経済・企業

米経済の足を引っ張る物流目詰まり 来年7月には西海岸港湾スト期限が……=井上祐介

年末繁忙期を乗り越えても、来夏のスト期限がたちはだかる(ロングビーチ港) Bloomberg
年末繁忙期を乗り越えても、来夏のスト期限がたちはだかる(ロングビーチ港) Bloomberg

インフレリスク1 港湾の混乱で滞る物流 労使交渉決裂なら封鎖も=井上祐介

 米国の2021年7~9月期の実質GDP(国内総生産)成長率は前期比年率プラス2%と4~6月期の同プラス6・7%から大幅な減速となった。半導体不足を主因とする自動車の供給制約が大きく影響したが、コロナ禍からの経済活動の正常化に伴う物流遅延やサプライチェーン障害も各所で顕在化しており、経済の下押し圧力になっている。(危ない!米株高)

 象徴的なのが、全米に輸入される貨物取扱量の4割を扱う、西海岸のロサンゼルス港とロングビーチ港での混乱だ。パンデミック(感染爆発)下での政府による大規模な所得移転策や活動制限によるサービス消費抑制の結果、財消費が大幅に盛り上がり、貨物取扱量は前年比3割増で推移している。

 一方、港湾の荷役労働者や内陸輸送を担うトラック運転手などが不足しており、輸入の急増に対応できていない。この結果、10月には入港待ちと入港分を合わせた周辺のコンテナ船が100隻を超えた。また、混雑回避を狙い東海岸の港へ迂回(うかい)する動きが生じた結果、港湾の混雑問題は全国に波及、貿易の不均衡により米側では大量の空きコンテナが発生する事態となった。

年末商戦に悪影響

 バイデン政権は10月中旬、こうした物流のボトルネックを解消するため、ロサンゼルス港の24時間体制での稼働開始を発表した。また、港湾に滞留するコンテナへの対応策として、海運業者に対して1日単位で罰金を科すことになった。米国では年末にかけてクリスマス商戦前の繁忙期を迎えており、このままでは商品配送が間に合わないリスクが高まっている。中国との経済活動を切り離す「デカップリング」や国内への製造業回帰などの政治的な掛け声とは裏腹に、消費財の多くは中国をはじめとする海外からの輸入に依存する状況が浮き彫りになっている。

 供給制約は簡単に解消されそうになく、足元のインフレの悪化要因にもなっている。春ごろから目立ち始めた物価上昇は一部の商品に限られており、一時的な現象だといわれ続けてきた。しかし、物流や労働市場の回復過程を観察すると、パンデミックで生じた経済活動のさまざまなゆがみが元通りに復旧するまでにはタイムラグが生じる。インフレはエネルギー価格の上昇で幅広い分野に波及し始めており、22年にかけての米国経済の最大のリスクになりつつある。

 22年には西海岸の港湾の労使協約の更新時期も到来する。米西海岸の29の港湾の船会社70社超やターミナルオペレーター(運営事業者)などの使用者側を代表する米太平洋海事協会(PMA)と約1万5000人の労働者が加盟する国際港湾倉庫組合(ILWU)が現協約の期限である7月までに交渉を行う。02年には改定交渉が決裂し、ILWUが意図的に作業遅延を行ったとしてPMAが港湾封鎖に踏み切り、大混乱となった。14年にも期限内に交渉がまとまらず、当時のオバマ大統領が仲裁に乗り出すなどで15年2月にようやく合意したが、1日当たり20億ドル(当時のレートで約2400億円)の損失が発生したとされる。

 パンデミックが猛威を振るう中、港湾労働者は1年半にわたり、感染リスクと向き合いながら業務を行ってきた。労働市場では人手不足の深刻化で賃金上昇が続いている。また、バイデン政権は労働者保護や所得再分配を重視しており、交渉力は使用者側から労働者側へシフトしつつあるとみられる。インフレが高止まりする中、早期に交渉がまとまらなければ、米国経済にとってのリスクとなろう。

(井上祐介、丸紅経済研究所チーフ・エコノミスト)

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