日本の路線バスが中国のEVバスに乗っとられる日!“黒船”EVバス来襲
京都市に本社を置く京阪バスが今年2月、中国BYD社の小型EV(電気自動車)バス「J6」の導入を発表した。計画ではJR京都駅と京阪七条駅、梅小路のホテルなどを結ぶステーションループバスを、路線丸ごとEVに置換する、という。早ければ今年中に運行を開始する。今後もEVバスの導入が各地で加速し、日本の公共交通のあり方を大きく変えそうだ。(EVバス)
なぜ日本製ではなく中国製のバスが導入されたのか。京阪バス経営企画室の大久保園明室長は、その理由について「世界中のEVバスを比較検討した結果、価格、性能、メンテナンスなどを総合的に判断してBYDに決定した」と語る。EVバスは何といっても走行中に温室効果ガスを排出せず、「脱炭素」化に向けて世界各国が相次いで目標を打ち出す中、企業としても取り組んでいることをアピールできるメリットは大きい。
EVバス導入の最大のネックは価格の高さだったが、ディーゼルエンジンのバスと比べても大きな差はなくなっている。BYDによると、コミュニティーバスサイズのBYD「J6」(定員25~31人)は1台1950万円、大型の「K8」(定員75~81人)でも3850万円。国内メーカーのディーゼルエンジンの大型バスは2000万円程度からで、燃料代やメンテナンスのコストなども考えれば遜色ない水準だ。
一方、国土交通省が出している「電動バス導入ガイドライン」を見ると、国内メーカーの場合は「コミュニティーバス〜大型」で6000万~1億円、燃料電池車で大型1億円となっており、EVバスではBYDの価格の安さが際立っている。BYDをはじめ海外のEVバスメーカーは、こうした価格競争力を武器に今後、日本市場を席巻しそうな勢いだ。
国交省は温室効果ガス削減に向け次世代車の普及を促進しようと、昨年度から「地域交通グリーン化事業」を始めており、すでに全国15カ所でEVバスが導入されている。京都市で路線バスを運行するプリンセスラインがBYD、九州では2社が韓国のファイバーHFG、東京で1社がニュージーランドのデザインライン社のEVバスを導入している以外は、すべて国産(日野自動車、いすゞ自動車、トヨタ自動車)となっている。
BYDの日本法人BYDジャパンは、日本での導入拡大に向け、攻めの姿勢を見せる。2023年には日本国内で4000台のEVバスを販売する計画を立てており、現時点で53台を納入した(表)。BYDは全世界にEVバスを輸出し、自社でバッテリーから車体まで製造。充電ステーションから車両メンテナンスまでワンストップのサービスも提供するなど、EVバスでは敵なしの存在だ。
日本ではまだ黎明(れいめい)期ともいえるEVバスだが、世界では20年末時点ですでに45万台以上が生産されている。ブルームバーグによると、その数は40年には130万台に達する見込みという。現時点ではその9割以上が中国で製造・利用されているが、今後は欧州、インド、米国などでEVバスの導入が急ピッチで進んでいくとみられる。
バフェット氏も出資
欧州では19年末で新規導入されたバスの1割がEVとなり、米国ではバイデン大統領が30年までに新規に購入するバスのすべてをEVに、という目標を設定している。米国ではEVバスは20年末時点で全体の0・5%に過ぎないが、そのうち圧倒的なシェアを占めているのがBYDだ。BYDは14年、カリフォルニア州ランカスターにバス製造工場とバッテリー工場を建設し、同国内でのEVバス需要に対応してきた。
BYDには早くから投資家の注目も集まっていた。著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる米投資・保険会社バークシャー・ハサウェイは08年、BYDに2億3200万ドルを投資しており、同社の株式の4・59%を保有している。その株価は現在、取得時から5倍以上に上昇し、バークシャーが保有する海外株式では最大額となっている。
京都で京阪バスに先立って15年2月、BYDのEVバスを導入したのがプリンセスラインだ。同社は京都駅と京阪七条駅、京都女子大学、四条河原町を結ぶ三つの路線を運行しており、15年からBYD製の大型バス「K9」を導入している。利用者は主に京都女子大と付属の小中高の学生。赤い外観にシートも赤を採用し、若い女性客を意識してか、社内には加湿器も用意されている。
(土方細秩子・ジャーナリスト)