国際・政治

数千億円の経済効果でも基地にノー 鹿児島の無人島で反対の市長が再選=平井康嗣

 1月31日投開票の鹿児島県西之表市の市長選は全国的に注目された。同市の無人島、馬毛島(まげしま)に自衛隊基地を建設して米軍空母艦載機の飛行訓練を恒常的に移設するという日米安全保障政策に直結する政策が最大の争点だったからだ。

 反対派で現職の八板俊輔氏は、市長選を住民投票的な選挙と位置づけて再選を果たしたが、獲得した票は、容認派候補の福井清信氏とわずか144票差の5103票で、薄氷を踏む勝利だった。

 4年前の市長選では6人の候補者のうち4人が基地反対派だったが、今回は一騎打ちに。防衛省が2019年11月末に、馬毛島の所有者である不動産開発・管理のタストン・エアポート社(東京都、立石勲社長)と160億円で島の売買契約に合意したことで種子島(西之表市、中種子町、南種子町)では風向きが変わった。立石氏は1995年に馬毛島を取得し、防衛省と交渉を続けてきていた。こうして基地の経済効果に期待する動きが加速した。経済効果とは基地建設工事、漁業補償、米軍再編交付金、基地交付金だ。現地では数千億円という数字が飛び交った。市長選では容認派の福井氏を、種子島の建設業、農業、漁協、商工会の各団体が支援、与党自民党の鹿児島県連も推薦した。

米軍基地が建設される鹿児島県の無人島、馬毛島(筆者撮影)
米軍基地が建設される鹿児島県の無人島、馬毛島(筆者撮影)

 建設工事は地元企業の協力が欠かせない。筆頭に上がる建設会社が西之表市の藤田建設興業(藤田護社長)だ。同社は公共事業を中心に手掛け、藤田社長は鹿児島県建設業協会会長の要職も務める。昨年同社は定款の事業目的に「一般貨物自動車運送事業」と「港湾運送事業」を加えた。馬毛島の施設整備が始まれば、物資の運搬は欠かせない。

 同社に関し、タストン社の立石社長の資金繰りに関わっていた人物に話を聞いた。「種子島で土地の買い占めが起きていると、私は不動産業者から資料を見せられ、種子島空港の近くの山林に防衛省が弾薬庫をつくるから、予定地を買わないかと持ちかけられた。藤田建設興業やオリエンタル商事(東京都千代田区)の原幸一社長の間にも土地取引をめぐるやりとりがあったと聞いた」。

 そこで両社に取材を申し込むと藤田建設興業は「弾薬庫の土地など根も葉もない話」と否定した。原氏は「マスコミの取材は受けていない」との返答だった。防衛省も「現時点で弾薬庫の計画はない」と回答した。種子島で今後、基地関連の施設開発が進むと見込んだ詐欺まがいの投資話らしい。

基地だけの島になる無人島・馬毛島(防衛省HP)
基地だけの島になる無人島・馬毛島(防衛省HP)

 原氏は12年ごろ、東京電力側で鹿児島県南大隅町の「高レベル放射性核廃棄物最終処分場」の誘致に動いていたことがメディアで報じられたことがある。両社の法人登記によると、藤田建設興業の藤田社長はオリエンタル商事(当時の社名はオリエンタルクイーン)の役員だった過去があり、原氏は藤田建設興業の現役員。さらに藤田建設興業の東京支店は一時、オリエンタル商事本社と同住所だった。藤田建設興業の元社員に聞くと、「原さんは社長の友人で、公共事業の受注でも頼りにしてきた」と話す。投資話にはこうした地元有力者の名前が次々挙がる。

 立石氏が地権者となってからの25年間、馬毛島にはさまざまな人間が関わり、億単位のカネが動いた。三つの市町に分かれる種子島は、選挙もからんで今後も注目が集まるのは間違いない。

(平井康嗣・『日刊ゲンダイ』記者)

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