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非資源商社ナンバー1の伊藤忠が次期社長に脱化石のエースを送りこんだワケ

    伊藤忠商事の次期社長に就任する石井敬太専務(左)と鈴木善久社長
    伊藤忠商事の次期社長に就任する石井敬太専務(左)と鈴木善久社長

    「次期中期計画は脱炭素が重要になる。エネルギー、電力、リサイクルや環境素材、バイオマス、蓄電池を育ててきた知見を生かしてほしい」。伊藤忠商事は1月13日、エネルギー化学カンパニープレジデントの石井敬太専務執行役員(60)が社長COO(最高執行責任者)に昇格する人事を発表した。鈴木善久社長COO(65)は代表権のない副会長に就き、岡藤正広会長CEO(71)は留任する。

    商社首位奪回のタイミング

     同日開かれたオンラインの会見で鈴木社長は、「2020年4~9月期で年間利益目標(4000億円)の63%を達成し、1月7日には目標とする株価3000円超えを達成した。今期は連結利益で商社トップ奪回も視野に入り、時価総額で商社ナンバー1となったタイミングで休むことなく新しい価値観に磨きをかけたい」と語り、エネルギーの世界で起きている脱炭素を重視するうえでの「適任者」を後継に指名した、と語った。

    電力会社にはアンモニアを供給

     エネルギー・環境部門長を兼務してきた石井氏は、昨年12月に千葉県市原市で稼働させた出力5万㌔㍗のバイオマス発電を稼働させたほか、風力、太陽光などの再生可能エネルギー事業の拡充に力を入れてきた。全国各地に存在する小規模の再生可能エネルギーをまとめて一つの発電所のように運営する仮想発電所(VPP)事業や、AI(人工知能)技術を活用した家庭用蓄電システムの販売なども展開。電力会社が推進するCO2排出ゼロに向けた火力発電の燃料アンモニア供給に向けても、東洋エンジニアリングや石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (JOGMEC)と東シベリアで事業化調査を進めている。

     こうした環境ソリューション事業はまだ数十億円の利益に過ぎないが、一方で非資源商社ナンバー1を標ぼうする伊藤忠は実は現在も2020年3月期の純利益5013億円のうち1158億円を石炭や鉄鉱石、石油・ガスで稼ぎ出す資源商社の側面もあわせもつ。脱化石が世界的なトレンドになるなかで、資源エネルギーに変わる収益源を作るのは商社共通の課題なのだ。

     鈴木社長は「(脱炭素などの分野は)まだ定量目標はない。時間はかかるが収益を少しずつ拡大していく」と語り、石井新社長に環境ソリューション分野での収益貢献に期待を寄せていることも明言した。

    ファミマのデジタルシフト

     昨年、株式公開買い付け(TOB)による非上場化で経営権を完全に握ったファミリーマートのデジタル化への対応が遅れているのではないか、という質問について、鈴木社長は、昨年12月に設立したファミマ、伊藤忠、NTTデータなどの合弁会社「データワン」で推進するデジタル広告配信事業や、ファミマで使えるキャッシュレス決済「ファミペイ」の会員が650万人に達していること、17年にファミマとともに株式80%を握り非公開化を果たしたクレジットカード会社「ポケットカード」(会員数500万人)を軸にキャッシュレスやカードレス決済に取り組んでいると反論した。

    第8カンパニーは情報・金融に軸足

     そのファミマには、19年7月に岡藤CEOの肝入りで設立された伊藤忠の小売り関連のグループ会社を束ねる第8カンパニートップの細見研介執行役員(58)が3月1日付けで社長に就任する人事が同日発表された。細見氏は、岡藤CEOと同じ繊維部門のトップを務めてきた。

     代わって第8カンパニーのトップには、情報金融カンパニーでファミペイやポケットカードなどの事業を展開してきた加藤修一執行役員が就任することが決まり、脱化石とキャッシュレスなど情報・金融を軸にしていく布陣を明確にした。

    CITICは中国全土でデータセンター事業

     日本最大の対中投資の6000億円を投じた中国国有企業のCITIC(中国中信投資)については、成果が目に見えてないことを認めたうえで、中国全土でデータセンター事業を強化する方針。

     中国でファミマ事業を展開する合弁相手の地場食品大手の頂新グループとは、株式売却に向け、係争関係にあるが、「5月に発表する次期中期計画で踏み込んだ話ができると思う」と語り、詳細は語らなかった。

    岡藤CEO留任で浮かび上がった経営課題

    岡藤正広 伊藤忠商事会長CEO
    岡藤正広 伊藤忠商事会長CEO

     今回、石井専務を後継に選んだのは社長交代会見に出席しなかった岡藤CEOだ。この決定は社外取締役が委員長を務める指名委員会で諮問され、自身も委員会のメンバーである鈴木社長も石井専務が「適任」と判断し、バトンタッチが決まった。

     伊藤忠がこの時期に社長交代することは、商社ウォッチャーやアナリストの間でも寝耳に水だった。鈴木社長は、「3年前に社長に就任して65歳を一つのめどに仕事をしてきた」と語ったものの「極端に(役員の平均)年齢が上がらないこと」を意識してきたという。この言葉と反対に、岡藤会長CEOは社長在任8年の後、会長CEOに就任して3年が経ち、今71歳だが、留任となった。

     脱化石とデジタルシフトに向けて盤石な布陣を打ったように見えるが、ポスト岡藤の着地点が見えないところが伊藤忠の経営の最大の課題として浮かび上がった役員人事ともいえる。(編集部・金山隆一)

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