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経済・企業 日本経済総予測2022 

アメリカ史上「最も平等な社会」を壊した“企業と株主優先”の思想と政治=中岡望

ニューディール政策を打ち出したフランクリン・ルーズベルト大統領(右)は消費者保護を図り中間所得層の拡大に成功した
ニューディール政策を打ち出したフランクリン・ルーズベルト大統領(右)は消費者保護を図り中間所得層の拡大に成功した

米国史上「最も平等な社会」を壊した“企業と株主優先”の思想と政治

 格差を拡大させたネオリベラリズムは、どのように生まれたのか。その源流である古典的リベラリズム(自由主義)が米国社会を席巻するのは、南北戦争前後に始まる産業革命の時代である。米国経済は1860年から1900年の間に6倍に成長した。(日本経済総予測2022)

 この時代は、初期資本主義の自由放任の時代で、企業家は富を蓄積し、1890年の時点で、所得上位1%の富裕層が全資産の51%、上位12%の富裕層が86%を保有していた。

 労働者は低賃金と劣悪な労働環境のもとで長時間労働を強いられることになる。ストライキは暴力的に排除された。労働組合は非合法であった。

 過酷な労働環境の改善を求める運動が始まり、1892年に労働者や農民の利益を代弁する政党「人民党」が結成され 、ポピュリズムが台頭した。それを受け、「進歩主義運動」が始まり、1890年代から1920年代は「進歩主義の時代」と呼ばれる。代表的な進歩主義の政治家はセオドア・ルーズベルト大統領である。共和党の大統領であったが反企業的で、「スクエア・ディール政策」を掲げ、企業の規制強化、消費者保護を図った。もう一人の進歩主義者ウッドロー・ウィルソン大統領も格差是正のために連邦所得税を導入し、法人税も引き上げた。

 さらにフランクリン・ルーズベルト大統領の「ニューディール政策」が古典的リベラリズムに終止符を打った。古典派経済学の市場至上主義を排して、政府が積極的に市場に介入する政策は「ニューディール・リベラリズム」と呼ばれた。ニューディール政策の本質は「労働政策」であった。33年の全国産業復興法と35年の全国労働関係法(ワグナー法)で、労働組合の団体交渉権や最低賃金制が導入され、賃金も上昇した。

 所得税率は60年代半ばまで80%を下回ることはなかった。意欲的な所得再配分政策で、米国史上“最も平等な社会”を実現した。

 図2に生産性向上率と労働賃金上昇の関係を示した。70年代まで生産性向上率と労働賃金上昇率がほぼ同じ水準にあった。すなわち生産性向上の果実の大半は労働賃金の引き上げに向けられていたのである。

 一方で、資本家を中心とする保守勢力はニューディール・リベラリズムに反撃する。ワグナー法で認めた労働者の諸権利を大幅に修正する「タフト・ハートレー法」が47年には成立していた。最大のポイントは、組合員のみ雇用する「クローズド・ショップ制」を非合法とする「労働権法」である。現在、労働権法を可決している27州では組合活動が大幅に制限されている。

経営者の力が再び強く

経営者の社会的責任は株主価値の最大化だと主張したフリードマン Bloomberg
経営者の社会的責任は株主価値の最大化だと主張したフリードマン Bloomberg

 さらに70年に保守派の経済学者ミルトン・フリードマンが唱えた「フリードマン・ドクトリン」、すなわち「企業は株主のものであり『株主価値の最大化』こそが経営者の『社会的責任』である」という考え方が経営者に浸透し始める。政治的には71年に、後に最高裁判事になるルイス・パウエル弁護士が資本主義の危機を救うために「企業が国家をコントロールすべきだ」とする「パウエル・メモ」を米国商工会議所に提出した。

 これらがレーガノミクスの道を切り開くことになった。70年代に米国が戦後最悪の不況に見舞われると、ニューディール政策の支柱であったケインズ経済学も精彩を欠き始めた。さまざまな市場規制が経済成長を阻害していると批判された。ネオリベラリズムが登場する舞台が整ったのである。

(中岡望)

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