国際・政治注目の特集

電力不足、不動産デフォルト、IT企業規制の3大危機が中国経済を襲う=高口康太、村田晋一郎

    「照明もエアコンも止まる」 世界から向けられる不信の目=高口康太/村田晋一郎

     <世界を襲う中国3大危機>

    「生産ラインの電気だけは確保しなければと、オフィスや廊下は照明もエアコンも止めた。暑い時期だったので大変だったが、どうにか停電だけは免れた」(中国3大危機 特集はこちら)

    電力制限の影響を受けたジェネシスの中国現地法人の建物(広東省深圳市) 高口康太氏撮影
    電力制限の影響を受けたジェネシスの中国現地法人の建物(広東省深圳市) 高口康太氏撮影

     広東省深圳市に現地法人があるODM(電子機器受託開発製造)のJENESIS(ジェネシス)。藤岡淳一社長CEO(最高経営責任者)は今なお警戒を解かずにいる。ジェネシスはJNSホールディングス(HD)の中核子会社で、中でも中国のIT企業の集積地である深圳の拠点は競争力の源泉だ。しかし、その重要な拠点がまさかの電力不足に見舞われている。

     すでに8月下旬には、広東省東莞市、恵州市の取引先から、週に2〜3日は停電で工場が操業できないとの連絡が入っていた。それでも、原子力発電所も立地する深圳なら大丈夫だろう。そんな甘い期待は9月下旬には覆された。現法の工場が立地する工業団地の管理事務所から節電要請が送られ、使用電力量の数値目標を少しでもオーバーすれば電力を止めるという厳しい内容だ。

     中国全土で今夏、深刻化した電力不足。遼寧省大連市にソフトウエア開発の現法があるテクノプロックス(東京・墨田区)の若狭谷亘代表取締役も「オフィスビルから節電要請があった。決められた電力消費量を超えれば、ビル全体の電源を落とすという高圧的な通知に驚いた」と嘆く。エレベーターは1基しか動かず、廊下もトイレも消灯された。オフィスが停電すればサーバーもネットワークも止まるため、事業は綱渡りだ。

    恒大の「ゴーストタウン」

    工事が終わっていない中国恒大集団のマンション(江蘇州南京市) Bloomberg
    工事が終わっていない中国恒大集団のマンション(江蘇州南京市) Bloomberg

     江蘇省南京市など中国各地では今、不動産大手の中国恒大集団が手掛けるマンションの建設工事が止まり、ゴーストタウンのような光景が広がっている。高騰する不動産価格抑制のため、中国政府が昨夏以降、不動産開発業者に対する締め付けを強化し、資金繰りに行き詰まる業者が出始めた。日本総合研究所の関辰一主任研究員は「中国では昨年9月ごろから、今回の締め付けの標的は恒大集団だといううわさが広がっていた」と明かす。

     総資産2兆3000億元(約40兆円)の巨大不動産グループである恒大集団。創業者の許家印会長は2017年、個人資産2700億元(約5兆円)と中国一の富豪にもなった人物だ。その許会長は今、香港にある豪邸を抵当に入れたと現地メディアに報じられる。巨額の債務返済のため、中国当局から個人資産も処分するよう促されたもようだ。

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     今年に入って華夏幸福基業を皮切りに、花様年、当代置業など不動産開発業者のデフォルト(債務不履行)が相次ぎ(表)、米ドル建て債などを保有する海外投資家にも信用不安が飛び火する。ただ、中国政府も安易に救済するわけにいかない。三井住友トラスト基礎研究所の安田明宏主任研究員は「古い体質の象徴である不動産業界を救済すると、経済にモラルハザードが起きかねない」と指摘する。

     電力不足や不動産業者の信用不安は、中国経済全体に影響が表れている。中国国家統計局が9月に発表した、2021年7〜9月の実質国内総生産(GDP)成長率は、前年同期比4・9%増と前期(7・9%増)から失速。業種別では、電力不足の影響で製造業の実質GDPが4・6%増と全体の伸びを下回ったほか、不動産業と建設業はそれぞれ1・6%減、1・8%減とマイナス成長に陥り、中国の成長の足を大きく引っ張る(図1)。

    ハイテク株価は半値に

     中国は世界のGDPの17%(20年)を占めており、大和総研の試算では中国の成長率が1%下がると、世界の成長率を0・2ポイント押し下げるという。実際、国際通貨基金(IMF)は10月12日、21年の世界の実質成長率見通しを5・9%と、前回7月の予測から0・1ポイント引き下げたが、資源価格の高騰や物流の停滞など供給制約に加えて、中国の見通しの引き下げ(0・1ポイント引き下げて8・0%)も要因の一つだ。

     三井住友DSアセットマネジメントは、今後の中国経済について、21年10〜12月の3・9%増を底に、22年は5%台で推移すると見ている。同社の市川雅浩チーフマーケットストラテジストは「中国の成長ペースが鈍化すると、2ケタ成長を続けていた時期(00年代)に比べて、日本経済や世界経済が中国から受ける成長の恩恵の度合いは低くなる」と指摘する。

     ネットサービス大手の騰訊控股(テンセント)をはじめ、世界の時価総額ランキングでトップ10入りも珍しくなくなった中国企業。しかし、中国政府は今、独占禁止法などを駆使してこうした企業への統制も強める。テンセントをはじめ中国のハイテク企業は株価が大幅に下落し、米国に上場するハイテクなど中国企業で構成するナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数も、21年2月のピークから8月末には半値にまで下落した(図2)。

    「中国はこれまでIT企業への規制が緩く、成長の原動力になっていた」と丸紅中国の鈴木貴元経済調査チーム長は語る。そうした源泉が突然の規制強化によって失われれば、自由な研究開発にブレーキがかかる。ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が「中国のハイテク株は今、受難の時」と言うように、海外投資家の視線も厳しさを増している。中国が世界から向けられる不信をぬぐい去るのは容易ではない。

    (高口康太・ジャーナリスト)

    (村田晋一郎・編集部)

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