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週刊エコノミスト Online ワイドインタビュー問答有用

主婦、居酒屋から転身=藤崎忍・ドムドムフードサービス社長/835

「何か仕掛けると反応してくれる人がいる。そうした人と並走する存在でありたい」 撮影=佐々木龍
「何か仕掛けると反応してくれる人がいる。そうした人と並走する存在でありたい」 撮影=佐々木龍

 日本で最初のハンバーガーチェーン「ドムドムハンバーガー」。独自性あふれるメニューで今、コロナ禍の中でも着実にファンを増やしている。陣頭指揮を執るのは、主婦、居酒屋経営などを経て抜てきされた藤崎忍さんだ。

(聞き手=元川悦子・ライター)

「大手バーガーチェーンがやらないことをやる」

「入社から7カ月後。いきなり『代表取締役に』と言われた。まさに青天のへきれきでした」

── 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、今年1月から2度目の緊急事態宣言が出ました。飲食業への影響は甚大ですね。

藤崎 昨年9月にオープンした東京・浅草の花やしき店のように観光地にあるお店は確かに厳しいです。花やしき店は9~11月は順調でしたが、東京都から飲食店に時短要請が出された12月は予算比で半減。1月は15%減まで盛り返しましたが、減っているのは確かです。それでも、ドムドムハンバーガー全体の昨年1年間の売り上げは前年同期比7%減とほぼ横ばい。この間に閉店した京橋店(大阪府)、赤羽店(東京都)、鴨池店(鹿児島県)の3店舗の分を除けば15%増で、むしろアップしていると考えていいでしょう。(ワイドインタビュー問答有用)

── その要因を挙げると?

藤崎 コロナ禍でテークアウト需要が高まったことが、ファストフード業界にとっての追い風でした。私たちの店舗の多くはダイエー傘下の時代からスーパーなど地域住民の生活圏内にあり、昨春の緊急事態宣言下でもほぼ営業を続け、お客さんが途切れなかったことが大きかったと思います。

── 他のハンバーガーチェーンはデリバリーに力を入れました。

藤崎 私たちはデリバリーを衛生面や安全性を考えて見送りました。というのも、ドムドムはお客さんから注文を受けてから作るので、注文が一気に増えると対応できなくなります。コロナ禍で統括エリアマネージャーが店舗を回って指導するのも難しく、今は時期尚早という結論に至りました。外食はやはり安全・安心が大前提。そこは崩せませんよね。

 ドムドムハンバーガーは、日本で最初のハンバーガーチェーン。ダイエー傘下で1970年、東京都町田市に1号店をオープンし、かつては全国350店舗を超えたこともある。2017年にホテル運営のレンブラントホールディングス(HD、神奈川県厚木市)が買収し、ドムドムフードサービスを運営母体に現在は全国26店舗を展開。3月23日には千葉県市原市に「市原ぞうの国店」をオープンする。

── デリバリーを見送った分、他の魅力が必要になりますね。

藤崎 そうですね。ドムドムの最大のウリはユニークな商品。バーガー屋ですからおいしいのは当たり前で、驚きや意外性、楽しさを与えられるメニュー作りを心掛けています。月1回のペースで限定メニューを出していて、過去に最もヒットしたのは18年7月発売の「丸ごと!!カニバーガー」。カニ1杯を丸ごと使用し、SNS(交流サイト)で話題になったため、昨年9月から990円(税込み)で再販しました。

倒れた夫を介護

介護を続けながらアルバイトをしていた小料理屋で 藤崎忍さん提供
介護を続けながらアルバイトをしていた小料理屋で 藤崎忍さん提供

── とても大胆な商品ですね。

藤崎 カニの水を切って粉をつけて揚げるのは意外に手間がかかるんですが、できるだけ短時間で作れる方法を見いだし、アルバイトやパートのスタッフを一つ一つ丁寧に教育して、商品化にこぎつけました。「思いついたらトライする」というのが私と商品開発担当のモットー(笑)。4月には「マスカルポーネとエビとアボカド」、5月にはドムドムらしい楽しいコラボバーガーを計画しています。商品開発担当は張り切っていますよ。

