資源・エネルギー

「核燃サイクルはやめるべきだ」「青森県に保管料を払え」河野太郎氏が示した首相の決断

河野太郎議員
河野太郎議員

 日本原燃が来年(2016年)3月、青森県六ケ所村に建設を進める使用済み核燃料の再処理工場を完成させると言っている。もともと1997年に完成予定だったのが、相次ぐトラブルによって竣工が22回遅れ、建設費も当初の7600億円から約3倍へと膨れ上がったいわくつきの施設だ。しかも、もし今回、再処理工場が完成しても、この工場を稼働させる必要がそもそもない。プルトニウムを使用する高速増殖炉の商用化が、これも当初は1980年代と言われていたにもかかわらず、いまだメドが立っていないからだ。

 ウラン燃料が原子炉で燃えてできた使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、これを高速増殖炉という特別の原子炉に入れて燃やすと、理論的には投入した以上のプルトニウムを取り出すことができる。これが「核燃料サイクル」と呼ばれる我が国の原子力政策だが、もはや核燃料サイクルは国民にとってまったくメリットがない。それにもかかわらず、政府が昨年4月に閣議決定したエネルギー基本計画では、再処理政策を堅持することをうたっている。

立地自治体との“約束”

 なぜ、経済産業省と電力会社は使用済み核燃料の再処理を強引なまでに進めようとしているのか。

 経産省と電力会社はこれまで、原発の立地自治体に対して、使用済み核燃料は原発敷地内のプールで一時的に保管するが、その後、青森県の再処理工場に搬出されるので、使用済み核燃料は立地自治体には残らないという約束をしてきた。他方、青森県に対しては、使用済み核燃料はプルトニウムを含む重要な資源であるという説明を繰り返し、六ケ所村での再処理工場の建設を認めてもらった経緯がある。また、もし政策が変更され、青森県に運び込んだ使用済み核燃料を再処理しないことになれば、国と電力会社は速やかに「核のゴミ」となった使用済み核燃料を青森県から運び出す約束もした。

 もし、使用済み核燃料を再処理せず直接処分するという政策変更をしたならば、途端に青森県から使用済み核燃料を持ち出さなくてはならなくなる。しかし、原発の立地自治体に対しては、核のゴミは残さないという約束をしているため、原子力発電所に使用済み核燃料を戻すことができない。そうかと言って、青森県から使用済み核燃料を持ち出しても、持っていくところがないのが現実だ。

 そのため、経産省と電力会社は、再処理の継続を明言し、使用済み核燃料の問題を先送りする道を選び続け、巨額の無駄なコストを支払ってでも再処理を進める、あるいは進めるふりをしてきた。そこで、再処理を継続するための理由として、経産省は「再処理はウラン資源のリサイクル」だと言い張った。しかし、使用済み核燃料を再処理しても、再利用できるウラン資源はごくわずかであり、そのために莫大(ばくだい)なコストがかかる再処理に経済的な合理性はない。

 使用済み核燃料の再処理によって再利用できるのは、プルトニウム1%とプルトニウムとともに回収される回収ウラン1%の合計2%にすぎない。残りの回収ウランは不純物が多く、当面、貯蔵しておくしかない。だからほとんどウランのリサイクルにはならないのだ。

河野太郎議員が自ら作成した核燃料サイクルの図
河野太郎議員が自ら作成した核燃料サイクルの図

「有害度短縮」の虚実

 経産省は次の理由付けとして、使用済み核燃料を直接処分すると天然ウラン並みの有害度に低減するまで10万年かかるが、再処理すればそれが8000年(軽水炉のガラス固化体の場合)に短縮されると言い出した。

 しかし、使用済み核燃料にはプルトニウムがすべて含まれているのに対し、再処理するとプルトニウムが分離され、高レベル放射性廃棄物だけが残る。プルトニウムを分離した高レベル放射性廃棄物とプルトニウムを含んだ使用済み核燃料を比較すれば、プルトニウムが取り除かれている分だけ高レベル放射性廃棄物の有害度は低くなるが、取り除かれたプルトニウムもいずれ処分しなければならない。いわばミカン全体とミカンの皮を比較して国民をだましている。

  使用済み核燃料の再処理は、核の安全保障上も問題がある。プルトニウムは核兵器の原料になるため、本来、使用目的のないプルトニウムを保有することはできない。再処理して取り出されるプルトニウムは取り扱いが容易だが、使用済み核燃料は放射能が強く取り扱いが困難で、テロリストがむやみに近づくことはできない。内閣府の原子力委員会も、再処理をした場合と直接処分をした場合を比較して、核兵器に使われる可能性のあるプルトニウムを分離する再処理のほうが危険だと結論付けている。

 日本が高速増殖炉の燃料にするために英仏両国に依頼して取り出したプルトニウムは、内閣府原子力政策担当室によれば国内外で47・1トン(2013年末時点)に上る。さらに、再処理をすれば高レベル放射性廃棄物の体積自体は減らすことができるものの、再処理の過程で直接処分では存在すらしないTRU(超ウラン元素)廃棄物が大量に発生し、低レベル放射性廃棄物も莫大になる。再処理工場の廃止に伴う廃棄物の発生量まで合計すれば、廃棄物体積は4~5倍になる。

最終処分の議論不可欠

 脱原発に踏み出すためには、まず使用済み核燃料の問題と向き合うことを避けるために再処理を続けるという、ばかなことからやめるべきではないだろうか。原発に関する国民的議論が高まる中で、「使用済み核燃料の搬出先がないから核燃料サイクルを動かす」という本末転倒の論理は通用しない。再処理にはまったくメリットがなく、直ちにやめるべきだ。そして、使用済み核燃料の中間貯蔵、最終処分について、逃げずに真正面から議論して、合意形成を進めることが必要だ。

 まず、首相が青森県を訪れ、使用済み核燃料の再処理をやめるという政策変更を行うこと、また青森県内に最終処分場を設置しないという約束は今後も守られることを伝えるべきだ。その上で、青森県内に搬入された使用済み核燃料の保管場所を探す間、使用済み核燃料の保管料を青森県に対して支払うこと、再処理関連施設に代わる経済支援を行うことを明確に伝え、青森県の了解を得ることから、脱再処理がスタートする。

 使用済み核燃料はすでに発生している現実だ。この現実と我々は向き合わなければならない。使用済み核燃料を保管する地域に対する保管料は、原子力発電のメリットを享受した消費者が負担しなければならない。原子力発電は、こうしたコストを考えれば決して安くはないだろう。再処理から抜け出すための第一歩は、青森県としっかり向き合うという首相の決断だ。

(初出:2015年9月15日週刊エコノミスト特大号)第3回 福島後の未来をつくる:河野太郎 衆議院議員 ◇必要なくなった核燃再処理工場 青森県と向き合う首相の決断を

河野太郎(衆議院議員) 掲載時の略歴

 1963年、神奈川県平塚市出身。米ジョージタウン大学卒業後、86年富士ゼロックス入社。日本端子を経て96年、衆院選初当選。神奈川15区で現在7期目。2014年9月から自民党行政改革推進本部長

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事