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「インディーズ」は「プロ」を凌駕する? TVアニメ「PUI PUI モルカー」大ヒットに見るコンテンツ産業の「転換点」

    子供向けアニメが異例のヒット

    車になったモルモット「モルカー」の活躍を描いた平日朝放送のTVアニメ「PUI PUI モルカー」。

    フェルト製のぬいぐるみや人形が動き回る、子ども向けの「ストップモーション・アニメーション」だ。

    これがSNSなどをきっかけに、なぜか大人の間でもブームになっている。

    ほのぼのしたストーリーやキャラと裏腹の社会風刺、妙に深い世界観が、大人のツボにはまっているようだ。

    最終回を迎えた今も、Twitterなどでは「やはり人類は邪悪」などとつぶやいたり、「モルカーの体の構造はどうなっているの?」と考察したりする人が後を絶たない。

    本作の監督は東京藝術大大学院でアニメ製作を学んだ若手映像作家、見里朝希さんだ。

    童話を元に児童虐待を描いた「マイリトルゴート」など、大人向けのインディーズ作品で評価を得てきている。

    最近では、「進撃の巨人」などで知られるアニメ制作会社・WIT STUDIOと組んでストップモーション作品のスタジオを設立するなど、メジャーシーンでも急激に脚光を浴び始めている。

    「モルカー」に潜む不穏さの源泉にも、アート系のアニメーション作家である見里さんの尖った作風があるようだ。

    アニメ・映像報道の第一人者であるジャーナリストの数土直志さんに分析してもらった(敬称略)。

    インディーズ監督がメジャー進出した理由

    ――アニメビジネスとして、また文化として、「モルカー」のヒットをどうご覧になっていますか?

    数土:本作では、見里さんのようなアニメーション作家と呼ばれるインディーズ(の人材)と商業アニメが結びついた点が、とても大きかったと感じます。

    ――TV作品の監督や脚本家をある程度チェックしているアニメファンでも、見里さんの名前を知っていた人は、あまり多くなかったのではないでしょうか。

    数土:僕が見里さんを最初に知ったのは、2016年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭でした。

    アニメーション部門の選考委員をしていたのですが、当時まだ学生だった見里さんが出したのが「あたしだけを見て」(※目の前にいる彼女を直視せず、「あるモノ」に夢中になる男性を描いた作品。奨励賞受賞)。

    凄い作家がいるなと思いましたね。

    彼の東京藝術大大学院の修了制作「マイリトルゴート」は、ここ数年で世界のメジャーなアニメーションの賞を(日本の若手で)一番取った作品かもしれません。

    日本の作家はレベルが高いですが、国際的な賞をたくさん取れる人は実は多くない。

    見里さんはまさに期待の星なのです。

    ただ、この「マイリトルゴート」は児童虐待問題を描いた、残酷な部分もある作品でした。

    ――YouTubeでも公式動画がアップされていますが、血なまぐさいシーンもあったりと、かなり大人向けです。

    数土:そんな見里さんに今回、可愛らしい「モルカー」を作らせたのは凄いと思いましたね。

    モルカーを制作したシンエイ動画は、「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」といったオーソドックスなファミリー・キッズ作品を手掛けてきた会社です。

    放送したテレビ東京も商業アニメの(強い)テレビ局。

    NHKの「みんなのうた」などはこれまでも(見里さんのような)インディーズ作家をよく起用してきたのですが、こうした商業アニメの会社が彼を取り上げたところに新しさがあった。

