マーケット・金融

原油高騰 消費税1・7%分の負担増 経済成長を鈍化させる=永浜利広

     原油価格が高騰している。ドバイ原油はこのところ1バレル=80ドル台で推移しているため、既に経済活動に影響が及んでいる。一方、円も対ドル減価(円安)していることもあり、円建てドバイ原油先物価格はさらに上昇している。(円安 原油高)

     原油価格が上昇すれば、企業の投入コストが上昇し、その一部が産出価格に転嫁されるため、変動費の増分が売上高の増分に対して大きいほど利益に対する悪影響が大きくなる。

     また、価格上昇が最終製品やサービスにまで転嫁されれば、家計にとっても消費者物価の上昇を通じて実質購買力の低下をもたらす。そうすると、企業の売り上げへも悪影響が及び、個人消費や設備投資を通じて経済成長率にも悪影響を及ぼす可能性がある。

     まず、原油高が企業活動に及ぼす影響として、ガソリン価格の上昇がある。事実、レギュラーガソリンの全国平均価格は7年ぶりの高値となっている。原油価格の上昇で反応するのがガソリンや軽油、灯油の価格だ。これらの燃料が値上がりすれば、特に物流を要する寒冷地においては、冬場にかけて企業の負担が非常に高まることが懸念される。また、原油先物価格が上がれば、化石燃料から作られる電気やガス料金も3~5カ月のタイムラグを伴って値上がりする。

    穀物価格への影響も

     さらに、原油価格の上昇は船の燃料となる重油やビニールハウスの温度調節に使われる業務用ガソリンなどに影響するため、第1次産業にとっては負担増となり、場合によっては収穫された魚や野菜、果物などの値上がりにも結び付く可能性がある。

     他方、世界的にガソリン価格が上がれば、その代替エネルギーとなるバイオ燃料の需要が増える。このため、バイオ燃料の原料となる穀物の値段も上がる。例えば小麦の価格が上がれば麺やパン、菓子類に影響がでるほか、大豆であれば大豆製品や調味料、トウモロコシなら家畜のえさを通じて肉や乳製品の値上がりも誘発されるだろう。

     このように、原油先物価格の上昇は幅広く企業活動の負担増に結び付くことになる。これから冬にかけては、経済規模の大きい北半球で暖房需要が増えるので、急激な原油価格の下落は想定しにくい。当面の間、企業は原油高に伴う負担増を強いられる可能性が高い。

     そこで、家計への影響を見てみよう。原油価格が上昇すると、タイムラグを伴って消費者物価に押し上げ圧力が強まることがわかる。事実、2006年1月以降の原油価格と消費者物価の相関関係を調べると、円建てドバイ原油価格のプラス1%上昇は6カ月後の消費者物価を約0・0126%押し上げている。

    家計負担約3万円増

     より現実的な家計への影響について、昨年度の原油先物価格が平均1バレル=44・7ドルだったことを基に今年度平均の原油価格の水準を試算すれば、今年度後半以降の原油先物価格が平均80ドルもしくは90ドル程度で推移した場合には前年比でそれぞれ66・8%増、78・0%増になる。

     従って、ドル・円レートが不変と仮定すれば、21年度後半から来年度前半にかけての消費者物価を1バレル=80ドルで0・84%増、90ドルで0・98%程度押し上げる圧力となり、家計に負担が及ぶことになる。そこで、具体的な家計への負担額として20年度における2人以上世帯の年平均支出額約331・4万円(総務省「家計調査」)を基にすれば、21年度後半から1年間の家計負担を80ドルで2・8万円増、90ドルで3・3万円程度増加する計算になる。

     より現実的な経済全体への影響について、内閣府「短期日本経済マクロ計量モデル(18年版)」の乗数を用いて試算するとどうなるか。今年度後半以降の原油先物価格が1バレル=80ドルもしくは90ドル程度で推移したとすれば、21年度と22年度の経済成長率をそれぞれ0・20%ポイント、0・10%ポイント、0・23%ポイント、0・12%ポイント程度も押し下げることになる。このように、原油価格の上昇はマクロ経済的に見ても、無視できない悪影響を及ぼす可能性がある(図1)。

     また、原油価格と日本の交易利得(損失)には強い相関がある。交易利得(損失)とは、1国の財貨と他国の財貨との数量的交換比率である交易条件が変化することによって生じる貿易の利得、もしくは損失のことであり、輸出入価格の変化によって生じる国内と海外における所得の流出入の損失を示す。

     そして、この関係に基づけば、原油先物価格が1バレル=10ドル上がると年換算で1・5兆円の所得の国外流出が生じることになる。そこで、この関係から今年度後半以降の原油先物価格が平均80ドルもしくは90ドル程度で推移すると、今年はそれぞれ4・8兆円、5・6兆円もの所得の海外流出が生じることになる(図2)。これは、原油価格が足元の80ドル台の水準で推移すれば、今年度は消費税率1・7%ポイント引き上げ程度の負担増が生じることを意味する。

    資源高に弱い経済構造

     経済のグローバル化や市場の寡占化が進展して以降、物価がこれまでと比較して世界の需給条件を反映した水準で決まりやすくなっている。特に、新興諸国が経済成長率を高めた03年ごろから、経済のグローバル化が実体・金融両面を通じて商品市況の大きな変動要因として作用している。

     このため、今回もコロナショックから世界経済が持ち直していることで、世界の商品市況は高騰が続いている。特に今後は、経済規模の多くを占める北半球が冬を迎えることにより暖房需要が拡大すれば、世界の原油需要はさらに拡大する可能性もある。従って、今後もしばらくは原油先物価格が高水準で推移し、産油国の石油生産調整次第では中長期的に見ても原油価格が高止まる可能性がある。

     これは、日本のように原油をはじめとした資源の多くを海外に依存する国々とって所得が資源国へ流出しやすい環境になることを意味する。

     特に人口減少などにより国内市場の拡大が望みにくい日本では、内需主導の景気回復は困難であり、所得の大幅な拡大も困難な状況が続く可能性が高い。従って、資源の海外依存度が高い日本経済は資源価格上昇の悪影響を相対的に受けやすく、構造的に苦境に立たされやすい環境にあるといえよう。

     特に足元の個人消費に関しては、厳しい雇用・所得環境や相次ぐ値上げの影響などにより消費者心理の改善は限定的となっている。

     したがって、今後の個人消費の動向を見通す上では、原油価格の高騰といった負担増がタイムラグを伴って顕在化してくることには注意が必要であろう。

    (永浜利広・第一生命経済研究所首席エコノミスト)

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