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週刊エコノミスト Online

高校中退から上り詰めたレズビアンの連銀総裁が語る「私がここまでこれた理由」(サンフランシスコ連銀総裁インタビュー・後編)<動画も公開中>

インタビューに答える米サンフランシスコ地区連銀のデイリー総裁
インタビューに答える米サンフランシスコ地区連銀のデイリー総裁

社会の成り立ちが多様化しているアメリカ。学歴、人種、性別、家庭の経済事情などの格差は個人の人生にどう影響するのか――。米サンフランシスコ地区連銀のメアリー・デイリー総裁は低所得家庭出身で高校中退、LGBT当事者でもある。7月14日(米国時間7月13日)、オンラインで実施したデイリー総裁へのインタビューの後編をおとどけするとともに、インタビュー動画も公開する。(聞き手=岩田太郎・在米ジャーナリスト)

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―― 日本では女性の企業幹部や政府高官、国会議員を増やす議論が盛んだ。多様性を体現するあなたから、高みを目指す若い日本女性や日本のLGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニング)コミュニティーへのメッセージを伺いたい。

■女性やLGBTQだけでなく、すべての人に大切なことをまず伝えたい。それは、官民を問わず、最善の政策はあらゆる多様な声を反映したものであるということだ。なぜなら、われわれ一人一人は自身の体験に根差したそれぞれ違う視点で物事を見るからだ。

 私のような人が10人まとまって存在しても役に立たない。私のような者がたぶんひとり、そして多種多様な他の9人が必要だ。育ちも考えも世界観も違う人が集まることで、社会、米国経済、世界経済として最大の力を発揮できる。違う価値観を総合することが大事だ。

変化は時間がかかる

 若い人たちにいつも言うのだが、「不屈の努力と忍耐が必要だ」と。一夜にして世界を変えることはできないが、周りの一人一人を変えることで、生涯の間に(世界の)変化を見ることができるだろう。決意をしっかりと持ち、ぶれることなく、変化がすぐに起こらなくても、変化が起こっていないわけではないと悟ることだ。若い人には難しいかも知れないが、年齢を重ねたわれわれの世代が、すべての人の声が反映される社会へのコミットメントを再確認すべきだ。

キャリアの節目で能力を証明しなければならなかった

―― 自身のジェンダーや性的志向のために「ガラスの天井」を経験したことはあるか。そうであれば、どのように克服したか。

■私はサンフランシスコ連銀の総裁になったので、ガラスの天井にぶち当たったとは言えないだろう。だが、私は低所得家庭の出身であり、LGBTQであり、女性であることで、物事が容易であったとはとても言えない。流れに逆らって泳ぎ、「自分の居場所がここにある」と証明してやってきた。それよりは、すべての人に居場所が最初からある方がよいのではないだろうか。「彼らには能力がある」との前提に最初から立つ方がよいのではないか。

 私はキャリアの節目節目で、仕事を遂行する能力があると証明しなければならなかった。後に続く人にはもっと容易な道であってほしい。自分自身で周囲に証明をしなければならないということは、多大なエネルギーを要する。その他の重要な課題の解決に用いられない分、ムダでもある。

拘束力のない目標を定める

―― 若い人たちの進路を容易にすることに関して、クオータ制(一定の比率で人数を割り当てる制度)の導入をどう思うか。

■いくつかの国や企業で導入されているが、私はクオータ制が時に間違ったメッセージを送ることになると考える。それよりも公共の方針やFRBにおいては、(拘束力を持たない)目標を定め、人口構成を反映したものにしましょうと言う方がよい。

 たとえばFRBの各地区連銀では、それぞれの地域の人口構成を反映した組織を実現すればよい。われわれにはバランスが必要なのであって、今日はこのタイプの人、明日は別のタイプを求めるということではない。バランスの取れた、多様な声が反映された職員のポートフォリオが欲しい。

