経済・企業

22年のドル・円相場は日本人のドル買い継続で円安が加速=山田修輔

物価が上がらない中、21年ぶりに発行された500円硬貨 Bloomberg
物価が上がらない中、21年ぶりに発行された500円硬貨 Bloomberg

 2021年の為替市場で円は年初来、対ドルで9%下落し、主要通貨で最弱通貨の一つとなっている。筆者は今年は“ドル・円強気派”(ドル高・円安)で、その論拠は原油高と金融政策の乖離(かいり)というマクロ要因であった。22年は構造的な海外資産需要とドル高にけん引され、ドル・円上昇基調が続くと見ている。(日本経済総予測2022)

 新型コロナウイルスの「オミクロン株」の出現で、マクロ環境は一転した。その中でも米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、不確実性を強調しながらも、インフレ抑制と政策正常化を進める姿勢を明確にしている。米国経済は22年も堅調が予想され、日欧中との経済面、政策面での乖離はドル高要因である。

 対照的に、円相場はオミクロン株の潜在的な経済影響が判然とするまで、円高と円安のどちらになるか、方向性が決め打ちできない悩ましい状況である。ただ、ドル・円に関しては、米国の利上げが22年6月(早ければ3月)に開始されれば、日米金利差が拡大し、日本の構造的なドル需要に支えられて、ドル高・円安の余地があると見ている。

日銀の緩和は続く

 日本の外貨、特にドル需要は、国内の構造的な投資機会不足によるところが大きい。日本人の対外株式投資は、14年から基本的には買い越し基調だ。また、直接投資勘定においても、赤字基調が続くが、21年は日本企業による海外M&A(合併・買収)が加速している。背景には日本株の相対的に低いROE(自己資本利益率)や日本経済の潜在成長率の低さがあり、特に企業の収益性や成長力が高い米国に資金が向かっていることがうかがえる。

 一方、日本の公的債務残高はGDP(国内総生産)比で主要国の中で圧倒的に高い。日本の場合、対外債権国であるので、基本的には内部の不均衡の問題だが、この債務負担を減らす方法としては、歳出削減、増税、名目金利を上回る名目GDP成長率が考えられるが、少なくとも現時点では、大幅な歳出削減や増税は政治的に支持を得難く、金融緩和で名目金利を抑え、名目GDPを押し上げる政策の継続が想定される。

 逆に日本の物価が上昇し、金融緩和からの出口戦略が可能となる場合、金利が上昇し、財務省は借り換えコストの上昇に直面する。日本の財政負担が市場テーマとなれば、円資産のリスクプレミアム上昇の場面が出るだろう。

 日銀による金融政策正常化は容易ではなく、より長期にわたり緩和的な政策を維持することになろう。政策正常化に踏み込む場合も、正常化の余地はより限定的となる。この状況を変えるには、政府が財政支出を効率化し、日本の潜在成長率を押し上げるなどの措置が必要であるが、そうした兆候は現時点では見当たらない。

 現時点でドル高・円安が進むシナリオの継続を考えている。バンク・オブ・アメリカは基本シナリオとして、ドル・円が22年4~6月期までに1ドル=118円へ上昇、その後円安水準で安定し、107~123円のレンジを想定している。レンジ幅は15%と、マクロの不確実性を反映し過去5年平均の10%より広がると見ている。

(山田修輔、バンク・オブ・アメリカ主席日本為替金利ストラテジスト)

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