── マスクやトートバッグなどのオリジナル商品もヒットしていますね。

藤崎 コロナ禍による品薄でマスクが買えなくなり、従業員の健康を守るために、洗って繰り返し使えるタイプの布マスクを作りました。マスク不足が深刻だったので、安価でそっとお分けしようと昨年4月に販売したところ、バーガー屋が布マスクを販売する珍しさもあったのか、ネットで大きな反響を呼びました。

 また、昨年迎えた創業50周年グッズのトートバッグやハンカチも人気が出て、5月末からEC(電子商取引)サイトで販売しました。何か仕掛けると反応してくれる人がいる。それを見るたび「ドムドムは本当に愛されているな」と痛感します。そうした人と並走する存在であり続けたいと思いながら、日々頑張っています。

 いまや社長として陣頭指揮を執る藤崎さんは、短大卒業後に東京都墨田区議だった男性と結婚。夫を支えながら子育てに奔走する主婦だった。しかし、05年7月に夫が病に倒れたため、39歳で商業施設「渋谷109」のブティック店長として働き始める。家事や介護の傍ら、5年間で売り上げを倍増させた後、東京・新橋での小料理屋でのアルバイトを経て、11年に小料理屋の近くで居酒屋を開店。2店舗目も軌道に乗せた17年5月、ドムドムから予期せぬオファーが届いた。

── 主婦からブティック店長、居酒屋経営に乗り出すのは、相当大変だったのでは。

藤崎 夫が倒れて介護が必要な状態になり、私学に通っている息子もいましたから、私が働かなければ家計が回らない状態でした(苦笑)。学生時代の友人が「母の経営する渋谷109のお店で働かないか」と誘ってくれたのが第一歩でした。試着室のカーテン交換から始めて店を大幅に模様替えして、スタッフも整理・教育したところ、売り上げが大きく伸びました。

 新橋での居酒屋経営も、日本政策金融公庫や信用金庫を回って1200万円を借り入れ、なけなしの前職の退職金をはたいて始めましたが、「お一人さまでも心を尽くそう」と誠実な接客を心掛けたところ、1年で2軒目を出すまでに至りました。周りにも助けられ、本当に大変な日々でしたが、楽しかったですね。

「厚焼きたまご」開発

藤崎さんが開発した「手作り厚焼きたまごバーガー」 ドムドムフードサービス提供
藤崎さんが開発した「手作り厚焼きたまごバーガー」 ドムドムフードサービス提供

── そんな中、ドムドムからはどのような誘いが?

藤崎 「新メニュー開発のためにアイデアを提供してほしい」という申し出でした。レンブラントHDの専務が私の居酒屋の常連客で、私の料理をおいしいと感じてオファーをくれたんです。当時50歳の居酒屋のおばさんを大きなビジネスに誘う勇気と情熱に感銘を受けました。一緒に2軒の居酒屋を切り盛りしていたパートナーも独り立ちできると感じたし、その前年には夫が亡くなり、長男も自立した後だったので、心配材料もなかった。「やっちゃおう」という感じでした(笑)。

── 最初に提案したメニューは?

藤崎 現在も販売している「手作り厚焼きたまごバーガー」(300円)です。厚焼きたまごは日本人のソウルフードで、誰にも喜ばれるメニュー。日本発祥のバーガーチェーンでこそ出すべきと考えました。ですが、たまご焼きというのは想像以上に高度なスキルが求められます。手早く簡単に作って安く出すのは簡単ではなかったんですが、何とか商品化にこぎつけました。正社員になったのはこの直後の17年11月です。

── 社長就任はそのわずか5カ月後の18年4月ですね。驚きです。

藤崎 私にとってもまさに青天のへきれきでした(苦笑)。最初は商品開発に特化した仕事をするつもりが、17年12月に開店が決まった厚木店(現在は閉店)の店長を任され、翌18年からは東日本15店舗の統括エリアマネージャーも兼務することになりました。でも、3月末の最初の決算見込みの数字が予想外に悪かった。居酒屋2店を切り盛りしてきた経験から「このままではまずい」と考え、本社役員に「意見を言える立場にしてください」と直談判したところ、1カ月後には「代表取締役になってください」と言われたんですからね。

