経済・企業

EUがしつこいくらい「EV」推しなのは、「脱炭素マネー」「保護政策」にあった=遠藤功治

    独VWのEV工場を訪れたメルケル首相(左)とヘルベルト・ディースVW会長(右から2人目) (Bloomberg)
    独VWのEV工場を訪れたメルケル首相(左)とヘルベルト・ディースVW会長(右から2人目) (Bloomberg)

    なぜEVか? ゲーム変えた“脱炭素マネー”と環境策の名を借りた「保護主義」=遠藤功治

     欧州連合(EU)の電気自動車(EV)政策のスピードが一段と加速した。(EV世界戦)

     2035年にハイブリッド車(HV)を含むエンジン搭載車の販売を全面的に禁止する方針だ。50年にEUで脱炭素を実現するために、まず自動車で脱ガソリンを義務づける。EUの欧州委員会は、19年に“欧州グリーンディール”を発表、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出を実質ゼロにするための気候変動対策をまとめる。そして20年末には“EUタクソノミー(Taxonomy)規制”を成立させた。これは26年以降、ZEV(ゼブ)(大気汚染物質や温室効果ガスを排出しない「ゼロエミッション車」)以外の車を、「サステイナブル投資」、すなわち「持続可能性に着目した投資」の対象から外す、というものである。

     この“タクソノミー”という言葉は“分類法”とも訳されるが、EUのEVシフトを加速化させる「ゲームチェンジャー」になりうる。

     EVなど環境車の拡充には莫大(ばくだい)な資金を必要とする。電池開発、ガソリン車工場の転換や新工場建設、再エネ由来電力の使用など電力の脱炭素化、充電施設、雇用減少・従来部品企業の救済策など多様な資金ニーズが存在する。

     EUのCO2排出基準は、26年までに50グラム/キロメートル未満、26年以降はゼロである。HVだけでなくプラグインハイブリッド車(PHV)も基準に抵触し「サステイナブル投資」の対象から外される。その結果、膨大な資金が必要な半面資金調達ができない可能性が高くなるのである。

     その一方で、EVや脱炭素に積極的だと認定された企業は、投資家から認定された資金を呼び込むことができ、株価にもプラスに働くと予想される。この「タクソノミー規制」が本格化し、“脱炭素マネー”が市場経済を動かす原動力になった。それゆえEUはEVに大きくかじを切ったと言える。

     もう一つ、EVシフトはEUの「自動車保護政策」との意見も根強い。メルケル独首相、マクロン仏大統領が頻繁にフォルクスワーゲン(VW)やルノーなどのトップと同じ写真に収まるのは、自動車産業が屋台骨だからだ。GDP(国内総生産)に占める自動車産業の比率は、日本は約10%だがドイツは15%。雇用になると日本の12%に対してドイツは20%に近い。EVへの移行は「雇用を30%以上減少させる」とも言われる。だが、それを守ろうとすれば「レガシー(古い技術)」しか残らない。

    主戦場は決まった

    「自動車発祥の地」は自らの不正で主力「ディーゼル」の信頼を失墜させ、HVも日本勢の牙城になった。国家ぐるみで新分野を開拓しなければ日中韓に駆逐され沈没する。まさに最悪のシナリオだ。

     VWやダイムラーはEU最大の「雇用主」で「納税者」。近い将来導入されるであろう国境炭素税なども、「環境対策」に名を借りた「保護主義政策」の典型とも捉えられるかもしれない。いずれにせよ、EUの自動車分野の「主戦場」はEVと完全に決まった。

    (遠藤功治・SBI証券企業調査部長)

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