資源・エネルギー

送電線工事の死者が過去20年で最悪、ドローンでも制御できない地方経済の「深い谷」

送電線とオレンジ日の入り=東京都世田谷区で2020年11月5日、武市公孝撮影
送電線とオレンジ日の入り=東京都世田谷区で2020年11月5日、武市公孝撮影

送電線工事の死者数が2020年に過去20年間で最も多い水準となった。送電線建設技術研究会によると、6人が命を落とした。死亡災害は過去5年が毎年3~4人で推移しており、2010年以降はゼロの年が3回あっただけに、送電工事業界も深刻に受け止めている。

災害の多さに加えて、作業員の〝なり手不足〟も業界にとって大きな課題だ。送電鉄塔は高度成長期に多く建てられ、今がまさに建て替え需要のピーク。しかし人手不足などが相まって、計画通りに進んでいないという。

山奥の過酷な工事は「危険な仕事」

送電線は山奥に建っているものも多い。

メンテナンスが必要かどうかを見定めるため、現場に出向いて高所へ登る必要もある。建て替え需要が多いといっても、建設工事に加えて巡視や保守など様々な作業員の手を介して送電線と鉄塔は維持できている。

彼らは道のないところを数十キロにもなる重たい工具を背負って現場を目指す。

特に夏場は熱中症との戦い。

過酷な重労働だ。ただでさえ若者の人口が減少しており、送電線や鉄塔の工事や保守といった仕事を選ぶ若者は少ない。それでいて死亡災害が過去最多の水準になると「危険な仕事」とのイメージが広がってしまいかねない。

森を伐採して建設された高圧送電線鉄塔=宮崎県綾町で2006年6月4日本社ヘリから、矢頭智剛写す
森を伐採して建設された高圧送電線鉄塔=宮崎県綾町で2006年6月4日本社ヘリから、矢頭智剛写す

若者の確保が難しい地方

さらに地方になると、若者の人数が都市部より少なくなる。総務省の労働力調査によると、2020年の労働力人口(15歳以上)は東京都で前年比約11万人増えているのに対し、北海道は同2万5000人の減少。愛知県や大阪府といった大都市部は東京都と同様に増加しているが、山梨県や三重県、島根県などの地方は同1万人以上も減っている。この統計は労働人口全体の数値だが、若者だけで比較しても同じ傾向が見られるだろう。それだけ地方の送電工事会社が若者を確保するのは難しくなる。

人手不足解消でドローンに着目

 人手不足を解消するため、電力会社と建設工事会社はドローンに着目した。

カメラを取り付けたドローンを送電線の上空や鉄塔に沿わせる形で飛行させて撮影。その画像や動画を確認することで、送電線や鉄塔の状態を把握するというわけだ。巡視のために作業員が工具を背負って山奥に入る必要がなくなるため、安全性も高まるし作業負担も減る。ドローンが撮影した画像を分析し、補修が必要となったら作業員が向かえば良くなる。

送電設備を点検する実験で飛行するドローン=府中市で2020年10月、中島昭浩撮影
送電設備を点検する実験で飛行するドローン=府中市で2020年10月、中島昭浩撮影

大型ドローンで3K解消に期待だが…

 実際に東京電力パワーグリッドなどが出資する事業体は今年3月、送電線の点検を目的としたドローンの飛行実験を茨城県で実施。地上高65メートルの鉄塔上空を自動で飛ぶことに成功した。

巡視に加えて新たな活用方法も考えられている。送電鉄塔の補修部品などをドローンで輸送する取り組みだ。これらは実証段階とはいえ、そう遠くない将来に実用化に至りそうだ。

送電線や鉄塔の巡視、補修用の資機材輸送に加え、大型ドローンに工具を搭載すれば鉄塔上空の作業も行えるかもしれない。そうなれば、いわゆる3K(きつい、汚い、危険)の代名詞ともいえる送電線と鉄塔の建設や補修の仕事も若者受けがよくなるかもしれない。

自動化してもAIでも「最後は人手」の伐採作業

しかし、どれだけ自動化や人工知能(AI)が進んでも、最後は人の手に頼る部分も残る。その一つが送電線を保守するための伐採作業だ。

送電線と樹木が接触すると大規模な停電事故につながる恐れがあるため、定期的に作業員が現場へ出向いて伐採しなければいけない。

一つのエリアで周辺を一気に伐採するなら重機を使うこともできる。

だが送電線の保守現場は一箇所で伐採するのは数本。費用を考慮すると、どうしても人の手で行わざるを得ない。

樹木の内部を見極める「熟練技術者」が消えていく

そしてこれらの作業にも熟練した技術が必要となる。例えば樹木を切る場合、倒れる方向を見定めた上で作業に取り組む必要があるからだ。

熟練の技能者も高齢化し、今後は続々と定年を迎えていくだろう。

送電線工事などに携わる高所作業員と作業責任者は2000年に約7400人いたが、2020年には約5800人にまで減少している。目立たない職種だが、彼らの働きがあるからこそ日本全国どこでも安定した電気を使うことができる。

その人材をしっかり育成しないと、数十年後には鉄塔を建設したり補修したりする作業員が不足して電力の安定供給が守れなくなる。

風車で発電された電力は全てこの線で運ばれる=北海道苫前町で2015年11月12日、手塚耕一郎撮影
風車で発電された電力は全てこの線で運ばれる=北海道苫前町で2015年11月12日、手塚耕一郎撮影

重労働に見合った賃金が必要

 送電線工事業界も危機感を持ち、人材確保に向けた取り組みを進めている。全国の現場を一斉に休業する取り組みなどを始めた。

休暇を取得しやすくなったとはいえ、それだけでは足りない。最良の方法は重労働に見合った賃金を支払うことだろう。そのためにも鉄塔や送電線の建設・保守作業の発注者である電力会社が、適切な価格で工事会社に発注する必要がある。

電力自由化で半減した送電線工事

電力の自由化が進み、電力業界も顧客の獲得競争が激化。経営状況は以前と比べて苦しくなり、資材調達に費やす資金も減らしている。

送電線工事業界の受注実績は1996年に3000億円を超えていたが、2003年には約550億円まで減少。近年は回復してきたとはいえ、2020年は約1560億円に過ぎない。

業界全体の受注額が増えれば給与水準も向上する。就職先としての魅力度も高まる。人材が増えれば休暇も取りやすくなる。このサイクルに至らないと、送電工事業界の人手不足は解決しないだろう。(編集部)

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