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週刊エコノミスト Online 韓国

韓国国民の6割超は北朝鮮に無関心 世論調査が示す「南北統一」への諦め 澤田克己

韓国国民の多くは南北関係より米韓関係を重要視している Bloomberg
韓国国民の多くは南北関係より米韓関係を重要視している Bloomberg

 韓国の北朝鮮研究者から「北朝鮮に関心を持つ韓国人なんて、ほとんどいないんだよ」というぼやきを聞かされたことがある。そうした傾向を如実に示す世論調査の結果が、韓国政府系シンクタンクである統一研究院から公表された。「北朝鮮に関心がない」と答えた人が61%だったというのだ。

 このほど発表された今年の「統一意識調査」から、北朝鮮に対する韓国世論の傾向を紹介したい。

「関心がない」という回答は、2015年の50・8%から増加傾向にある。年齢別に見ると、若年層の方が無関心だ。この調査は世代を生年で区切っているが、おおむね20代に重なる1991年以降生まれの「ミレニアム世代」では74・1%に達した。

 ただ、それより上の世代も全年齢層で50%を超えている。無関心なのは若者たちだけ、とは言い切れない。

 興味深いのは、一方で「統一は必要だ」という回答が58・7%あったことだ。日本の敗戦に伴う戦後処理の中で南北に引き裂かれた韓国では、統一が国是とされてきた。だから、あえて聞かれれば「統一は必要だ」と答える人が多いのだろう。

韓国人の本音は「統一より平和共存」

 統一に対する本音がうかがえるのが、「戦争せず平和に共存できるなら統一は必要ない」という考え方についての賛否だ。これには56・5%の人が同意した。この考えを否定し「あくまでも統一をめざすべきだ」という立場を取ったのは25・4%だった。

 調査では「互いに往来でき、政治・経済的に協力するなら、一つの国家にならなくても統一とみなせる」という考え方をどう思うかも聞いている。同意したのは63・2%、反対したのは10・7%だった。

 文在寅政権の対北朝鮮政策を説明するパンフレットで、最上段に掲げられる目標も「平和共存、共同繁栄」である。統一は遠い目標で、まず大切なのは平和だ。豊かになって失うものが大きくなった韓国にとって、戦争など論外だからだ。

 1000万都市である首都ソウルは、南北が対峙する軍事境界線から数十キロの距離にある。北朝鮮が大量に配備している長射程砲などの射程内であり、核兵器がなくても、戦争になれば壊滅的な被害を受ける。

本音は「南北統一」より「平和共存」
本音は「南北統一」より「平和共存」

 戦争にまで至らなくても、危機が高まれば韓国経済に打撃を与えうる。だから韓国政府は近年、欧米を中心とする外国メディアが「第2の朝鮮戦争の危機」と騒ぐたびに、一生懸命になって「そんなことはない」と火消しに回ってきた。厳しい対北政策を取った保守派の朴槿恵政権も、これは同じだった。

 20代のミレニアム世代では、平和共存派が7割を超え、統一志向派は1割強しかいない。統一研究院は「若い世代ほど北朝鮮を統一の対象ではなく、平和共存の対象と見ており、世論のこうした傾向は強まっていくだろう」と分析している。

北朝鮮の核開発に向ける冷めた視線

 北朝鮮の核開発に向ける視線は冷めている。90・7%の人が「北朝鮮は核開発を放棄しない」と見ているが、北朝鮮の核兵器が「心配だ」という人は42・5%しかいない。

 北朝鮮は金正恩政権下で核・ミサイル開発を加速させ、能力を大きく向上させた。日本を射程に収める中距離ミサイルは数百基も実戦配備されており、日本にとって現実的な脅威と認識されるようになった。

 それだけに韓国での脅威認識が低いことに驚く人もいるだろう。ただ、そもそもソウルは通常兵器で攻撃されうる位置にある。冷戦時代の朴正煕政権下で前線から遠い中部への首都移転が立案されたが、実現しなかった。

