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GAFA規制強化論者の任命の裏を読むとハイテク株が下落しない理由が見えてくる

    「GAFA」と称される米IT大手4社のアプリ
    「GAFA」と称される米IT大手4社のアプリ

     米株式市場で最も注目され、最も市場心理に影響を与えるのは巨大ハイテク企業4社、総称「GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アマゾン)」であろう。

     数年前から、その企業による反競争的な行為や、情報の取り扱いが批判されるようになり、規制強化論に拍車がかかった。時代遅れになった反トラスト法(日本の独禁法)を見直し、企業分割も一部検討すべきだと結論づけた下院司法委員会調査もある。

     そんな中で3月初めにGAFAの反競争的な行為に厳しい意見を持つ大学教授2人が、反トラスト法の見直し論や規制強化論に影響を与えるポストに任命された。

     1890年以降、これまで司法省などからの「各々の市場を独占している」という指摘で企業分割令を受けてきた石油大手、通信大手、パソコン大手、そしてソフトウェア大手のうち、その後10年前後、株価が冴えなかった例がある。最後は企業分割から逃れられても、長い法廷闘争中は経営フォーカスがなくなり、経営戦略の見直しを強いられ、その間にライバルが拡大したためではないか、とされている。

     このため規制強化論の2人の任命が株式市場に影響を与えるのではないか、という懸念があったが、2人はいずれも決定権のあるポストではないためか、いまのところ市場の反応はほとんど見られない。

     民主党は実は巨大ハイテク企業に「支配されている」との見方もある。

    バイデンがGAFAに厳しい2人を指名

     3月5日、バイデン政権は巨大ハイテク企業に厳しい意見を持つコロンビア大学の教授2人を反トラスト関連の重要ポストに指名すると発表した。

     1人はリナ・カーン教授(32)。昨年10月、16カ月に及ぶ調査で449頁もの結果報告書が、米下院司法委員会から公表されたが、その共著者である。

     もう一人はティム・ウー教授(48)。ネット企業は全てのコミュニケーションを平等に取扱うべきだと訴える、「ネット中立性」論のパイオニアだ。

    GAFA規制で反トラスト法の見直しの声が出ている

     いま問題になっているGAFA規制とは、反競争的な行為や情報の取り扱いに関する、巨大ハイテク企業の規制のことだ。

     影響力と市場支配力が強まったことから、「我々を信じて(Trust us)という時代を終わらせないといけない」(上院司法委員会)という声や、日本の独占禁止法に相当する「反トラスト法」の見直しを求める声が増えた。

    問題視されているGAFAのキラー買収

     最も問題視されているのは「キラー買収」と呼ばれる反競争的な買収だろう。将来性のあるライバルを買収して、そのイノベーションを止めることで事実上ライバルを阻止するなど、過去に製薬業界で問題視された行為である。GAFAの4社も、ライバルになるアプリやソフト、そしてサービス提供者を事実上阻止するために、この10年で数百社買収してきたとの推計もある。

     今後は買収時に、反競争的な買収ではないことを証明する義務を、当局側ではなく、GAFA側に課す法案が検討されている。成立すると、各社の買収戦略、そして拡大戦略が減速するかもしれない。

    アプリの拒否とライバルへの監視

     その他、批判されている反競争的な行為として、アプリストアへの登録を一旦拒否したアプリを自社で開発する行為、割高なアプリストア登録手数料、自社サービスを優先した検索結果の表示等も挙げられている。高度なプログラムを作って、「今のライバルや将来のライバルを監視する例」も明らかになった。

    トランプもバイデンも撤回を求めたネット企業の免責条項

     コンテンツに対するハイテク企業の免責を定めた、米通信品位法230条、通称「インターネットを作った法律」の見直し論や撤回論も注目されている。新聞など通常のメディア会社はそのコンテンツに責任を負うが、230条によりネット企業は免責されている。「230条のおかげで急拡大でき、インターネットができた」とされている

     トランプ氏もバイデン氏も選挙中はこの230条の撤回を求めた。

     だが、両党の問題意識は大きく異なり、公聴会で共和党は「大統領等、保守派の投稿を削除してきた」、「何様だ」と批判した一方、民主党は「230条の事実確認義務を果たし、もっと削除すべきだ」と求めた。

     230条見直し論以外にも、検索履歴やSNS等から得られる個人情報の取り扱いがどうあるべきか、という議論もある。ユーザー本人が知らないうちに個人情報が取られ、流用されていることが問題になっている。

    GAFA制御に必要な反トラスト法の見直し

     反トラスト法は従来、独占による価格の引き上げを取り締まるためにあると考えられてきたが、巨大ハイテク企業には物価を下げる力が強く、司法省も以前、「物価を下げる効果は褒められるべきだ」という見解を出したことがある。

     よって、今回指名された規制強化論の2人は反トラスト法そのものを抜本的に見直すことが、民主党左派、「プログレッシブ派」などから期待されているのだ。しかし歴史的には非常に難しいようだ

    取り締まるのは連邦取引委員会と司法省

     米国で反トラスト法を連邦レベルで取り締まるのは連邦取引委員会(FTC)と、司法省(DOJ)反トラスト局だ。

     カーン教授は連邦取引委員会5人中の1人の候補になり、今後上院承認が必要だ。現在5人の内訳は民主党1名、共和党2名、そして民主党が決める空席が2人。うち1人は政権交代に伴い、早めに退任した委員長席だが、カーン氏は委員長の候補ではない。

    ウー教授も反トラスト法で決定権なし

     そしてウー教授は米国家経済会議「NEC」内の新ポスト 、「テクノロジー及び競争政策担当の大統領特別補佐官」に指名された。

     ウー氏は「巨大ハイテク企業の企業分割を呼び掛ける、プログレッシブ派運動のリーダー」として有名だ。

     昨年、企業分割を求める司法省と州司法長官の訴訟を見て「反トラスト法の冬の時代は終わった」と述べている。その訴訟に至るまでの調査も強力に支援したほか、前述した下院司法委員会の調査にも何度も同氏の分析や証言が登場する。

     だが、NECは各省庁で経済政策を調整する役割を担い、反トラスト法について決定権はないだろう。

    取り締まる司法省の局長はまだ空席

     FTCとともに反トラスト法を取り締まる、重要な司法省の反トラスト局長はまだ空席だ。

     その人事を握るのは、最近指名された民主党のガーランド司法長官だが、「超」中道派として有名だ。

     反トラスト局長も、中道派から選ばれる可能性が高そうなのだ。

    決定権あるポストではない2人

     バイデン大統領は「左派と右派のど真ん中を見つけるのが得意」とされている。

     今回の人事でプログレッシブ派に配慮して、巨大ハイテク企業に厳しい権威2名を指名している。だが、いずれも決定権のあるポストではないようだ。

    「反トラスト法の抜本改革を求めないのであれば、最適な2ポストだ」と共和党の反トラスト弁護士も述べている。

    株式市場が反応しないワケ

     今後、FTC委員長と、反トラスト局長の人事が注目されるが、共和党のグラハム元司法委員長によると「あまり知られていないことだが、民主党は巨大ハイテク企業に支配されている」と語っている。

     SNS大手フェイスブックのザッカーバーグ社長夫妻も、投票所のコロナ対策強化のために、約4億ドルを、選挙の公正な運営の支援を掲げる左派系のNPOに寄付し、間接的に民主党を支援したとされている。GAFAに厳しい2人が反トラスト法やGAFA規制に関与するポストに就いても、市場反応は非常に薄いようだ。

    (ブリス・ウィンチェル・USストラテジスト)

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