「仲間外れにしない」組織に

 解決するのが困難な問題だが、より多様でよりインクルーシブ(仲間外れにしない)な組織にしたいのだ。そのためサンフランシスコ連銀では、時限を定めた上で、管轄地域の人口構成を反映した職員構成を約束している。その達成度も可視化している。加えて、いったん採用した後は自動的に組織に順応するとの前提には立たない。能力開発やコーチングなどで、所属する組織に自分の居場所があると感じさせることが重要だ。ただ仕事をする机を与えるだけではなく、声を与えなければならない。「自分は必要とされている」と感じるからこそ、声をあげられるのだ。

数値目標では「明日の世界」を反映できない

―― サンフランシスコ連銀の具体的目標はあるのか。例えば「女性50%、黒人12%、LGBTQ10%」などだ。

■世界は常に進化している。具体的な数値目標を掲げることで、今日の世界を反映することはできるかもしれない。しかし、明日の世界はそうではないかもしれない。

 サンフランシスコ連銀では、人種、ジェンダーや性的志向だけでなく都市部や非都市部など地理的要因、さらに出身家庭の家計収入なども考慮している。また、名門ハーバード大学卒ではないから採用しないということがあってはいけない。

 究極的には最も高い能力を持つ者たちが決定権を持つべきだ。対話に多様性が必要だ。われわれは「奉仕する地域の人口構成を、われわれは反映しているか」と自問自答しているが、その答えは「まだそうはなっていない」だ。達成したとごまかすつもりはないが、そこに向かって前進している。

家庭の事情で高校を中退

―― あなたの人生について聞きたい。若い時の目標はあったか。それらを達成したか。

■聞いてくれて有り難う。私は高校を卒業しなかった。家庭において経済的な問題や健康問題があったからだ。そのために、15歳の時に家計を助けるために中途退学した。しかし、私が真に恵まれていたのは、メンター(人生や仕事のアドバイスや悩み相談に応じる相談者)に出会えたことだ。17歳の時、高校卒業と同程度の学力を証明する認定資格の取得を勧められた。それで資格を取得したのだが、私はその当時、自分が高卒資格が必要なバスの運転手になるのだと思っていたが、大学への進学を勧められた。

家庭の事情で高校を中退したというデイリー総裁 Bloomberg
家庭の事情で高校を中退したというデイリー総裁 Bloomberg

 生育環境から大学進学など考えたこともなかったが、1学期だけ通ってみた。そこで成績優秀を修めた。さらに4年の大学過程を修了するようアドバイスを受けた。そのようにして、私は今、サンフランシスコ連銀の総裁になっている。

可能性を見いだしてくれる人の存在

 非常に重要なことは二つある。まず、15歳や20歳の若い年齢の時に、他人が表面的に見る以上の可能性を本人は持っているということだ。私自身や他の人が見えなかった可能性を、私の内に見出してくれる人がいた。二つ目は、人々は私の人生の話を聞いて「普通ではない」と言うのだが、これが普通になったらどうだろうか。生育環境や家庭の経済的環境がどのようなものであれ、努力やスキルや能力、そして不屈の努力で克服できることが普通になればよい。

―― あなたの人生は新しいアメリカンドリームだと思うか。

■私の人生はある意味アメリカンドリームかもしれない。若い人すべてが可能性を実現できればよい。私は本当に助けてくれる人に多く恵まれた。だから、他の人を助けることに献身している。

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メアリー・C・デイリー

1962年生まれ。サンフランシスコ地区連銀総裁。出身地ミズーリ州の高校を15歳で中退後、17歳で大学受験資格を取得。イリノイ大学で修士号、シラキュース大学で博士号。専門は経済格差や賃金動向、失業問題など労働経済学。96年にサンフランシスコ連銀に調査部員として入行。同行調査部長、副総裁を経て18年10月に総裁に就任。女性として3人目の地区連銀総裁、同性愛者であることを公表する地区連銀総裁としては、アトランタ連銀のラファエル・ボスティック氏に次ぎ2人目、レズビアンでは初。

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