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予約殺到で即満員! 「冬キャンプ」が熱い今だからこその理由=SAM

冬のキャンプに参加者殺到 新規事業としても大きな魅力=SAM

 緊急事態宣言が9月末に全面解除されて2カ月がたったいま、冬のキャンプは反転攻勢の様相だ。コロナ禍の手前もあり、これまで外出を控えていた人、外に出る理由を失っていた人たちが全面解除後に口火を切り、現在、各キャンプ場には利用の申し込みが殺到しているという。(アウトドア)

春や秋冬も

参加者が平準化され、秋冬キャンプが人気に 筆者撮影
参加者が平準化され、秋冬キャンプが人気に 筆者撮影

 日本オートキャンプ協会の「オートキャンプ白書2021」によれば、コロナ禍前のオートキャンプ参加人口(1年間に1回以上キャンプをした人)は年々増加し、2019年には860万人に達したものの、コロナの感染が拡大し始めた20年は、前年比30%減の610万人。キャンプはコロナ禍によるソーシャルディスタンス(社会的距離)が叫ばれる中で、適度な距離を保てるコンテンツとして注目を集めたが、それでも全体では減少という結果になった。

 一方で、ここ数年のキャンプブームをきっかけに、市場には変化も起きている。

 キャンプブームが巻き起こる以前、キャンプ場の利用は夏とゴールデンウイークに集中していた。この時期のキャンプ場はどこも満員で、すでにこれ以上の集客は見込めない状況だった。

 しかし、ブームの兆しが見え始めたころから、これまで利用が少なかった春や秋冬にキャンプを楽しむ人が増えてきており、一年を通して集客が平準化されてきているのだ。キャンプ場にとっても、潜在していた集客キャパシティーを掘り起こせる状況が生まれつつあり、喜ばしい状況となっている。

 キャンプギア(道具)業界も、平準化で少なからず恩恵を受けている。これまでは夏だけキャンプ用品の売り場を設営する小売店も多かったが、今や一年を通しての売り上げが期待できるようになり、常設するところが増えてきた。

 特に、冬は防寒対策の面で、ギアがより活躍する時期になる。たき火の道具もだが、まきストーブもここ何年かで、はやりのアイテムとなった。

 また、最近は身の回りの家電製品を長時間扱えるほどの大容量なポータブル電源も登場しており、アウトドアをより楽しみやすい環境が整ってきている。

 これは日本人の傾向なのかもしれないが、「なぜキャンプをするのか」と問われると、「キャンプ道具が好きだから」と答える人も多い。そういった意味では、ギアの種類が増えてくる秋や冬のシーズンは、業界にとっても「売り時」だといえるだろう。

遊休地を活用

週末の星空観賞ツアーも前乗りが発生するほど盛況だ 筆者撮影
週末の星空観賞ツアーも前乗りが発生するほど盛況だ 筆者撮影

 緊急事態宣言の全面解除による変化はキャンプに限らず、アウトドア業界全体に大きく広がっている。

 筆者は、キャンプとは別に星空観賞のビジネスにも関わっており、平日は都市部にて会社帰り、休日は各地方のリゾートにて宿泊客向けの観賞ツアーを数多く展開している。いずれも全面解除後は盛況で、リゾートホテルに至っては開催前日の金曜日からホテルが満室になるほど。休日も平日も関係がない、GoToトラベル再開の状況にもよるが、夏や連休の勢いに近い状況がしばらく続く見込みだ。これまでは外出=悪だったものが、一転して正義に変わり、確実にレジャー産業が大きく動き始めたことを実感している。

 企業が本来あった姿に戻ろうと、景気づけに大勢の人を呼び込むために、モノだけでなくコト消費の提供を始める企業も多い。 

デパートの屋上は格好のアウトドア用地 伊勢丹浦和店提供
デパートの屋上は格好のアウトドア用地 伊勢丹浦和店提供

 たとえば、西武ホールディングスは10月1日に合弁会社「ステップアウト」を設立。西武グループが持つ土地などの資産を活用する形で、アウトドア事業に打って出るようだ。伊勢丹浦和店も10月、屋上で日帰りキャンプやバーベキューが体験できる「デパそらURAWA」を開設した。デパートの屋上を利用してアウトドア事業を展開する例は、コロナ禍から多くみられる傾向だ。

 また、多数の遊休地を抱える自治体にとっても、アウトドアは人を呼び込める魅力のある事業の筆頭だ。理由は、資産活用の効率の良さと投資額の少なさにある。

 通常のハコモノ事業は、施設の建築などに多額の費用がかかる上、もし採算が取れなかった場合は解体にも費用がかかり、最悪、負の遺産として抱えていく羽目になる。だが、アウトドアは違う。例えばグランピング。非常に豪華なテントやデッキではあるが、建築物と比較すると開設は圧倒的にしやすい。採算が合わなくても簡単にやめて、空き地に戻すことができる。アウトドアは非常に参入のハードルが低く、失敗したときのリスクも低いのだ。

 自治体にアウトドア事業のノウハウを提供する企業も成長著しい。アウトドア用品を手がける東証1部上場のスノーピーク(新潟県三条市)は、以前から地方創生コンサルティングの事業を立ち上げており、全国の自治体にある遊休地・施設をキャンプ場として利用する支援を行っている。株価も好調で、コロナショックがあった20年3月時の最安値(513円)と比較すると、21年11月には一時8900円に届くなど、実に17倍以上に成長した(12月1日付で普通株式1株当たり2株の株式分割を行っている)。

初心者と熟練者の共存を

 ただ、今回のようなキャンプ業界の盛況ぶりには懸念点もある。それは、外出したいという目的が先行し過ぎて、キャンプという手段が安易に選ばれていることだ。このような状況は「飽きたら終わり」という流れも生まれやすく、キャンプが継続的に愛されるコンテンツになるにはまだ課題も多い。これは他のアウトドア事業にも同様のことがいえるだろう。

 また、ブーム以前から「冬こそがキャンプだ」と叫んでいた熟練キャンパーも大勢いた。このような人たちは、あえて閑散期を選ぶことで、他の人との差別化や、孤独感をキャンプに求めていることが大半であるため、秋冬のキャンプ場がにぎわってくると、嫌気がさしてキャンプから離れてしまう恐れもある。

 とはいえ、この平準化の流れは、キャンプ業界にとって良い流れであることは間違いない。これからキャンプを始める初心者、日常からキャンプを趣味としてきた熟練キャンパー、双方が共存できる環境作りが、今後のキャンプ場には求められるだろう。

 そのような意味で、カギとなるのは「平日利用」だ。平準化が進んだとはいえ、平日の利用者はまだ少ない。いくつかのキャンプ場では、平日限定の割引プランを始めるなど、熟練キャンパーが流れやすい仕組みを作り始めている。また、コロナ禍で定着してきたリモートワークとうまく絡めれば、平日にキャンプ場で仕事をするスタイルも大きな選択肢となってくる。

 状況に身を任せて何もしなければ、業界が尻すぼみになっていくのは間違いない。時代がなぜキャンプを選んだのか、日常の何を補完したくてキャンプ場へ向かったのか。その本質を外すことなく、創造性が高い空間として、日常生活の一部となっていくことをこれからも期待したい。

(SAM・アウトドアライター)

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