インタビュー 渡辺努(東京大学経済学部教授) 「コロナ版『渋滞予測』で消費と感染防止の両立を」
コロナの感染を抑えながら、消費を増やすにはどうすべきか。ビッグデータでコロナによる行動変容を研究している東京大学の渡辺努・経済学部教授に聞いた。
(聞き手=稲留正英・編集部)
── 今後の国内消費の動向をどう見るか。
■コロナ禍で、国民は対面型消費・サービスを控えていた。それは、政府の緊急事態宣言やまん延防止等重点措置による営業時間短縮などの「介入効果」で支出を抑えていた面もあるが、私の研究では、むしろ、自発的に感染を恐れて、恐怖心から対面型の支出を抑える「情報効果」の方がずっと大きかった。昨年4月の緊急事態宣言による全体の外出抑制のうち、介入効果は4分の1に過ぎず、4分の3は情報効果によるものだった。(日本経済大復活)
介入効果は若者のステイホームを強める効果が顕著な一方で、重症化リスクが高いシニアにはそれほど強く効かない。経済にしっかり被害を与えるのに、健康被害を抑える効果はあまりなく、下手な政策だ。だから、今後の国内消費を見るうえで、消費者の恐怖心がどれくらい無くなっていくのかが、ポイントになる。
── この5月から高齢者向けのワクチンの接種が始まる。
■ワクチンが普及していけば、恐怖心は薄まる。しかし、仮に日本人全員がワクチンを打ち終わった時に、恐怖心が完全に消えるかというと、そんなに単純なものではない。ウイルス自体は残っているので、感染リスクはある。米国の友人は、引き続き慎重に行動していると言っている。日本人はなおさらだろう。ワクチン接種によってもペントアップ(繰り越し)需要に一気につながらない可能性がある。
── ワクチンが普及する前の段階で、感染を抑えながら、経済を回すにはどうすべきか。
■一にも二にも正確な情報が大事だ。政府やメディアが、今の感染状況やどう備えるべきかを、分かりやすく伝えることに尽きる。最近は、コロナ慣れなのか、特に若い人の恐怖心が薄まっている。医師会などが「過去最大の危機」などと言っても、「ああそうですか」という感じで、個人の行動変容にはつながらない。
── 具体的に、どのような情報が必要か。
■例えば、京都に5月の何日に行き、どこどこを見たいとする。その時に、その場所に、どの地域から、どのような人が、どれくらい集まるのか、といった情報だ。もし、リスクが高いなら、旅行を5月の下旬にずらそうと、個人は判断することができる。今、我々が見ているNTTドコモの移動データを活用すれば、完璧ではないが、ある程度、予想できる。それを専門家が分析したうえで、政府が発信すればよい。天気予報やGWの渋滞予測のコロナ版のイメージだ。
■人物略歴
わたなべ・つとむ
1959年生まれ。82年東京大学経済学部卒業、日本銀行入行。92年ハーバード大学経済学博士。99年一橋大学経済研究所助教授、2002年同教授を経て、11年東京大学大学院経済学研究科教授。19年経済学部長。21年4月から現職。15年に経済統計をリアルタイムで提供するベンチャー企業「ナウキャスト」を設立。