経済・企業注目の特集

「早い!安い!走る!」トヨタもビックリ?日本発EVベンチャーの世界も驚く突破力

    クルマの未来を変える個性的なクルマが続々=金山隆一/大堀達也

     <日本発 世界に飛び出すEVベンチャー>

    2020年8月、イタリアのミサノサーキットで0-60マイルで1.72秒を達成したアスパークのOWL(アスパーク提供)
    2020年8月、イタリアのミサノサーキットで0-60マイルで1.72秒を達成したアスパークのOWL(アスパーク提供)

    「EV(電気自動車)はラジコンカーの延長。これまでクルマの開発に携わっていた人では想定できないスピードで開発し、自動車の開発を統括していた経験を持つエンジニアとは何度もぶつかりました」

     こう話すのは大阪の技術系人材派遣会社アスパークの吉田真教(まさのり)社長。

     アスパークは、停止状態から時速60マイル(約96キロ)までの加速(0─60マイル)で2秒を切るEVスーパーカー「OWL(アウル)」の開発に成功した。限定50台、価格は3億8000万円。製造はイタリアの自動車製造会社に任せ、アスパークは設計とデザインを担当。2012年に企画が浮かび上がってからわずか9年で今年中にも生産を開始する予定だ。(EVベンチャー 特集はこちら)

    マスク氏を本気にさせた

     アウルの開発が始まったとき、0-60マイルで2秒を切るクルマを製造する自動車メーカーはこの世になかった。

     18年2月、栃木県で行った走行試験で1・89秒の記録を樹立すると、世界の自動車業界に衝撃が走り、米EV大手テスラのイーロン・マスク社長を本気にさせたといわれる。いま0-60マイルで2秒を切るEVはテスラ、伊ピニンファリーナ、独ポルシェ、クロアチアのEVベンチャーなど6社以上に達した。

     新興EVから伝統的な自動車メーカー、ベンチャー入り乱れてのEV世界最高加速の開発競争に火をつけたのは大阪の技術人材派遣会社だったわけだ。

    貧者のテスラを目指す

    「Eリキシャ」の後部には、広告を表示できる テラモーターズ提供
    「Eリキシャ」の後部には、広告を表示できる テラモーターズ提供

     アスパークとは反対に「貧者のテスラを新興国で普及させたい」、こんなチャレンジをインドで試みているのがテラモーターズだ。価格は、主力の3輪EV「Eリキシャ」が約20万円。日本で販売されているEVとは比較にならない安さだ。

     しかもモーターとコントローラーは購入後、1年以内に不具合があった場合は無償交換して、低収入の人が3輪EVを商用車として使いやすいようにする。

     インドでは、商用車として2輪、3輪が使われている。それを使う人の収入が低いところに目を付けて、金融事業(自動車ローン)を立ち上げた。クルマを買えない所得層をサポートする。

     さらに、クルマの後部に広告を掲示して、副収入を得られるようにし、それをローンの返済に充てられるようにする。広告はテラモーターズが集める。同社の3輪や2輪のライトモビリティーで「稼ぐ力」が高まる仕組みだ。

     他にも、現地のライドシェアや宅配サービスのプラットフォームを提供するモビリティー企業と提供し、同社のEリキシャを買った人が、より効率的に客を見つけやすいようにして、収入を増やす手伝いをする。すでに、東南アジアでは米配車アプリ大手ウーバー・テクノロジーズをしのぐ勢いの4輪・2輪の配車サービスアプリ大手Gojek(ゴジェック、本社ジャカルタ)などとも協力する。

     2輪EVも22年中に市場投入する予定だ。インドでは2輪の新車販売が年間2000万台にも上る。これをEV化するのが目標だ。販売台数が増えれば、車両の価格も下げられる。日本の2輪新車販売台数が、同36万台とインドの50分の1の市場規模にとどまり、車両価格がどうしても高額になってしまうのとは対照的だ。

     テラモーターズの上田晃裕社長は、「インドの巨大な2輪、3輪市場にEVの車体を供給するメーカーにとどまらず、EVを軸とした総合モビリティーサービス企業を目指す」と意欲を見せる。

    水陸両用EVが公道に

    「FOMM ONE」のタイヤには水の中を進むブレード(羽根)が埋め込まれている
    「FOMM ONE」のタイヤには水の中を進むブレード(羽根)が埋め込まれている

     元トヨタ車体出身の技術者がタイで走行させたのは水陸両用EVだ。日本でも販売され、すでに量産を開始している。川崎市に開発拠点を持つFOMM(フォム)を率いる鶴巻日出夫社長が水陸両用EVに乗り出したきっかけは東日本大震災だった。

     たくさんの人が津波で亡くなったのを見て、「水に浮くクルマが避難所になればいい」と考えた。FOMMを立ち上げ、開発したEV「FOMM ONE」はタイヤにブレードを装備し、水面に浮いて進むことができる。

