経済・企業 中国3大危機
香港 民主派団体を解散させる 巧妙すぎる中国の「手口」=ふるまいよしこ
香港 民主派団体を解散させる 巧妙すぎる中国の「手口」=ふるまいよしこ
中国政府による統制が強まる香港で、民主化運動を支えてきた民間団体が相次いで解散に追い込まれている。今年9月には、9万人もの会員を有し、香港最大にして最も歴史のある教職員組合「香港教育専業人員協会」(教協)が解散するなど、運動を支えた組織の弱体化が止まらない。表向きは「自主的」な解散だが、解散に至る経緯からは、中国・香港政府の巧妙な「手口」が浮かび上がる。(中国3大危機)
教協は英植民地時代に設立されて教員の地位向上や待遇の改善を進め、また中国語教育を実現させた「愛国」団体のはずだった。しかし、7月末には香港政府教育局が「近ごろの教協は政治組織になった」として「教協を今後、公的組合として認めない」と宣言。これによって長年、政府教育局と協力して行ってきた教協主催のさまざまな教職員訓練講座が突然「無認可」となり、教協はその収入源が断たれたため運営不能に陥った。
また、天安門事件(1989年6月)の追悼集会を毎年主催してきた「香港市民支援愛国民主運動聯合会」(支聯会)も9月、会員大会を開いて解散した。追悼集会の参加人数は、その年の民主希求度をはかるバロメーターとみなされていた。新型コロナウイルス感染拡大を口実に開催が許可されなかった昨年、その禁令を無視して集会を強行し、同会の李卓人主席と何俊仁副主席が今年4月に有罪判決を受けて服役中のことだった。
10月には労働組合プラットフォーム「香港職工会連盟」(職工盟)も解散を発表。かつては香港全土の労働組合96団体が所属し、参加団体の会員数は15万人を超える最大規模の組織だった。長年、職業訓練講座を開いて求職者の技能向上に努め、近年では建築現場や貨物埠頭(ふとう)で働く底辺労働者の条件改善要求の先頭に立つなど、根っからの労働者のための団体だった。
4割超が「移民希望」
香港メディアによると、今年に入ってから解散した民間団体は50団体を超える。そのほとんどが、教協などこれら3団体と同じく会員大会の投票で「自主的に解散を決めた」ことになっている。実は、こうした組織が解散に追い込まれた経緯には、いくつかの共通点がある。その一つが、中国国営の新華社通信やテレビ局の中央電視台、中国共産党機関紙の『人民日報』などの官製メディアが、団体を名指しで非難することだ。
根拠としてちらつかせるのは、昨年6月に施行された「香港国家安全維持法」(国安法)だ。国安法は中国の全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会で可決・成立し、香港での国家分裂活動や外国勢力との結託などの行為を「犯罪」として処罰する。官製メディアは教協に対し「1国2制度に脅威を与え、国家と特区の安全に危害を与える」などと罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせかけるが、具体的にいかに国安法に触れるのかは論じない。
また、教協とほぼ同時に解散した民主活動団体プラットフォーム「民間人権陣線」(民陣)も、今年初めから官製メディアに「海外の資金援助を受けている」などと一方的にののしられ続けた。こうした状況下で、会員個々に危害が及ぶのを恐れて団体側が解散を決めたり、会員脱退が相次いで存続困難な状況に追い込むのだ。また、支聯会も職工盟も、親中派や政府機関から会員団体が明に暗に恫喝(どうかつ)を受けたことを明らかにしている。
今年12月には、昨年立候補受付後に延期された立法会(議会)議員選が行われるが、今年5月の選挙制度改正により「資格審査委員会」が「愛国者」と認めた人だけに立候補の資格が与えられることになった。中国・香港政府はこれを「愛国者による香港統治」と呼ぶ。
しかし、今年1月に英国が決めた香港人移民受け入れ計画に対して、半年間で香港市民9万人超が申請を行った。香港中文大学が10月に発表したアンケート結果によると、香港市民の42%が移民するつもりだと答えている。「愛国者による香港統治」に絶望した人々は、香港を離れる手段を探し求めているのが現実なのである。
(ふるまいよしこ・フリーランスライター)