── なぜ自分が抜てきされたと思いますか。

藤崎 会社に関わり始めて1年足らずでの社長抜てきは、期待値込みだと感じます。ただ、仕事への必死さや真摯(しんし)な姿勢は自負するところがありました。私も努力して大きくした居酒屋を人に譲ってきたんですから、絶対に失敗できなかった。再建の道のりを真剣に考え、自分なりにパソコンで作った収支予測表を会社に提出するなど進んで行動を起こしました。

 社長に就任した以上、とにかく結果を出さなければいけない。そう自分を鼓舞して、3年間やってきましたね。

 51歳で社長に就任した藤崎さんは、「ドムドムらしさ」にこだわって大胆なメニュー刷新を図った。伝統メニューの「甘辛チキンバーガー」(360円)、「お好み焼きバーガー」(370円)を残しつつ、「丸ごと!!カニバーガー」以外にも「丸ごとカマンベールバーガー」(販売終了)など独創的なメニューを提供。大手ハンバーガーチェーンにはない個性を前面に打ち出し、ファンは着実に増えている。

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── 社長に就任後、どんな点に経営の課題を感じましたか。

藤崎 エリアマネージャーをしていた時に一番感じたのが、経営陣と現場の風通しの悪さでした。ドムドムでは総勢270人のスタッフが働いているのですが、上の声が現場に届いていないし、現場の声も吸い上げられていない。そこで、率先して声掛けやSNSを使ったコミュニケーションを図るようにしました。細部までの信頼関係は全ての土台。心を伝えることを大事に商品開発を進めた結果、業績が徐々に上向き、お客さんからも反響を得ることができました。

── 会議の仕方も変えたそうですね。

藤崎 会議の場で「前年比何%増」などと、売り上げや目標の数値を発表するのをやめました。資料を見れば分かることですし、せっかくみんなが集まって話をする場。商品のアイデアを出し合ったり、店舗展開について議論したりする方がはるかに有益です。社員が言いたいことを言えて、積極的に意思疎通を図れるような環境に変わった。今年4月から就任4年目に入りますが、業績もようやく黒字化できそうなメドが立ちました。

── 藤崎さんが目指す理想の会社像は?

藤崎 前任の社長時には「100店舗への拡大」を目標に掲げていましたが、私は従業員とお客さんの幸せを第一に考えて事業展開していきたいと思います。ドムドムは現時点で全国26店舗しかありませんが、お客さんにとってナンバーワンの店になることが大事。そのために商品や接客の質を高めることを重視しています。大手とは違う独自性を追求していかないと生き残れない。それは常日ごろから頭の中に刻み込んでいます。

── 「市原ぞうの国店」がオープンしますね。

藤崎 ドムドムのブランドロゴ「どむぞうくん」は、ゾウが大衆に最も愛されていた動物ということで採用されました。そのゾウつながりで動物テーマパーク「市原ぞうの国」に出店すれば、子どもたちが豊かな体験をしつつ、おいしいものを食べられる。食を通して幸せになってもらえるお店にできると確信しています。役員会では「コロナ禍で観光地に出店しても採算が取れないんじゃないか」という意見も出ましたが、子どもたちの未来を応援したいと思って決断しました。

── 大胆に攻める経営者ですね。

藤崎 普通のハンバーガーチェーンがやらないことをやるのがウチですから(笑)。今夏には東京・新橋にドムドムのセカンドブランドとなるハンバーガー店を立ち上げることも計画中です。19年9月にファッションブランド「FRAPBOIS」(フラボア)とのコラボレーションイベントを実施し、その時に販売した黒毛和牛バーガーが大ヒットしたのを見て、おいしいものを追求していきたいと考えていました。そこでセカンドブランドでは高級志向の店構えにする予定です。また違った形で「ドムドムらしさ」をアピールしていけるように努力していきます。


 ●プロフィール●

藤崎忍(ふじさき・しのぶ)

 1966年7月、東京都墨田区生まれ。短大卒業後に区議会議員の男性と結婚。主婦として子育てなどに奔走していたが、39歳の時に夫が病に倒れ、商業施設「渋谷109」のブティック店長に。5年間働いた後、2011年から東京・新橋に居酒屋を開店し、翌年には2軒目を出店。17年にドムドムハンバーガーの新商品開発担当として転職。18年4月にドムドムフードサービス社長に就任。

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