経済・企業注目の特集

30兆円「強制貯蓄」が回復の鍵握る2022年日本経済=浜田健太郎/桑子かつ代

30兆円の「強制貯蓄」が動き出す 個人消費の復活で景気浮上へ=浜田健太郎/桑子かつ代

 南アフリカ政府が11月25日、新型コロナの変異ウイルス「オミクロン株」が発見されたと発表し、世界の株式市場がいっせいにリスク回避の動きを強めた。(日本経済総予測2022 特集はこちら)

 感謝祭(11月25日)の休場を挟んだ米ダウ工業株30種平均は3・4%(11月24日~12月3日)、汎(はん)欧州株価指数欧(Stoxx600)は3・9%(11月25日~12月3日)、日経平均株価は4・9%(同)それぞれ下落した。

 オミクロン株はすでに40を超える国と地域に拡大している(12月6日時点)。世界保健機関(WHO)は「懸念される変異ウイルス」に指定した。感染力の強さが伝えられる一方で、重症化や死亡に至る毒性は、「それほど強くないのでは」との見方もあり、足元の株式市場は見極めまで神経質な展開が続きそうだ。

緩やかな回復へ

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 新たな変異株の出現は想定されていたことであり、2022年の日本経済を展望すると「コロナ禍からの回復」が基本シナリオになりそうだ。主要金融機関やシンクタンク10機関の予想を平均すると、22年度(22年4月~23年3月)の実質GDP(国内総生産)成長率は3・2%。20年度実績(マイナス4・4%)を底に、21年度予想(2・7%)から緩やかな回復との見方が目立つ。もっとも各機関の予想は、オミクロン株の発覚前であることには留意が必要だ。

 新型コロナ拡大から3年目に入る22年もまた、ウイルス禍に翻弄(ほんろう)されるのか。

 第一生命経済研究所首席エコノミストの永浜利広氏は「ワクチン接種が進んだし、来年中には経口薬も普及するだろうから、22年の景気動向はさすがに20年ほどにはならない。景気は改善に向かうだろう」と話す。

 政府は11月、財政支出が過去最大の55・7兆円となる経済対策を閣議決定。18歳以下への給付金(10万円相当、家庭の所得制限あり)や、観光需要喚起策の「GoToトラベル」、10兆円規模の大学ファンド、国土強靱(きょうじん)化策などを盛り込んだ。岸田政権の経済対策について永浜氏は、「GoToや国土強靱化はすぐに効果が出そうだが、大学ファンドなどはすぐには出ない。給付金は、少しは消費に回るだろうが、消費税の軽減税率(標準税率10%に対して8%)を期限付きでさらに減税したほうが効果は大きい」と指摘する。

観光復活なるか

 年明け1月中旬以降と見込まれる“GoTo再開”を待望するのが、需要消失により甚大な被害を受けた観光業界だ。19年に約28兆円あった日本人の旅行消費額は、21年1~9月期で約6兆円にとどまる(図)。日本旅行業協会の池畑孝治事務局長は、旅行・観光業の現状について、「9月末に緊急事態宣言が全国的に解除されて、徐々に人の動きが増えてきた」と期待をにじませる。

 観光業界が待望するのが、ワクチン接種や検査による証明を前提に旅行など移動の行動制限を緩和する「ワクチン・検査パッケージ」の定着だ。10月に観光庁が同パッケージの実証実験を実施し、旅行各社が参加した。実験成果について池畑氏は、「約800人が参加したが感染者は出ていない。旅行者にも感染防止のエチケットを守ってもらい、新しい旅のスタイルを確立したい」と強調する。

局所的なバブル化

デパートの高級時計売り場。「ロレックス」などは品薄が続く(21年7月、名古屋のジェイアール名古屋タカシマヤ)
デパートの高級時計売り場。「ロレックス」などは品薄が続く(21年7月、名古屋のジェイアール名古屋タカシマヤ)

 22年の景気を占う上で鍵を握るのが、個人消費の回復だ。21年はコロナ禍前の水準に比べ6%程度下落。一方で、この間の行動制約で、家計に“強制的にため込まれた貯蓄”は、30兆円に迫る規模とみられる。この「強制貯蓄」がどれだけ消費に流れ出すかが焦点だ。

「成長と分配の好循環」を掲げる岸田文雄首相は11月26日の「新しい資本主義実現会議」で、22年春闘で「業績が回復した企業には3%超の賃上げを期待する」と述べ、消費喚起に効果的な賃金上昇に意欲を示した。岸田首相は来年度税制改正でも、企業に賃上げを促す優遇税制の拡充を目指す。

 一部の消費現場には明るさが戻っている。三越伊勢丹ホールディングスでは、11月の既存店売上高が前年同月比14・5%増え、3カ月連続で前年を上回った。「富裕層だけでなく、中間層が高額品を買うことが増えてきている」(広報担当者)という。

 一方で、株高など資産価格の高騰を受けて、通常の消費行動とはかけ離れた動きが顕在化している。高級腕時計の市場を見ると、その代名詞的ブランドであるスイスの「ロレックス」の人気モデル「デイトナ」は、定価(約145万円)で売る正規販売店では入手困難で、並行輸入品店では460万円と3倍の値が付く。時計専門誌『クロノス日本版』の広田雅将編集長は、「ビットコイン投資などでもうけた人などが、機械式高級腕時計の希少性に目を付けて、転売利益を狙う投機的な動きが広がっている」と指摘する。

 都市部ではマンションの値上がりが顕著だ。調査会社の不動産経済研究所によると、10月に首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)で発売された新築マンションの平均価格は1戸当たり6750万円(前年同月比10・1%増)と同月では過去最高値となり、通年でも同様の見通しだという。同研究所では人手不足や建築資材の高騰を背景に挙げている。このほか夫婦共働きで高収入の「パワーカップル」による購入意欲の高まりも要因とみられる。一方で、「パワーカップルのような、限られた人たちしか買うことができない価格帯は持続しないだろう。早ければ来年にも下がり始める可能性がある」(業界関係者)といった先行き慎重な見方もある。

 コロナ禍の3年目は、緩やかな回復から繰り越し需要の爆発による“リベンジ消費”で景気が加速する可能性がある一方、カネ余りが生んだ局所的バブルが弾けて景気を冷やすリスクがくすぶる。

(浜田健太郎・編集部)

(桑子かつ代・編集部)

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