経済・企業

低時価総額銘柄をふるい落とすTOPIX改革の本気度=編集部

TOPIX改革 東証再編と分離して進行 低時価総額銘柄は脱落へ

 東証の市場再編と並行して、東証株価指数(TOPIX)の改革も行われる(表1)。背景には、株価指数に連動したインデックス投資の急拡大がある。(東証再編)

 TOPIXはもともと、景気動向を表す経済指標として東証が1969年から算出を開始した。しかし、2000年代に入ってから、公的年金や日銀などによるインデックス運用が急増すると事情は一変する。東証によると、TOPIXに連動したインデックスファンドの残高は、公募や私募の投信、ETF(上場投資信託)などを含め、「21年3月末で73兆円に達する」(情報サービス部)。今や、TOPIX自体が、日本で最大規模の金融商品となっている。

 問題は、TOPIXの構成銘柄が東証1部上場の全銘柄とされていることだ。01年に東証と大証がそれぞれ株式会社化すると、両市場の間で上場企業の獲得競争が勃発。東証は、市場間競争に勝つため、上場基準の緩い東証2部やマザーズを使って、企業を誘致した。未上場企業が東証1部に直接上場するには時価総額で250億円が必要だが、東証2部やマザーズからの“内部昇格”なら40億円で済む。その結果、時価総額や流通株式数が少なく、本来は東証1部に適しない企業が急増してしまった。

「100億円」のハードル

 この結果、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などの公的年金や民間の私的年金は、TOPIXの運用を通じて、これらの企業価値が低い銘柄に投資することになり、受託者責任の点から問題が生じている。運用会社にしても、インデックス運用で株式流動性の極端に低い銘柄を買うのは高コストな上に、「2000社に及ぶ企業の議決権行使も負担」(ニッセイアセットマネジメントの井口譲二チーフ・コーポレート・ガバナンス・オフィサー)という弊害も生じていた。

 そこで、今回のTOPIX改革では、新市場とTOPIXの関係を切り離すことにした。そのうえで、流通株式時価総額が100億円未満の企業について、22年10月以降、順次、TOPIXの構成銘柄から外すことに決めた。

 TOPIXは現在、東証1部に上場する全2183銘柄を対象に算出されているが、時価総額上位500銘柄で、TOPIXの全時価総額の91%を占めている。そのため、流通株式時価総額のハードルを上げ、TOPIX構成銘柄を大きく絞るべきとの声も投資家からは出ていた。しかし、「TOPIXの継続性に配慮すべきとの金融庁金融審議会の答申」(東証の山道裕己社長)もあり、流通株式時価総額100億円未満という水準に落ち着いた。

 TOPIXの組み入れ比率の調整は、具体的には2段階で行われる(表2)。第1段階は、浮動株比率の変更だ。TOPIXはその算出に当たって、企業の単純な時価総額ではなく、時価総額に浮動株比率を掛けた「流通株式時価総額」を使っている。浮動株比率の算定に際しては現在、有価証券報告書に記載された大株主上位10位の保有株や役員保有株、自己株式を除いているが、来年4月からは政策保有(持ち合い)株式も控除する。その結果、持ち合い株式が多い企業ほど、TOPIXの組み入れ比率が下がることになる。

平均2・6%の下落

 第2段階は、流通時価総額100億円未満の銘柄の組み入れ比率の低減で、来年10月から開始される。25年1月にかけ、10段階で組み入れ比率をゼロにする(図)。もっとも、救済措置はあり、23年10月の再評価時に、流通時価総額が100億円を上回るなどの条件を満たせば、組み入れ比率は低減前の水準へ段階的に戻す。基準を満たせなければ、低減は続く。東証の内部の試算によると、今回の低減措置により、約600銘柄、時価総額にして1%がTOPIXから外されることになるという。

 編集部が今年6月末の流通株式時価総額が小さい上位100銘柄の6月末から11月12日までの騰落率を調べたところ、平均下落率は2・6%だった。同じ期間、TOPIXは5・0%上昇している。インデックス以上のリターンを目指すアクティブ運用の投資信託などは、組み入れが外される銘柄を予想して、先行して売っていると見られ、その影響が出ている可能性もある(表4)。

 TOPIX改革の一方、東証は来年4月から新たな株価指数の算出も開始する。新市場の登場に合わせ、東証プライム市場指数、同スタンダード市場指数、同グロース市場指数のほか、派生した指数などを設定する(表3)。「魅力のある指数」(山道社長)の提供で、投資家の多様なニーズに応えたい考えだ。

 だが、現状では、TOPIXと日経平均株価に連動するインデックスファンド以外は、ほとんど普及していない。楽天証券経済研究所によると、TOPIXに連動する公募投信やETFの残高は今年10月末で約37兆円。日経平均連動型が同22兆円、JPX日経インデックス400連動型が3兆円と続くが、それ以外の指数は100億円弱と微々たる数字だ。

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 TOPIX改革は25年1月で終わりではない。流通株式時価総額の低い銘柄の控除が終了した後は、スタンダードやグロースで時価総額が十分に高く、成長力も高い銘柄をTOPIXに組み入れていくことも検討する。GPIFの塩村賢史・投資戦略部次長は、『証券アナリストジャーナル』4月号で、「TOPIXは日本人にとっての白いご飯のようなもの。いまだに代わる指数は出ていない」とコメントした。東証の新しい指数も利用者がなければ、掛け声倒れで終わる可能性が否定できない。

(稲留正英・編集部)

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