投資・運用

Q9 保険の見直し方って? 本当の「不測の事態」を考える=横川由理

「保険」について最初に確認しておこう。「生命保険」とは「命」すなわち「死亡保険」を指す言葉だ。「医療保険」や「就業不能保険」などは生きているときに受け取るため、単に「保険」と呼ぶ。保険は、貯蓄や社会保険で足りない分を補うことが使命である。保険には「入るべき保険」と「入るべき時期」がある。(お金の王道 特集はこちら)

 保険会社は死亡することやがんにかかるなど、当たり前のことを「不測の事態」のように取り扱う傾向がある。そもそも人が死亡する確率は100%であり、2人に1人はがんになる時代だ。「不測の事態」とは早すぎる死亡を指す。本来、生命保険は一家の大黒柱が万が一、死亡したときに残された家族を支える商品だ。

 代表的な商品として一生涯保障があり、貯蓄性を兼ね備える一方保険料は高い「終身保険」、掛け捨て型で大きな保障を割安な保険料で備えられる「定期保険」、満期保険金があり、貯蓄として加入するケースが多い「養老保険」がある。

 生命保険に加入して死亡に備えるのは、子どもが独立するまでなど期間を限定し、定期保険で備えることが理にかなっている。しかし、払った保険料が戻ってきそうな保険が好まれる傾向にある。定期保険よりも、必ず保険金を受け取れる「終身保険のほうがお得」に思う人も多い。

 もちろん、自分が死んだ後や、入院時について考えるのは大切だ。だが「不測の事態」に備えるとしても、すべてを保険に頼るわけではない。日本には手厚い社会保険制度が十分整っており、家族が路頭に迷うことは考えにくい。死亡時には遺族年金も支払われる。

医療保険は必要か

 新しく生命保険に加入するにせよ、見直しをするにせよ、まずはそれぞれの家庭で必要保障額を算出してほしい(図1)。遺族の日常生活費や教育費など支出の見込み額から、遺族年金、死亡退職金、貯蓄、配偶者の給与など収入の見込み額を差し引いて求める。子どもが独立後の死亡保障は必要ないと考えてもいいだろう。

「医療保険」は消費者のニーズが高く、さまざまな商品が存在する。だが、入院のほとんどが短期間であり、数カ月間に及ぶことはまれだ。中には、がんなどの重篤な病気に対して無制限で保障する商品や短期入院を保障する商品も存在するが、いずれにしても一生涯で保険料を何百万円も負担する必要があるだろうか。たとえ4000円の保険料でも、50年間にわたって支払うと240万円にも達するのだ。

 公的な健康保険の自己負担割合は年齢が上がるにつれ2割、1割と下がっていく。また、「高額療養費制度」があるため、どんなに高額な療養を受けたとしても一般的な所得の人なら自己負担額は9万円程度に収まる。

 医療保険の最大のネックは、入院中しか支払われないことだ。健康保険が使えない高度の医療技術を用いた「先進医療」や国内未承認の抗がん剤などによる「自由診療」に備えたいなど、目的がはっきりしている場合を除いて、保険で備える必要はないだろう。

 高齢者が定期預金の満期金の相談に金融機関などへ行ったはずが、外貨建て保険に加入してしまったケースが後を絶たない。「現在、定期預金は低金利なのでお金は増えません。でも、米ドル建ての保険なら積立利率は2%と高いのが魅力です」と言われると、加入してしまう気持ちも分かる。

「外貨建て」のベール

 だが、預金は解約しても全額が戻ってくるが、外貨建て保険の場合は、保険費用と解約控除費用が差し引かれ、大幅に目減りするのが現状だ。解約控除は初年度10%としている保険会社が多いが、保険費用は投資信託と異なり、ベールに包まれている。この保険費用を逆算してみたいと思う。

 ある保険会社の米ドル建て養老保険に21年12月30日、40歳男性が500万円分加入したケースを検証しよう。満期までの期間は10年である。この日に保険会社が定める為替レートは1ドル=115・52円。500万円を割り算すると基本保険金額は4万3283ドルとなる。満期保険金は4万9126・21ドルと記載されている。だが、ドルに両替した基本保険金額の4万3283ドルを2%で10年間運用すると、5万2761・74ドルになり、満期保険金よりはるかに多いことが分かる(図2)。

 では、積立利率の2%はどこから現れたのだろう。今度は満期保険金である4万9126・21ドルを2%で10年間割り引いて逆算してみよう。元本は4万300・60ドルとなる。つまり、図の○部分の保険費用は、基本保険金額4万3283ドルと4万300・60ドルの差額である2982・40ドルになる。これが見えない手数料の“正体”だ。

 21年12月30日の米10年国債の利回りは1・548%。基準保険金4万3283ドルを10年間米国債で運用すると、5万469・74ドルとなり、満期保険金との差額は1343・53ドルにもなる。この保険に加入するより、同じ日に10年米国債で運用を始めた方がいい。

「保険だから米国債と比較するのはおかしい」という疑問もあるだろう。これは一時払いの商品なので保険料は全額払い済みだ。病気死亡の場合は、一時払い保険料と同額保障。つまり払った保険料が返ってくるだけで、1円の保障もない。災害死亡のケースのみ満期保険金と同額だ。この保険の加入について慎重にならざるを得ない。

(横川由理・FPエージェンシー代表、ファイナンシャルプランナー)

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