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経済・企業 中国3大危機 

中国がLNG輸入で世界一になる時、日本のエネルギー安保に生じるリスク=岩間剛一

上海・洋山深水港のLNGターミナル。昨年に貯水施設を拡張した Bloomberg
上海・洋山深水港のLNGターミナル。昨年に貯水施設を拡張した Bloomberg

LNG 中国が世界最大の輸入国へ 日本のエネルギー安保に影=岩間剛一

 極東アジアのLNG(液化天然ガス)のスポット(随時契約)取引価格が過去最高を更新している。その最大の要因は、中国によるLNGの急速な輸入増加に他ならない。中国は今年、日本を抜いて世界最大のLNG輸入国となる見通しで、LNGの価格形成などで中国が主導権を握ることになれば、日本のLNG調達にも大きな影響が及びかねない。(中国3大危機)

 LNGスポット価格は10月6日、100万BTU(英国熱量単位)当たり56ドル超と、史上最高値を記録している。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う需要の減少により、昨年4月には1・83ドルと史上最安値に暴落していたが、世界的な景気回復とともに上昇。今年10月21日時点でも34・34ドルと高値の水準で、今冬の暖房需要期に向けて価格上昇への懸念が強まる。

 LNG価格上昇には米国での天然ガス生産設備のトラブルなども影響しているが、押し上げ要因として大きいのが中国によるLNG輸入の急増だ。中国は今年に入ってから、電力需要の増加や国内の石炭供給量の削減策などにより各地で停電が頻発しており、発電用のLNG輸入量を増加させている。今年1~8月のLNG輸入量は5181万トンと、日本の5138万トンを抜いて世界最大の輸入国となっている。

 LNGは石炭に比べ炭酸ガスの排出量が半分程度であり、中国はそれ以前からも習近平国家主席が目標に掲げる2060年のカーボンニュートラル(炭酸ガス排出実質ゼロ)達成に向け、炭酸ガス排出削減や大気汚染防止策として石炭火力発電からLNG火力発電への切り替えを進めていた。中国の今年のLNG輸入量は8000万トンを超え、7500万トン程度にとどまる日本を抜き、通年で世界一となることが確実視されている(図1)。

 日本は1次エネルギー(加工されない状態で供給されるエネルギー)のうち天然ガスが22・4%(19年度)を占めており、ほとんどがLNGとして輸入される。中でも、発電用ではLNGは37%と最大の電源だが、国内市場の縮小や再生可能エネルギーの普及もあり、今後も大幅に増加するとは見込みにくい。

一体化が進む世界市場

 世界の天然ガス市場は今、大きく変化している。10年ほど前までは、米ルイジアナ州ヘンリーハブ渡しを指標とする北米市場、欧州とロシアを結ぶ天然ガス・パイプライン・ネットワークによる欧州市場、四方を海に囲まれ、LNG輸入に依存するアジア市場の3市場に地理的に分断され、天然ガス価格も北米市場は100万BTU当たり3ドル、欧州市場は8ドル、アジア市場は18ドルといったすみ分けがあった。

 特に、日本をはじめとしたアジアは、原油価格に連動した長期契約のLNG輸入が中心だった。しかし、カタールや米国からのLNG輸出が増え、現在の需給関係を反映したLNGのスポット取引もそれにつれて増加すると、欧州諸国の天然ガス価格とアジア諸国のLNG価格に裁定が働くようになり、世界の天然ガス価格・LNG価格は一体化が進んでいる。

 LNG価格と原油価格の連動性の高まりも見逃すわけにはいかない。LNG価格が高騰し、原油価格換算で米国産標準油種(WTI先物)の2倍以上となると、アジア諸国で天然ガス火力発電から石油火力発電への切り替えが進む。その結果、原油需要が増加して原油価格上昇の要因となる。サウジアラビア国営石油サウジアラムコは、足元でLNG価格の高騰により日量50万バレルの石油需要の増加が発生していると推計している。

 1969年に日本がLNG輸入を開始してから50年を超えた。天然ガスをマイナス162度に冷却し、液化して体積を600分の1とする高度な技術を先駆的に築き上げ、世界最大のLNG輸入国として日本は国際LNG市場における指導的な地位に君臨してきた。しかし、中国が世界最大のLNG輸入国となると、そのインパクトは計り知れない。

「買い負け」の悪夢

 第一に、LNGの売買取引におけるバーゲニング・パワー(価格交渉力)が低下することが挙げられる。LNG購入の取引量が多ければ、買い手は売り手に対して強い取引交渉力を持つことができる。中国は強大化するバーゲニング・パワーを背景にLNGスポット取引を行えば、今年初めの寒波来襲時のように日本はLNGのスポット取引で買い負ける場面も増えてくる。

 第二に、LNG価格の指標性の主導権争いにとっても、日本は不利な状況となる。東京商品取引所は来年4月にもLNG先物市場の創設を計画し、LNGを円建てで取引しながら東アジアの指標価格とすることを目的としている。しかし、今後は中国が世界最大のLNG輸入国として、LNG価格形成の主導権を掌握する可能性が考えられる。

 例えば、日本はかつて世界最大の石炭輸入国であり、豪州─日本間の石炭輸入価格が国際石炭貿易の指標価格だった。しかし、10年代半ばに中国が世界最大の石炭輸入国となってからは、豪州─中国・河北の石炭輸入価格が国際指標価格となり、中国による発電用一般炭の輸入動向が、国際石炭価格を左右するようになっている。

 第三に、日本はLNG輸送、LNG受け入れ基地、LNG火力発電の高度なノウハウを持っており、アジアにおけるLNG貿易の指導的な地位を維持しようと、米国とともにインドネシア、タイ、ベトナム、フィリピンなどの東アジア諸国へのLNG関連のインフラ輸出を構想している。しかし、中国がLNG輸入のノウハウを蓄積すると、強力な競争相手となる可能性が高い。

 アジアでは今後もLNG需要が大幅に伸びることが見込まれ(図2)、経済産業省は昨年3月、日本企業によるLNG取扱量を30年度に1億トンとすることなどを目標に掲げた「新国際資源戦略」を策定した。アジアの炭酸ガス排出削減とエネルギー安全保障の向上に寄与することを目的としているが、その目前には中国が大きく立ちはだかっている。

(岩間剛一・和光大学経済経営学部教授)

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