎える。
三菱商事の減損懸念
今期4000億円の利益見通しで伊藤忠商事のトップ返り咲きは確実だが、三井物産が鉄鉱石価格の上昇を受け、連結純利益予想を従来の1800億円から2700億円に上方修正し、2位に浮上する。 2000億円で据え置いた三菱商事は前期トップから3位に転落する。決算会見で増一行CFO(最高財務責任者)は「1-3月期に三菱自動車の構造改革費用で特別損失が出る。いまの経済環境で保有する資産の減損も想定し据え置いた」と答えた。5位には自動車関連ビジネスが好調で800億円から1200億円に上方修正した豊田通商が入る。
丸紅はお荷物のガビロン、ロイヒルが市況回復で好転
三菱商事に迫る1900億円に上方修正した丸紅は、国内不動産販売が好調だったほか、穀物相場、原油、銅、鉄鉱石などの市況好転で通期目標の86%を達成した。一過性の損失などを除いた実質純利益で2100億円を見込んでおり、2000億円も視野に入ってきた。
紙パルプや航空機リースなどコロナの直撃を受けた部門もあるが、主要な事業会社の利益貢献を見ると、ほぼ全部門で事業会社が育ってきており、「高値づかみ案件」といわれてきた穀物メジャーのガビロン、豪州の鉄鉱石ロイヒルも市況好転で収益が改善してきた。
5部門で3000億円の損失を計上する住友商事
丸紅とは対照的に住友商事の一過性損失の内訳は、メディア・デジタル部門を除く5部門にわたっている。この結果、通期の利益予想を300億円上方修正したものの1200億円の赤字となる。
下記の損失に米シェールオイル事業などを含めると第3四半期時点で合計2440億円、通期でも3000億円という巨額の一過性損失を計上する見込みだ。
2月4日にオンライン決算会見を行った住友商事は、通期決算の会見には姿を見せなかった兵頭誠之社長が出席し、「経営会議メンバー9人の月額報酬を4月から半年間減額」し、兵頭社長自身は「月額報酬の4割カット」を明言した。またマダガスカルのニッケル「アンバトビー」や欧州青果事業「ファイフス」など社長時代に決めた大型投資がのきなみ損失を計上することから、中村邦晴会長も取締役報酬を自主返納することを明らかにした。
10-12月期で1000億円の利益を出した三菱商事
三菱商事も住商ほどではないが、この第3四半期末で531億円の一過性損失を計上した。
三菱自動車の減損や構造改革費用で200億円の損失が計上され、穀物商社オラムで65億円、北海油田の引き当て、チリの銅鉱山の引き当て、船舶の売却損、航空機リースの減損など損失は多岐にわたった。ただ、一過性損益を除いた第3四半期のみの実質純利益は1076億円まで回復しており、このなかには原油市況が半年遅れで反映される液化天然ガス(LNG)の回復はまだ含まれていない。
資源相場は水物だが、経済が巡行速度に戻れば1000億円×4四半期で4000億円プラスアルファの利益回復は見えてきた。
「今期3位転落になるとしても三菱商事に悲壮感がないのはそのせい」(証券アナリスト)という声もある。
脱化石の本命「アンモニア」でも先行する三菱商事
脱化石の本命と目されるアンモニアでも三菱商事の先行ぶりが目立つ。というのも昨年10月26日の菅首相の2050年に温室効果ガス(CO2)の排出ゼロ発言のベースには、日本最大の火力発電会社で東京電力と中部電力の合弁会社JERAが10月13日に「水素やアンモニア発電で2050年に排出ゼロ」を宣言したことがあるからだ。
JERAは世界最大のLNGバイヤーであり、そのJERAにLNGを供給する日本最大のサプライヤーが三菱商事だ。三菱商事はJERAにLNGを供給するプロジェクトで、米国、豪州、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、オマーン、ロシア、カナダの液化事業の権益を保有している。
発電燃料に利用するアンモニアは「2050年で年3000万㌧」という現在のアンモニアの内需の30倍にも匹敵する巨大な量だ。この数値は2月8日にアンモニア官民協議会が出した試算だが、協議会にはJERA、そして三菱商事が理事企業として主導的な役割を果たしている。
三菱商事は19年11月、中部電力とともに、オランダで再生可能エネルギーや電力・ガスの小売りを手掛けるエネコを5000億円(三菱商事4000億円、中部電力1000億円)で買収している。
脱化石に向けて三菱商事とJERAは一蓮托生といえる。
脱化石に慎重な増CFOの発言
しかし、このスケールの大きいビジネスに対し、三菱商事の増CFOはまだ慎重だ。
2月3日の決算会見では「(脱化石は)はっきりわかるならみな飛びついている。どれが収益に貢献するかもわからない。一つに巨額投資するのは危ない。水素は実現するとなると相当なお金がかかる。当社はアンモニアの開発もやっている。アンモニアはそのまま運べるため(石炭火力発電の燃料として)混焼、専焼を段階的に進めるイメージだ。これがいつ収益になるかは答えがない」と発言した。
当然だろう。三菱商事の屋台骨を支える原料炭、LNGなど資源ビジネスは同社の利益の最大5~7割を占める。それに代わるビジネスなど一朝一夕につくれるものではない。
原料炭もLNGも50年の歴史
三菱商事の豪州の石炭開発の始まりは1968年、米アラスカで始めたLNGは1969年。実に50年以上の歴史がある。とりわけ三菱商事の屋台骨を支える原料炭が飛躍的に伸びるきっかけは、同社の純利益が260億円(2000年3月期)の時代に、1000億円で豪BHPから権益を買い取ったことから始まる。その6年後の2007年3月期、この豪州の原料炭は三菱商事に1081億円の持ち分益をもたらした。
資源に変わる柱として三菱商事はサケマスの養殖事業セルマックに1400億円(2014年9月)、穀物商社のオラムに1300億円(2015年8月)を投じたが、これらの投資が2、3年後にそれぞれ年1000億円の規模で三菱商事の利益に貢献する世界を想像するのは難しい。
商社全体を見渡しても、脱石炭に向けたアンモニアの開発では、三菱商事と三井物産がインドネシアで事業を手掛けた実績があるほか、伊藤忠がロシア、丸紅が豪州で日本に輸出するサプライチェーン構築の実証試験を始めているが、10年後に原料炭や鉄鉱石、LNGほどのビジネスに開花するかどうかは全くの未知数だ。
(金山隆一・編集部)