円高の要因1 実質金利差 米国より日本が「高金利」 年末に1ドル100円割れも=浜田健太郎/村田晋一郎
「菅義偉首相は対ドル100円割れを阻止せよと財務省幹部に命じたらしい」──。ある政界ウオッチャーはこうささやく。長年、日銀を観察してきた市場関係者は、「日銀執行部が今、一番警戒していることは円高だ」と話す。新型コロナウイルス禍で日本経済は大きな打撃を受けるが、円高が進めば現在需要が回復する半導体や機械などの輸出産業を圧迫し、輸入物価の下落を通じてデフレが再び定着しかねないからだ。(円高が来る!)
コロナが世界的に拡大し始めた昨年3月には一時、1ドル=112円台を付けたドル・円相場。しかし、その後はじりじりと円高が進み、今年に入って1月6日には一時、103円台も割り込んだ。その後、2月初めにかけて105円台まで円安に戻すが、先行きは依然として予断を許さない。何より1ドル=100円を割り込めば、80円台割れの超円高に苦しんだ2011~12年の記憶を呼び覚まし、人々のマインドを冷やしかねない。
この先のドル・円相場はどう展開するのか。それを探るうえで一つの指標となるのが、米国と日本の「実質金利差」だ。短期の名目金利からインフレ率を差し引いたものを「実質金利」とし、米国と日本の実質金利の差を取ってみると、長い目で見れば名目のドル・円相場と相関していることが分かる(図)。この実質金利差は、足元ではマイナス2ポイント(日本の実質金利が米国より高い状態)近くまで下がっている。
さらなるデフレ圧力
米国では、コロナ禍を受けて米連邦準備制度理事会(FRB)が昨年3月、ゼロ金利政策を復活。消費者物価指数(CPI、食品とエネルギー除く)は足元でも前年比1・6%前後で推移しており、実質的にマイナス金利の状態にある。一方、日本も短期の名目金利はマイナスで推移するものの、CPI(食品とエネルギー除く)もそれ以上にマイナス幅が大きく、実質的にはプラス金利となっている。
マネーは金利が低い方から高い方へと流れていくが、先進各国の成長率がすう勢的に低下する中で、いまや名目金利の差はほとんどなくなった。物価を加味した実質金利がドル・円相場への影響力を高めていると考えても不思議ではなく、三菱UFJ銀行の内田稔チーフアナリストは「円の実質金利がドルに比べてさらに高くなることで、年末には1ドル=100円割れが定着してもおかしくない」との見方を示す。
日本の物価にはさらに下押し要因もある。NTTドコモなど大手携帯電話3社は今年3月、データ容量20ギガバイトの低料金プランの導入を予定するが、携帯電話料金はCPIに占めるウエートが高まっている。携帯電話通信料の下落分が他の消費に向かえば日本経済にとってもプラスとなるが、コロナ禍の状況ではそれも見込めない。通信料の下落はさらなるデフレ圧力ともなり、実質金利の上昇を通じて一段の円高を招きかねない。
政府は2月2日、コロナ感染拡大を受けた東京や大阪など10都府県の緊急事態宣言について、3月7日まで延長することを決めた。今後の日本経済や金融市場を大きく左右するドル・円相場から当分、目が離せない。
(浜田健太郎・編集部)
(村田晋一郎・編集部)