銅は新しい石油になる=江守哲
銅 「新しい石油」になる=江守哲
銅を中心として「ベースメタル」と呼ばれる非鉄金属価格が上昇している。世界的なクリーンエネルギーの推進を背景に、将来的に銅需要が伸びると見られているからだ。電気自動車(EV)や再生可能エネルギーに関連する需要は、マジョリティーを占めるわけではないが、世界的にカーボンニュートラルに向かう中で需要は確実に増える。(儲かる金属)
5月には米ゴールドマン・サックスが「カッパー・イズ・ザ・ニューオイル」というリポートを出した途端に銅価格はトン当たり1万ドルの水準を超えた(図)。
これで投機マネーが入ったかのように見えるが、実は直近の価格上昇の背景には、鉱山会社やメタルトレーダーが保有する現物に対する先物の売りヘッジ取引の買い戻しが大きく影響している。
思い出されるのは、2005年12月の銅相場である。
新興国が銅の消費者としてビルドインされるという見方が市場に広まり、3000ドルが天井だったものが、前記のような現物業者による先物の買い戻しをきっかけに、一気に天井を突き抜けた。
その後も新興国経済の拡大を材料に上昇し、07年の高値に向けて上昇し続けた。
今回の上昇局面では、当初は投機マネーの流入があったことは否定できないが、現物業者の買い戻しで水準を切り上げたところまでは過去と同じである。
世界的なグリーン政策の浸透で実需が増える点は、新たな実需が生まれるという点で00年代と同じといえる。
この材料を背景に、本格的な銅市場にマネーが入るのは、むしろこれからであろう。ちなみに、EV向けの銅使用量は、現在主流である内燃機関の自動車の約4倍である。銅需要が拡大するのは、ほぼ確定的である。
ニッケル需要も急増
一方のニッケルについても、EV用の電池に使用されるため間違いなく需要は増加する。自動車向けに関しては、これまで全く使用されていなかったが、EV化が進めば需要は急増することになる。
そのため、テスラは上流資源に進出する動きを見せている。ちなみに、テスラが掲げた「2030年に2000万台のEVを生産する」という目標の達成に必要な銅は19年の生産量の9%、ニッケルに至っては31%に相当する。EV化の進展が、ベースメタルの需給逼迫(ひっぱく)に直結することは容易に理解できるだろう。
ニッケルで注意すべき点は、生産国がフィリピン、ロシア、インドネシアなどに偏在していることだ。これらの国は、「資源ナショナリズム」の動きが先鋭化しやすい。
過去にはインドネシアがニッケル鉱石を禁輸とするなど、供給が政治に振り回されるリスクがきわめて高い。これらの生産国は、供給を盾に国ぐるみで資源外交を行う。これに民間企業が太刀打ちするのは、きわめて困難だ。
政府は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の投融資や保証の比率を鉱石の種類を問わず横並びに支援するのではなく、メタルごとに柔軟にリスクマネーを提供し、生産・供給国との交渉にも参画し、成長のための資源確保に積極的に行動すべきであろう。
(江守哲・エモリファンドマネジメント代表取締役)