株価3000円を突破した伊藤忠に「3」という数字が縁起がいいワケ
伊藤忠商事の株価が1月7日、3000円を突破した。社内では、前場が3034円で終了した後、「節目の3000円をついに突破」とのアナウンスが流れた。
アナウンスでは「当社163年の歴史上、最大の快挙となる三冠(最終=当期=利益、時価総額、株価)達成へ向けて好調なスタート」と紹介。今後も全社員一丸で、企業価値向上に努めていくよう呼びかけた。
伊藤忠株は、新型コロナウイルス感染拡大による世界同時株安で2020年3月には1900円台にまで下落したが、その後は上昇基調に転じた。同社の21年3月期最終利益予想は、コロナの影響も受けて前年度比20%減の4000億円にとどまる。ただ、4000億円という業績予想は、2位の三菱商事(2000億円)を大きく引き離してトップ。コロナ禍にあっても、食料や情報金融など同社の得意とする非資源分野で着実に利益を積み上げていることも評価されたとみられる。
慢心戒めるため、社内アナウンスは控えめ
同社の株価は8月下旬には、上場来高値に達した。8月31日には、米著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイ社が伊藤忠を含む商社大手5社に出資していたことも明らかになり、一段の株高を演出した。
さらに12月以降の日本株上昇局面でも、上場来高値を連日更新した。
同社ではこれまで、株価の波で高値を更新するたびに社内アナウンスをしていた。しかし、今期は高値を更新した場面でのアナウンスは減った。アナウンスをしたのは、8月31日の「バフェット効果」による最高値更新時、12月3日の「バフェット後」の最高値更新時のみだった。「慢心を戒める。浮かれないようにするため」という岡藤正広会長兼最高経営責任者(CEO)の指示だ。
3000円を突破した7日も、社員の間には「通過点に過ぎず、まだ企業価値を高めねば」という緊張感が漂う。
伊藤忠にとって、「3」は縁起のいい数字である。岡藤氏が社長に就任して2年目の12年3月期、最終利益は3005億円と初めて3000億円台に乗せた。前期(11年3月期)最終利益は1611億円。前年度比86%増と驚異的な伸びを見せての3000億円突破だった。3000億円突破は、商社としては、三菱商事、三井物産に続き3番目。2000年代は三菱商事、三井物産、住友商事に続き4位が指定席だった伊藤忠が、ついに12年3月期に3位へ浮上した。
快進撃始まったあの年も「3」に縁
その後、三井物産を抜き去り、三菱商事との2強時代に突入。16年3月期には、三菱商事・三井物産が資源価格下落で赤字決算に陥ったこともあり、伊藤忠が初の商社トップとなった。
「3」関連で躍進を遂げた12年3月期が、同社の快進撃の起点だった。
同社の株価は、不良債権処理にあえいだ1990年代後半~2000年代初頭、500円以下を付けた時期もあった。同社の利益も伸び悩み、当時は格上だった住友商事の社員は「うちに、青山(伊藤忠)から転職したというケースは珍しくなかった」と語る。その時を知る伊藤忠社員にとって、「3000円」は感慨深いものがあるだろう。
直近の立役者は、非資源事業を強化した岡藤会長だが、不良債権問題を処理した室伏稔氏(故人)や丹羽宇一郎氏ら当時の社長の決断も大きく作用している。
2度目の商社トップへ
伊藤忠は、21年3月期最終利益予想である4000億円は「必ず達成する」(鉢村剛CFO=最高財務責任者)と宣言しており、期初から見込んでいる500億円のバッファーの上積みも予想される。株価3000円突破で順調な滑り出しを見せた21年、2度目の商社トップへの期待が社内で高まる。
(種市房子・編集部)