経済・企業注目の特集

高校家庭科「資産形成」教育の本格開始で、大人も考えるべきこととは=編集部

「資産形成」を高校家庭科で 大人も人生を考える好機に=中園敦二

 <投資、保険、相続まで お金の王道Q&A>

「高校3年間を過ごすためどれくらいのお金がかかると思いますか」(お金の王道 特集はこちら)

 昨年12月17日、野村ホールディングス(HD)のサステナビリティ推進室金融リテラシー課の社員が、ある大分県立高校の3年生約120人にオンライン授業で問いかけた。「選択肢は三つ。(1)約300万円、(2)約500万円、(3)約700万円です」。首をひねる生徒たちの前で「正解は(2)約500万円。3年間の公立校の教育費は約135万円で、食費や交通・通信費などの生活費は約365万円となります」と説明すると、生徒からは驚きの声が上がっていた。

 野村HDは以前から学校側の希望を受けて、金融・経済に関する出張・オンライン授業を展開する。21年度はライフプランをテーマにした授業を全国の高校約20校で実施する予定で、さらに高校の家庭科教師向けにも紹介資料を約165校に配布している。教師からは「今後、社会保障に頼れなくなる可能性もある」「教科書の概念的な話ではなく現実を知ってもらいたい」などの声が聞かれるという。

4月から成人「18歳」に

 学校教育現場で「金融教育」が推進されている。学習指導要領の改定で2020年度に小学校、21年度は中学校でそれぞれ「お金」の大切さや計画的管理について教えることが盛り込まれ、そして22年度からは高校家庭科の授業で家計管理などに加えて「資産形成」についても教えることになった。家庭科の授業のポイントは、生涯を見通した家計の管理・計画、リスク管理、生涯計画、資産形成と基本的な金融商品の特徴だ。

 家計管理は教育費・マイホーム購入費・老後の生活費で、リスク管理は事故・病気、失業など思わぬ事態への対策、生涯計画は入学、就職、結婚、出産、車の購入など人生設計とそれにまつわる収支を考える。さらに、資産形成として株式、債券、投資信託の基本的知識を身に付け、投資には社会に役立つ企業を支援する意味合いもあることを理解する。

 いずれも、社会に出て生活するうえで必要不可欠な知識ばかりだが、従来の学校教育では重視されてこなかった。ただ、資産形成を考えることは、これからの人生をいかに送るかを考えることでもある。日銀が事務局となる「金融広報中央委員会」の小泉達哉事務局次長は「金融教育はキャリア教育とも言える。『知識』をつけ、人生の『攻め』も『守り』も考える『知恵』にすることが大切だ」と話す。

 加えて、成人年齢の引き下げも大きな変化だ。改正民法の施行によって今年4月1日から、成人年齢がこれまでの「20歳」から「18歳」へと引き下げられ、保護者の同意なしで携帯電話の契約やクレジットカード作成、アパートの賃貸契約や自動車ローンなども組めるようにもなる。つまり、高校3年生の中には今後、「成人」が交じることになるのだ。

 東京都立国際高校で家庭科を教える岩澤未奈教諭は、公民担当教諭と金融教育のコラボ授業をするなど、金融教育に力を入れて取り組んでいる。岩澤教諭は「生徒が成人になる前にしっかり教えたい」と話す。また、金融教育ベンチャー、マネネ(東京)の最高経営責任者(CEO)で経済アナリストの森永康平氏は「『金融教育』は内容が投資に偏りがちだが、お金をムダに使わない節約の仕方を教えることも大切」と指摘する。

 若者の間では今、暗号資産(仮想通貨)への投資などのもうけ話を人に紹介すると「報酬が得られる」とうたう「モノなしマルチ商法」が広まっている。マルチ商法の対象が、健康食品などの「商品」に加え、目に見えない「投資」へ拡大しているのだ。公益財団法人消費者教育支援センターの柿野成美専務理事・首席主任研究員は、「正しい知識を教えることが、被害防止にもつながる」と意義を強調する。

 ただ、肝心の大人は、家計管理や金融の仕組み、資産形成についてどれだけ知っているだろうか。大人の多くは体系的な教育を受けた経験もなく、自己流で身に付けたり、「何となく」知っている気になっている人も少なくない。お金の意義や使い道の「王道」を今、改めて考えてみることは、子どもの教育だけでなく大人自身にもきっと役に立つはずだ。

(中園敦二・編集部)

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