 韓国にとって北朝鮮は軍事的脅威であり続けてきた。北朝鮮の核兵器の有無が決定的な意味を持つ日本とは置かれた環境が違うということになる。

与党支持層は北朝鮮に同情的

 同じ民族である北朝鮮に対する意識をうかがわせるのが、北朝鮮に対して抱くイメージに関する問いへの答えだ。

調査では、「北朝鮮は何の対象になるか」として、「支援」「協力」「警戒」「敵対」という四つのキーワードへの見解をそれぞれ聞いている。

 結果は、「警戒の対象」が69・8%でもっとも高かった。「敵対の対象」は56・2%、「協力の対象」は50・8%、「支援の対象」は37・6%。警戒すべき敵ではあるものの、協力も必要だし、支援する対象でもある。そんなところだろうか。

 ここでは支持政党による違いが出た。与党「共に民主党」支持者の方が、保守派の最大野党「国民の力」支持者より融和的なのだ。特にギャップが大きいのが「支援の対象」という見方についてで、野党支持者は28・6%にとどまったのに対して、与党支持者は55%に達した。

 文在寅大統領は残り任期が1年を切る中でも、南北関係を進展させたいという姿勢を崩していない。現実に成果を上げるのは簡単でないものの、支持層の考えには沿った動きだと言えそうだ。

7割は「南北関係の改善より米韓同盟の強化が重要」

「南北関係の改善より米韓同盟の強化の方が重要だ」という考えには、71・3%が同意した。米韓同盟は韓国の安全保障政策の根幹であり、重要だという認識が強いようだ。

 14年に同じ質問をした時は51・9%だったので、大きく増えている。19年にハノイで開かれた2回目の米朝首脳会談が決裂して以降の情勢悪化を受けた変化なのだろう。この間の変化は、兵役対象年齢であるミレニアム世代で最も大きく、米韓同盟重視という回答が14年の47・5%から75・1%にはね上がった。

 米韓同盟が今後も重要だと思うかという質問には、93・8%が「そう思う」と答えた。在韓米軍についても90・3%が「必要だ」という認識を示した。

文在寅政権の「やむを得ず平和共存」は結果的に世論に一致

 韓国ではソウル大も同様の意識調査を毎年実施しているが、傾向は大きく変わらない。20年調査では「どのような対価を払ってでも統一を」は3・9%、「できるだけ早く」が12・3%だった。最も多かったのは「統一を急ぐより環境が成熟するのを待たねば」で55・6%、次が「今のままがいい」21・4%。「統一に関心がない」6・8%まで足すと、8割以上が消極的という結果だ。

 こうした傾向は、金大中大統領と金正日総書記による史上初の南北首脳会談が00年に実現した頃からのものだ。それまでの韓国では反共教育が行われ、北朝鮮に関する情報は統制されていた。北朝鮮の実情は知られておらず、統一も現実味のないスローガンに過ぎなかった。

 首脳会談後の南北交流の増大によって北朝鮮の実情を知った韓国人は、厳しい現実を思い知らされた。韓国側の経済的負担が重すぎると早期統一に尻込みする人が増え、それまでなら言うのがためらわれた「統一は先でいい」「関心がない」という回答をするようになったと考えられる。

 文在寅政権の中核には、民族主義的な理念に基づいて南北関係の改善を重視する人たちがいる。この人たちも一足飛びに統一など無理だと分かっているから、前述したように当面の目標は平和共存となる。世論と出発点は違うけれども、目先の利害は一致するといえるだろう。

澤田克己(さわだ・かつみ)

毎日新聞論説委員。1967年埼玉県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。在学中、延世大学(ソウル)で韓国語を学ぶ。1991年毎日新聞社入社。政治部などを経てソウル特派員を計8年半、ジュネーブ特派員を4年務める。著書に『反日韓国という幻想』(毎日新聞出版)、『韓国「反日」の真相』(文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)など多数

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