EV時代に消えるクルマ!「ファブレス×部品メガ」の動きを読み違えると日本の自動車は消滅!?
米国では現在多くの新興EV(電気自動車)メーカーが生まれているが、その中で異色を放っているのがフィスカー社の存在だ。フィスカーはデンマーク出身で独BMWなどで車のデザイナーをしていたヘンリック・フィスカー氏が興した会社。2008年に当時のオバマ政権によるEV推進政策で、テスラを超える500万ドル(約5億5000万円)の政府融資を受けたこともある。
EV世界のアップル「フィスカー」
フィスカー・オートモティブ社は2014年に経営破綻し、その後フィスカー氏が新たに立ち上げたのが現在のフィスカー社だ。
何が特別なのか、というと「EVのビジネスモデルを変えた、EV界のアップル」と評価されている、という点だ。
フィスカーはデザインやアイデアだけを提供し、クルマそのものの制作は外注、さらにテスラ方式で店舗を持たず販売はオンラインを通してのみ、さらにメンテナンスなどのサービスもすべて外注なのだ。
米国では初となるファブレス、つまり自前の工場を持たず製品を提供するEVメーカーとなったフィスカーだが、こうした流れが今世界で進行しつつある。
カギを握るメガ自動車部品「マグナ」
日本も決して例外ではない。例えばトヨタは中国BYDとの提携を発表し、ソニーが発表した独自EVであるVision-Sもマグナ・インターナショナル社が製造を担当した。
マグナ・インターナショナルはカナダに本社を持つ世界5位の規模を誇る自動車部品製造企業で、単なるコンポーネントだけではなく組み立て、システム開発、モジュールなども請け負っている。取引先にはGM、フォード、BMW、メルセデス・ベンツ、トヨタ、テスラなども含まれる。
フィスカーの車の製造を担当するのは、マグナ・インターナショナルの子会社でありオーストラリアを本拠地とするマグナ・ステイヤー社だ(以下、マグナ)。
同社は昨年10月、フィスカーの株式の6%を所有し、フィスカーの新型SUV「オーシャン」の製造を担当することを明らかにした。
韓国のLGと組みEVプラットホームを提供
さらに昨年12月、マグナと韓国LG電子がジョイントベンチャーの立ち上げを発表、社名は「LG マグナeパワートレイン」と仮決定されており、マグナの持つEV用ドライブシステム、クルマ製造のノウハウと、LGの専門性を活かし、電気モーター、インバーター、オンボードチャージャーなどを組み合わせたユニバーサルなEV用プラットホームの提供に乗り出すことになった。
「アップルカー」製造は台湾フォックスコンか?
これに合わせ、現在オーストラリア国内で年間20万台の生産能力のあるマグナの工場を拡張、ゆくゆくは米国内にも工場を立ち上げる計画も進んでいる。
というのも、マグナは噂の「アップルカー」の製造も担当するのでは、という声もあり、今後世界的なEVのプラットホームメーカーとして大きく成長する可能性がある。
一方でアップルとの関係が深い台湾・鴻海精密工業傘下の富士康科技集団(フォックスコン)もEVプラットホーム製造への名乗りを上げている。
同社は中国の吉利汽車(ジーリー)との提携を進めており、MIHと名付けられたEV用オープンプラットホームを作成、年末にはこれを元にした数台のEVを発表する予定だという。
MIHにはシャシー、EVアーキテクチャー、自動運転サポートシステムが含まれており、サイズなどはフレキシブルで様々なEVに対応できる、という。
伏兵は中国資本の米ファラデー・フューチャー
さらにフォックスコンと吉利のジョイントベンチャー企業は、中国の実業家・賈躍亭氏が設立した米新興EVメーカーで米国でのEV製造販売を目指すファラディ・フューチャー(Faraday Future)や、やはり中国の新興EVメーカーであるバイトン(拜騰汽車、南京市)とも提携を深め、これらのメーカーへのプラットホーム提供も視野に入れている、という。
フィスカーも新型SUV「オーシャン」の製造はマグナに委託したものの、さらなる安価で新しいEVの製造についてフォックスコンと提携を結び、プロジェクトPEARとして今後詳細を詰めていく予定も発表した。
ファラディ・フューチャー、バイトンは共に資金繰りの苦しさなどからEV開発が停滞している企業だが、自社での製造を諦めてフォックスコンと吉利のJVに製造を委託することで新たな道が開ける可能性がある。
欧州の隠れたOEM「ヴァルメット」
もう一社、EVプラットホームの製造に乗り出しているのがフィンランドのヴァルメット(Valmet Automotive EV Power)社だ。同社もOEM(相手先ブランドによる製造メーカー)補助としてメルセデス・ベンツ、サーブ、ポルシェなどの製造を担当し、これまで170万台もの車を自社工場で作り出してきた実績がある。
実は2010年にフィスカー・オートモティブの「カルマ」の製造を担当したのもヴァルメットだ。
ヴァルメットの強みはフィンランド国内にバッテリー工場も併せ持っている点で、今年3月にはドイツ国内にもバッテリー工場を建設する、など将来のEV需要に備えた準備を着々と進めている。特に欧州においてはEVコンポーネントの強力なプレイヤーになる、と考えられている。
アマゾン支える米新興EVのリビアンはフォードにも接触
米国内ではGAFAの一角であるアマゾンが米新興EVメーカーのリビアン社にEVデリバリーバン10万台を発注したことが話題だが、リビアンはフォードともEVプラットホーム提供を進めており、現在コロナなどの影響で延期になっているものの、リンカーンブランドのEVプラットホームをリビアンが提供する、という動きもある。
EVはハードでなくソフトの勝負
このようにEVは自社で作るよりも専門的な企業に発注し、デザインとシステムのみをメーカーが担当、という動きは今後加速する可能性が高い。
EVはハードではなくソフトの勝負、とも言われるように、同じプラットホームを使っても内容にどれだけの差をつけられるのかが大事な要素になっていく。
プラットホームだけではない。
充電ステーションなどのインフラ、アフターサービスなど、EVが普及するに連れて関連産業もまた成長する。
バッテリーも含め、どれだけ多くの企業グループを抱えた再編が行えるかが鍵となりそうなのだが、まだインフラやバッテリーなどの面でも遅れを取る日本は、今後のEV化競争を生き残る青写真をどう描いていくのだろう。
(土方細秩子・ロサンゼルス在住ジャーナリスト)