ゼロゼロ融資の「副作用」で中小企業の債務過剰が急増=坂田芳博
業界分析 「地銀の命運」握る7業種 中小企業の3割強が過剰債務=坂田芳博
「資金支援をお願いします」「政府系金融機関にも融資を断られました」。新型コロナウイルス感染拡大から1年が経過し、地銀など金融機関への相談件数が急激に増えている。(地銀ランキング)
コロナ前から業績が厳しかった企業も、コロナ関連で実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)や持続化給付金、雇用調整助成金などの支援で窮状をしのいできた。ゼロゼロ融資は申し込み期限となる昨年度末は駆け込みのようだった(図1)。コロナ禍の当初、金融機関はどんな企業にも「とりあえず、融資と返済猶予」を受け入れたが、一部中小企業は業績回復が遅れ、資金が底を尽き始めている。ゼロゼロ融資が今年3月で終了してから3カ月。ここにきて様相が変化してきた。
民間金融機関にとってゼロゼロ融資は信用保証協会の保証付きで、貸出先が倒産しても金融機関は代位弁済で全額回収できる。だが、金融機関が独自に貸し出す「プロパー貸し出し」は、企業が倒産すると回収が難しい不良債権となる。コロナ関連の制度融資の枠(最大6000万円)を使い切った企業は、業績不振のうえに過剰債務の企業が多い。
飲食券に「息絶え絶え」
そうした企業は政府系金融機関からも見放されるケースもあり、資金調達が難しくなっている。
売り上げを補うため前払いチケットを販売している都内の飲食店。そのチケットの裏面には「我々飲食店も、度重なる営業時短要請を受け、息も絶え絶えの状況です」と悲痛な叫び声が記されていた(写真)。また、建設業界関係者は「工事案件情報はあっても先送りや、案件自体がなくなるケースもある。調達した資金は時間とともに消えてしまった」と話す。
日本銀行の「貸出先別貸出金」によると、銀行の今年3月末の中小企業向け貸し出しは381兆2557億円(前年比4・5%増)に伸びた。業種別で見ると、製造業が前年比4・8%増、建設業16・6%増、卸売業4・0%増、小売業14・7%増、宿泊業18・9%増、飲食業36・4%増、医療・福祉業7・3%増だった(図2)。やはり、緊急事態宣言で休業や時短営業、酒類提供の自粛などを要請された飲食業の伸び率が高い。
ゼロゼロ融資の返済据え置き期間は最長5年間だが、政府系金融機関の66%、民間金融機関の56%で、貸出期間は1年間となっている。早い企業はすでに返済を迎える。政府は今年2月に借り換え制限の条件を緩和した。これにより、再び据え置き期間の延長が可能となったが、裏返せば過剰債務の解消が先送りになったに過ぎない。
倒産11カ月ぶり増
東京商工リサーチ(TSR)の調べによると、今年5月の倒産件数は11カ月ぶりに前年同月を上回った。ちょうど1年前はコロナ禍で最初の緊急事態宣言が発令され、裁判所の一部業務の縮小などで倒産が大幅に減少した反動とみられる。ただ、コロナ関連倒産は今年に入り、毎月100件以上発生しており、さらに増加する兆しが強まっている。今年3月の売上高がコロナ前の19年同月を下回った企業は、大企業で61・1%、中小企業で67・6%に達し、資金繰り支援の“副作用”として過剰債務を生んでいる。TSRのアンケート調査で、債務の過剰感を感じている企業は大企業で17・1%、中小企業で35・0%にも達した。
一方、先行きが見通せない中、TSRの調べで、地銀の21年3月期決算の貸し倒れ引当金は1兆9943億円(前年比11・9%増)と増えた。また、前期より貸し倒れ引当金を積み増したのは81行で最多だった(図3)。政府は資本性ローンや事業再構築補助金、伴走支援型特別保証制度などを掲げ、本業支援を進めている。さらに、中小企業の実態を踏まえた事業再生のための私的整理のガイドライン策定の検討をしている。だが、こうした施策はアフターコロナの対応で、今苦境にあえぐ企業を視野に入れていない。
企業の疲弊感は強まり、倒産件数の底打ちが現実味を帯びるだけに、地銀はさらなる与信費用の増大が避けられない。だが、本業収益が厳しい状況下、与信コストが収益悪化を招く可能性もある。コロナ禍支援で、ノーリスクで増やした貸し出しだが、今後は貸出先の倒産増加でしっぺ返しをくらうことになりかねない。
すべての中小企業を地銀など金融機関が支援するのは難しい。支援を受けられない企業は、廃業も選択肢の一つとなる。それは同時に、地銀を含めた金融機関を“負の連鎖”に巻き込む動きになることは避けられないだろう。
(坂田芳博・東京商工リサーチ情報本部情報部課長)