豪雨災害をもたらす「線状降水帯」はこうして発生する=鎌田浩毅
「線状降水帯」の猛威/上 豪雨をもたらす積乱雲の連続/60
日本列島では梅雨から夏にかけて豪雨による被害が頻発している。昨年7月の九州豪雨では、熊本県や鹿児島県で24時間の雨量が400ミリ以上を記録した。球磨川の氾濫によって人吉市や球磨村などで浸水や土砂崩れなどの被害が発生し、死者・行方不明者は80人超に達した。
九州豪雨をもたらしたのは、「線状降水帯」と呼ばれる細長く発達した積乱雲である。九州豪雨では、この線状降水帯が11時間半にもわたって停滞を続けた。猛烈な雨が長時間降れば、数十年に1度というこれまで経験したことのないような集中豪雨となり、甚大な被害が発生する。
2017年7月の九州北部豪雨では、線状降水帯により福岡県朝倉市で1時間に129ミリの降水量を記録し、死者・行方不明者が40人超に達した。気象庁では1時間当たり80ミリ以上の雨を最も強い雨の降り方として「猛烈な雨」と表現しているが、それをはるかに超える降水量となり、線状降水帯という言葉が一般に流布するきっかけになった。
「後方形成」現象
また、18年6~7月の西日本豪雨でも線状降水帯が発生し、高知県馬路村では1時間に97ミリの降水量を記録した。死者・行方不明者の総数は240人超に達し、平成以降の風水害として最悪の人的被害となった。毎年この時期は豪雨をもたらす線状降水帯への警戒が欠かせない。
線状降水帯は積乱雲が風に流されて移動する時、雲があった場所に新たな積乱雲が発生して元の積乱雲とつながり、これを繰り返すことでできあがった幅20~50キロ、長さ50~300キロにわたる帯状の積乱雲である。こうした積乱雲の連続発生は「バックビルディング(後方形成)現象」と呼ばれている(図)。
バックビルディング現象では、最初に洋上で大量の水蒸気が立ち上り、暖かく湿った風となって上陸する。山地に近づいて上昇を始めると雨雲となり、最初の積乱雲が発生する。さらに、山地を越えるたびに新たな積乱雲が生まれ、雨雲が成長してさらに激しい雨を降らせる。
これらは大雨を連続的に降らせながら、上空を東に吹く風に流されてゆっくりと移動する。立て続けに後方で新しい積乱雲が生まれれば、前方の積乱雲が衰弱して雨が弱まっても、後方から次の積乱雲が追いかけて強い雨を降らせる現象が起きる。いわば「積乱雲の世代交代」が長時間にわたって維持される状態で、後方からの水蒸気の供給が止まらない限り、積乱雲は同じ場所で発生し続ける。
線状降水帯はこうして、電車がレールの上を進むように移動するので、同じ場所に長時間雨を降らせ続ける特徴がある。そして、線状降水帯が停滞し続ける時間の長さだけ、降水量が積み上がって集中豪雨となるのである。
線状降水帯は以前から確認されていた現象であるが、メディアで頻繁に扱われるようになり、呼称として定着した。次回は線状降水帯のもたらす大水害への具体的な対策を考えてみよう。
■人物略歴
かまた・ひろき
京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。