     それだけではない。軽自動車カテゴリーの4人乗りの実用的な小型EVに仕上がっており、タイでは「セカンドカー」として購入する家庭がじわじわと増えているという。

     タイで実用化してからも、日本では公道を走行できる認可がなかなか下りなかったが、21年1月に軽自動車ナンバーの認可を受け、直販を開始した。

     当初、日本では難しいと考えていたナンバーの認可取得に大きく動き出したのは、19年の東京モーターショーへの出展がきかっけになった。展示スペースに大勢の来場者が詰めかけ、熱心に車体を観察。それが鶴巻氏の背中を押した。

    「そこからの動きは早かった。世界的に脱化石の流れが強まり、EVが求められる世の中がやっと来た」(鶴巻氏)

     FOMM ONEは軽自動車なので、至近距離移動向けの1〜2人乗り超小型モビリティーとは違って、高速道路も走行可能だ。環境意識の高いファミリー層の足としても普及が期待される。

    ヤマダ電機元役員の挑戦

    佐川急便のほかにも問い合わせが殺到している中国の柳州五稜が製造するASFの小型商用EVバン(ASF提供)
    佐川急便のほかにも問い合わせが殺到している中国の柳州五稜が製造するASFの小型商用EVバン(ASF提供)

    「自動車のアイリスオーヤマを作るのが目標。消費者が気にするのは価格だけ」。こう語るのは、宅配便大手の佐川急便に中国製小型商用バン7000台を供給するファブレス(工場を持たない)EVベンチャー、ASF(東京都港区)の飯塚裕恭社長だ。

     ヤマダ電機で35年勤めあげ、取締役兼執行役員副社長まで上り詰めたが、「家電で実現したことが自動車でできないわけがない。100万円を切る価格でEVを出したい」という夢を実現するため、昨年ASFを設立した。製造を委託したのは「広西汽車集団」傘下の「柳州五菱汽車」。

     ここまで大型契約が早かったのは、ヤマダ電機時代からEVの量産化に向け中国の複数の企業に接触していたからだ。柳州五菱は「この部品のエビデンスが欲しいといえば翌週には回答を出してくる」と対応力の高さを評価する。

     佐川に供給する小型商用バンは、パソコンや書類バインダー、紙パック飲料が置ける収納スペースが配置され、配達員の使いやすさを最優先した設計だ。納車は来年9月。価格は200万円以下を目指し、「同サイズの日本のEVより安くし、クルマのライフサイクルコスト(納車から廃車まで)でガソリン車より安くするのが目標」という。

     6月30日には、このASFにコスモ石油マーケティングが出資することが決まり、コスモが進めるカーリースやシェアリングにASFのEVを採用し、充電や整備、車検などのサービスをコスモのガソリンスタンドで提供する。

     創業時に出資した総合商社の双日は、「EVを蓄電インフラと捉えASFとの提携を模索し、ワイヤレス給電や再生可能エネルギーの活用も検討する」という。

     ASFの小型商用バンを配送に活用したいという企業は佐川にとどまらず、法人向けサービス、家庭用宅配などを手掛ける複数の有力企業から5000~1万台の配達用車両の調達で交渉が進んでいるという。

    歓迎するトヨタ

    トヨタも小型EVに参入。昨年12月に発売を開始したシーポッド トヨタ自動車提供
    トヨタも小型EVに参入。昨年12月に発売を開始したシーポッド トヨタ自動車提供

     小型で安価のEVが普及すれば自動車のコモディティー化は進み、自動車産業が生み出す付加価値は確実に小さくなるが、トヨタ自動車は日本における小型EVベンチャーの出現を「新しい技術でプレーヤーが増えることはEVに限らず良いこと」と歓迎する。

     実はEV化の流れにあらがっているかのように見えるトヨタだが、昨年12月には2人乗り小型EV「C+pod(シーポッド)」を発売した。価格は165万円。5時間の充電で150キロ走行でき、当面は企業や自治体向けに販売する。

    「日本での自動車の移動距離は10キロ以内が約6割を占め、乗車人数は2人以下が多い」という国土交通省のデータを重視し「定員と航続距離を割り切ることで、電池搭載量を必要最小限にし、お求めやすい価格にした」(トヨタ)。

    クルマ50万円時代の戦い

     しかし米GMも出資する「上汽通用五菱汽車」が昨年7月に発売した超小型EV「宏光」は、2万8800元(約49万円)という破壊的な価格だ。航続距離は120~170キロとシーポッドとほぼ同じ。発売早々にテスラの販売を上回り、中国のEV販売でナンバーワンとなった。

     トヨタをはじめ日本の自動車メーカーが戦うのは、これら中国勢と柔軟に組むことができるファブレスEVベンチャーになるだろう。

    (金山隆一・編集部)

    (大堀達也・編集部)

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