資源・エネルギー注目の特集

再生可能エネルギーの拡大を急いだ欧州は 化石燃料の逆襲を受けている=神崎修一/斎藤信世

    化石燃料の逆襲に遭う欧州 日本は「悪い円安」の重荷=神崎修一/斎藤信世

     <円安 原油高 日本を直撃>

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    「欧州は化石燃料の逆襲を受けている」。欧州エネルギー取引所の高井裕之上席アドバイザーは、欧州で発生した電力危機をこう解説する。(円安 原油高 特集はこちら)

     欧州は、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を世界的にけん引する地域だ。風力や太陽光などの再生可能エネルギーへの転換を進め、シンクタンクの英エンバーなどによると、欧州連合(EU)における総発電量に占める再エネの比率は38%となっている。火力発電の燃料も石炭から二酸化炭素の排出が少ない天然ガスにシフトしている。しかし今夏は天候に恵まれず、風力など発電量が大きく落ちた。

     石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によると、10月現在で欧州の天然ガス貯蔵率は77%と前年10月(95%)に比べて落ち込んでいる。そこにコロナ禍からの回復で電力需要も増大した。

     その結果、天然ガス価格が高騰し、電力需要が高まる厳しい冬を迎える前に電力危機を引き起こした。天然ガスの指標である「オランダTTF」は、1年前の1メガワット時当たり15ユーロから一時120ユーロまで上昇。足元でも80ユーロで推移している。一時的に8倍に高騰し、いまでも高水準が続く。

     欧州の天然ガス急騰のあおりを受けて、本来連動しないはずの液化天然ガス(LNG)価格も上昇。北アジア向けスポット(随時契約)LNGの指標であるJKM(ジャパン・コリア・マーカー)は、日本や韓国に入ってくるスポットベースで、100万BTU(英国熱量単位)当たり6ドルから50ドル超に上昇し、足元でも30ドル前後と高値止まりしている。50ドルという価格は、原油換算で1バレル=約290ドルにも相当する。

    「パーフェクトストーム」。前出の高井氏は、今回の欧州電力危機をこう表現する。最悪の事態が同時に起こったという意味だ。

    世界各地で「負の連鎖」

    COP26で演説するジョンソン英首相 Bloomberg
    COP26で演説するジョンソン英首相 Bloomberg

     米国では8月末に南部を襲った大型ハリケーン「アイダ」により、メキシコ湾周辺の石油・天然ガス関連施設が大規模に操業停止を余儀なくされた。ブラジルでは過去最悪レベルの干ばつに見舞われた。ブラジルでは総発電量のうち6割超を水力発電が占めるため、火力発電に頼らざるを得ない状況だ。そのため海外からのLNG調達も増やしている。

     中国では9月以降、各地で停電が頻発している。主力電源である石炭が不足し価格も高騰していることが原因の一つとみられている。中国がスポットのLNG市場で“爆買い”を始めるなど、天然ガスやLNGの世界的な争奪戦が、欧州に前代未聞の電力危機を引き起こした。

     日本エネルギー経済研究所の小山堅首席研究員は「今回の価格高騰の特徴は、原油やガス、LNG、石炭などほぼすべてのコモディティーが、さまざまな地域で同時多発的に価格が上昇していることだ。このような例は今までにない」と指摘する。

     スポットのLNG価格が上がっても、日本は長期契約だから問題ないとは言い切れない。LNGも脱炭素、脱化石燃料のカテゴリーに含まれれば、20~30年の長期契約は、カーボンニュートラルに反する行為と映るからだ。

     今回の欧州電力危機は、中長期的な化石燃料の位置づけを大きく左右するかもしれない。

     ポイントは、天然ガスやLNGを化石燃料として石炭同様にエネルギー源とはしないとするかどうか。この点については、「欧州の電力危機が、天然ガスやLNGの重要性を再認識させる追い風」と高井氏は指摘する。石炭同様に天然ガスやLNGも脱炭素に向け使用不可とすれば、世界的な電力不足を招き、経済社会活動は大混乱するとの懸念が強まったからだ。「カーボンニュートラルを目指すなら、過渡的に温室効果ガス排出が石炭よりも少ない天然ガスやLNGを使いながら、再エネやアンモニア、水素などの代替エネルギーの開発を進めるといった現実的なロードマップを描くべきだ」(エネルギー専門家)との声も出る。

     油田やガス田への投資(20年)はコロナ前に比べ約3割減となった。脱炭素へ急速にかじを切ったことで起こりうる「副作用」も懸念される。JOGMECの野神隆之首席エコノミストは、「原油や天然ガスへの投資が滞ってしまうと、今後10年程度で生産量に影響が出てしまうだろう。この間にカーボンニュートラルへの取り組みを急速に進めることは難しい。このままではエネルギー価格の高騰を招き、世界経済にとってハードランディングになりかねない」と指摘する。

     22年冬に大寒波が襲来することになれば、原油、天然ガス、LNGなどの価格はさらに高騰し、世界を大きく揺るがしかねない。米国産標準油種(WTI)価格が1バレル=100ドルにまで達するとの予測もある。特にエネルギーの大半を輸入に頼る日本への影響は甚大だ。ドル・円相場は1ドル=113円前後(11月9日現在)で推移しており、さらに円安が進むことになれば、海外からの調達価格が上昇し、企業収益は大きく圧迫される。まさに「悪い円安」の状況だ。原油高、ガス高、円安の「三重苦」の状況が続けば、日本経済に大打撃となるのは間違いない。

    (神崎修一・編集部)

    (斎藤信世・編集部)

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