経済・企業

これからの世界経済が迎える中央銀行の「利上げラッシュ」=井上祐介

FRB議長に再任されることになったパウエル氏 Bloomberg
FRB議長に再任されることになったパウエル氏 Bloomberg

利上げラッシュ インフレの持続性に警戒感 正常化の道筋探る各国中銀=井上祐介

 世界経済は地域ごとにばらつきがあるものの、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけにした大幅な景気後退からの回復が続いている。各国における金融緩和や財政出動に加え、多くの国でワクチン接種が進んだことが背景にある。2022年についても成長ペースこそ鈍化するものの、サービス消費の本格的な復元に加え、企業の設備投資や生産活動の拡大が期待され、景気回復が継続する見通しだ。(世界経済総予測2022)

 22年も新型コロナの動向が引き続き最大のリスク要因となる。オミクロン株の検出を受けて各国政府が渡航制限を強化し、金融市場を大きく揺るがす結果となったように、新たな変異株の出現で経済環境やセンチメント(市場心理)が急激に変化する可能性は依然として残る。それでも、マスク着用の定着やワクチンの普及、治療薬の開発など、流行当初とは大きく異なる条件である。こうした理由により、感染拡大が起きたとしても医療の逼迫(ひっぱく)には発展せず、大規模な経済活動の制限には至らないことが見通しの前提となる。

 地域別では、先進国が世界経済をけん引する一方、ワクチン普及が遅れる低所得国の回復は相対的に弱く、地域間格差が拡大する。また、世界に先駆けてコロナショックから立ち直った中国経済も減速する見通しだ。背景には、厳格な新型コロナ感染対策、石炭不足による電力需給の逼迫、不動産市場の低迷など複数の要因が挙げられる。22年2月から北京冬季オリンピック・パラリンピックの開催を控える中、世界中で感染が続くもとではゼロ・コロナ政策を緩められる状況ではない。

 また、冬の需要期が終わるまではエネルギーの需給動向への警戒も続くとみられ、不動産市場も軟調に推移している。少なくとも22年前半は経済活動が抑制されるとみられる。

「一時的」は撤回

 こうした中で注目されるのがインフレ圧力の持続性と米国の金融政策の動向である。21年はコロナ禍で蓄積された家計の余剰貯蓄がモノの消費に向かい、財需要が予想以上に急拡大したことが供給不足や物流システムの混乱を引き起こし、一部のモノの価格急騰を招いた。さらに、エネルギー・食料などの原材料価格の高騰や労働力不足がサービス価格の上昇や賃金上昇にも波及している。こうした複合的な要因により欧米を中心にインフレが高進しており、低所得国では食料価格の上昇が景気回復を遅らせる原因にもなっている。

 米国では21年10月の消費者物価は前年同月比で6%超の上昇、インフレ率は30年ぶりの高水準にある。米連邦準備制度理事会(FRB)は当初、22年上半期(1~6月)にはエネルギー高や需給の不均衡などの経済のゆがみが解消され、インフレ率が低下すると見込んでいた。半導体不足などで一時的に急騰した自動車価格などが落ち着くなど、サプライチェーンの寸断による供給制約は徐々に解消に向かうこと、コロナ禍で労働市場から退出した労働者が再び戻ることで、賃金上昇が抑制されることなどが背景にある。

 過去には利上げを急ぎ過ぎた結果、景気回復の恩恵が低所得者層にまで行き届かなかったとの批判もあり、20年には長期にわたり平均2%のインフレ率の達成を目指す柔軟な平均インフレ目標も採用した。こうした点により、インフレ率が一定期間、上振れしたとしても、利上げを急がないというのが従来の方針だった。しかし、インフレ圧力は想定以上に強く広範であり、サーベイ(調査)などでのインフレ期待も急上昇した結果、FRBはインフレが一時的という見方を撤回するに至った。

 FRBは11月の連邦公開市場委員会(FOMC)で量的緩和の縮小(テーパリング)を決定した。国債と不動産担保証券(MBS)の新規購入を毎月1200億ドルから段階的に削減し、22年前半には新規買い入れを終了させる計画である。しかし、テーパリング終了時点でのインフレ率は、FRBが目標とする2%を大きく超過している可能性が高い。それでもインフレ率は低下するとの前提で年後半まで利上げを見送る場合、1970年代のようなインフレ高騰を招くリスクにつながる。

 また、22年は米国の中間選挙の年でもある。米国のガソリン価格は年初から5割以上も上昇しており、市民生活への影響は大きい。インフレの問題はバイデン政権の支持率低下の一因になっている。11月の雇用統計では失業率が4・2%にまで低下、労働参加率も改善するなど、労働市場は順調に改善しており、雇用最大化の目標が達成できる段階に入っていれば、夏ごろから年末にかけて3回程度の利上げを実施する可能性が高まってきた。

ECBは慎重姿勢

 米国以外では、欧州でも従来予想に比べてインフレ率が上振れている。英国では中古車やサービス関連の上昇が顕著であり、米国より早いタイミングで利上げが実現すると予想されている。一方、ユーロ圏ではエネルギー価格の上昇が光熱費の急騰を招いているものの、欧州中央銀行(ECB)はインフレ圧力が一時的だという見方は崩しておらず、当面は利上げを実施する環境ではない。

 主要国以外では、ニュージーランドなどがインフレや不動産価格の上昇への警戒感からすでに利上げに動いている(表)。また、新興国では、ASEAN諸国では全般的に物価が落ち着いているものの、インフレが顕著な東欧や南米でも利上げが続いている。22年も各国が金融政策の正常化の道筋を探る状況が続くとみられ、その中での日本の対応が注目される。

 なお、13年の金融正常化局面ではバーナンキFRB議長(当時)によるテーパリングの示唆で長期金利が急騰し、金融市場では大きなショックを招いた。足元の長期金利は落ち着いているが、物価動向や景気回復を反映し、22年には2%近くまで上昇するとみられる(図)。これまではパウエル議長の丁寧なコミュニケーションにより、テーパリング及び22年の利上げを織り込む動きも広がりつつあるが、22年は資産価格の動向にもより敏感にならざるを得ない。

(井上祐介、丸紅経済研究所チーフ・エコノミスト)

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