経済・企業注目の特集

インフレ、利上げ、議会… 緩和縮小で増幅するリスク=種市房子

 米国は11月の感謝祭、ブラック・フライデー、12月のクリスマスと年末商戦を控える。全米小売業協会(NFR)は、2021年の年末商戦の小売店売上高が過去最高の8434億~8590億ドル、日本円にして90兆円超に上る見通しだと発表した。この数値は、飲食店や自動車、ガソリンスタンドでの消費は除いたものだ。NFRは、給与の上昇や家計収支の好調ぶりを背景に消費者の購買意欲が旺盛になっていると分析する。(危ない!米株高 特集はこちら)

豆腐が店頭から消えた

 しかし、旺盛な消費意欲が裏目に出る可能性が高まっている。物流・供給網の混乱、人手不足が深刻化しているのだ。メリーランド州に在住する50代の日本人女性は「10月にスーパーに豆腐を買いに行ったら入荷1カ月待ちだった。友人が日系ディーラーに新車を買いに行ったら、在庫は派手な色の1台だけだったので購入を諦めざるをえなかった」と語る。

 供給網の目詰まりなど「経済のゆがみ」はインフレをもたらしている。11月10日に発表された10月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比6・2%と約31年ぶりの上昇幅を記録した。これを受けてダウ工業株30種平均、S&P500指数、ナスダック総合指数終値はそろって下落した。

 インフレは10月でピークをつけた様相がまったくなく、数カ月は高い水準での推移が予想される。ニッセイ基礎研究所の窪谷浩主任研究員は「足元で住宅価格の高騰を背景に家賃上昇に弾みがついており、今後の物価押し上げ要因となるため、家賃の動向は要注意」と指摘する。

 インフレは、株式市場の一大リスクになっている。S&P500指数をはじめ、米主要株価指数は史上最高値圏で推移するが、市場関係者は熱狂することなく金融政策の行方を警戒する。

 米連邦準備制度理事会(FRB)は11月2~3日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、テーパリング(量的緩和の縮小)開始を決定した。コロナショックを受けて20年3月から国債などを大量に購入する「量的緩和」を行ってきたが、11月半ばから買い入れ規模を縮小するのだ。テーパリングは、これまで急ピッチで上昇してきた株高の終焉(しゅうえん)につながる。

 市場の関心は既に、22年6月にも見込まれるテーパリング終了後の利上げに移っている。利上げは、インフレと密接にかかわる。物価上昇が顕著ならば政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の引き上げも必要になるからだ。

 供給制約や物価上昇の影響が懸念される年末商戦の時期と同じくして、連邦議会では12月3日に暫定予算期限を迎える。9月の米株下落の引き金となった債務上限問題がくすぶる。

 企業成長力の順調さから今後も、米株式市場は右肩上がりで推移するだろう。しかし、テーパリングの影響、インフレ、利上げ、議会情勢は一時的な下落要因となりうる。日本でも米株式やETF(上場投資信託)への投資家が増えており、押し目買いのチャンスとなりそうだ。

(種市房子・編集部)

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