線状降水帯の災害を「減らす」ための6カ条とは=鎌田浩毅
「線状降水帯」の猛威/下 災害を「減らす」ための6カ条/61
線状降水帯は大雨が同じ場所で長時間にわたり降り続く現象で、海から流入する湿った風が積乱雲を発生させるために起きる。気象庁は観測船から水蒸気量をリアルタイムで収集し、アメダスの湿度計や気象レーダーで予報の精度を向上させている。線状降水帯は近年、各地に大規模な災害をもたらしているが、事前に対策を実施しておけば水害を減らすことが可能であり、今すぐできる6項目を提案しよう。
第一に、防災行動のタイムラインを作成することだ。災害時に発生しそうな状況を前もって想定し、「いつ」「誰が」「何を行うか」を時系列で決めておく。なお、このタイムラインには災害発生時の行動をできるだけ具体的に記述しておくことが重要である。
第二に、水害ハザードマップ(災害予測図)を準備する。この地図を用いて過去に発生した災害の範囲を予測し、安全な避難場所とそこに至る経路を知る。例えば、会社や自宅付近のハザードマップから、浸水の深度、避難場所、救急医療施設、防災機関を確認しておく。ちなみに、ハザードマップは国土交通省と自治体のホームページで公開されており、地域ごとに浸水深(浸水時の地面から水面までの高さ)が記載されている。
第三に、非常用の持ち出しセットを準備する。線状降水帯が過ぎ去った後でも大規模な浸水が起きると電気・ガス・水道などライフラインの復旧に3日以上かかる。よって避難生活の長期化を想定し、少なくとも1週間分の防災グッズを用意したい。具体的には救急医薬品、マスク、現金、雨具、軍手、懐中電灯、ラジオ、電池などを入れて簡単に持ち出せるよう用意しておく。なお、東京都は条例で企業に対し、従業員の3日分の食糧などを備蓄するよう努力義務として課している。
できるところから
第四に、従業員や家族の安否の確認手段を事前に確保する。電話、メール、SNSなど安否を確認し、迅速に情報を共有するさまざまなシステムがある。なお、災害発生時には電話の輻輳(ふくそう)などによって通信が極端につながりにくくなり、長時間にわたり電気がストップすることも考慮しておく必要がある。
第五に、機械設備などの現業をもつ部署では、操業停止となる前に水害対策を実施する。低地の工場やオフィス周辺では浸水に備えて早めに土のうを積み、重要な設備やパソコンなどを高層階へ移動させる。さらに最新データのバックアップをとり、部品の調達や配送のサプライチェーンが滞らないように確認を行うことも重要となる。
第六に、企業であれば事前に事業継続計画(BCP)を策定する。発生した水害を最小限に抑えた後、どのような手順で早く復旧し、事業を継続できるかを短期・長期を含めて具体的に検討しておく。
いずれの準備も、直前の予知がほとんどできない地震・津波・噴火とはかなり異なる。事前に備えておくことで、災害を減らす効果は高くなる。100%の防災でなければ意味がないという完璧主義に陥らず、できるところから用意する「減災」の発想で準備を始めてほしい。
■人物略歴
かまた・ひろき
京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。