    「ポプテピピック」でもあった「美大出クリエーターの登用」

    ――こうした芸大などを出て短編アニメを手掛けるインディーズシーンの「アニメ作家」と、商業アニメの作り手ではキャリアが少し異なるのですね。

    数土:もちろん芸大や美大を出て一般の商業アニメ制作に行く人もいますが、これまではちょっと違っていたのだと思います。

    アニメーション作家と呼ばれる人々は、世界的には映画祭に出品して賞を取っていくキャリアを歩みます。

    ただ、日本では彼らが(制作だけで)食べていけるキャリアの道筋がこれまであまり描かれてこなかった。

    NHKの番組やCM、ミュージックビデオ(MV)制作、それに大学の先生といった仕事が主だったと言えるでしょう。

    ――見里さんが商業アニメの初監督を務めた「モルカー」の成功は、日本のアニメーション作家が商業シーンでも活躍した好例であると。

    数土:ただ、今回の「モルカー」が突出している訳ではなく、ここ何年かの間にインディーズ作家と商業アニメのシーンは近づき、融合しつつあります。

    本作はあくまでその最先端に過ぎません。

    例えば(不条理系TVアニメとしてヒットした)「ポプテピピック」には、制作陣に芸大や美大出身のクリエイターがずらりと並んでいます。

    他にも、森田修平さんはもともと「カクレンボ」という短編で評価され、「九十九」では米アカデミー賞にノミネートされた作家です。

    しかし最近ではTVアニメ「東京喰種トーキョーグール」の監督に抜擢されるなど、作家と商業の両シーンで活躍しています。

    インディーズ人材が「草刈り場」に?

    ――ちなみに「モルカー」がヒットした理由についてはどう考えますか? メディアでは社会風刺っぽい要素や、「考察欲」をそそらせる世界観が注目されていますが。

    数土: 僕自身は本作に深い意味を見出すというより、くすくす笑って楽しんでいます。むしろその(内容の)気軽さが良い。

    加えて、見里さんのようなインディーズの作家たちの作品はSNSとの親和性が高いと思います。

    長くないしエッジが効いているので、SNS上で(評判が)広がりやすい。

    そうするとあたかも「自分で見つけた」感があり、視聴者も押し付けられて見ている感じがしないのでしょう。

    商業アニメではあるけれど、いわゆるビッグバジェット(莫大な予算が組まれた作品)のアニメとは違う満足度があるのかもしれません。

    ただ、昔も「やわらか戦車」のように(近いテイストの)ヒットアニメはありました。

    「モルカー」が特異な訳ではなく、(こうした作品のヒットは)定期的にけっこう起きている現象だと思いますね。

    ――最後に、見里さんのようなインディーズ出身のアニメーション作家が商業シーンで活躍する流れは、今後も加速するでしょうか?

    分かりませんが、こうしたインディーズ作家のキャリアの道筋自体は豊かになっていくと思います。

    例えば、MVに彼らを起用する例は非常に増えています。国際映画祭でも、MV部門に日本の作品がかなりの高確率でノミネートされていますね。

    商業アニメにおいても、例えば短編だけでなく長編映画で活躍する人が出てきても不思議でないと僕は思います。

    新海誠監督もインディーズ出身でしたし、今年公開の劇場アニメ「アイの歌声を聴かせて」の吉浦康裕監督もインディーズ畑です。こうした動きはもっとあっていい。

    商業アニメ制作において、大きなスタジオの下積みからキャリアを始めた人は、アニメーターや演出家などどうしても1つの業務に特化した人材になります。

    逆に、短編であっても1作品を企画から絵コンテ、撮影・編集と最後まで統括した経験のあるインディーズ作家は、監督という総合的な業務で強い面がある。

    才能をいつも欲しているアニメ業界において、こうした人材は今後、「草刈り場」になるかもしれません。

    数土直志氏
    数土直志氏

    数土直志

    ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。証券会社を経て2004 年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立。09年には「アニメ! アニメ! ビズ」を立ち上げる。16年に「アニメ! アニメ!」を離れて独立。アニメーションをはじめ映像ビジネスの報道・研究で活躍。主な著書に『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命』 (星海社新書)など。

    構成:ハコオトコ

    東京都生まれ、ライター・編集者。日本経済新聞社で記者職を経験後、現職。本の情報サイト「好書好日」や「小説すばる」などで執筆。専門は経済と文芸・サブカル。

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