投資・運用

100歳からさかのぼる!退職後資産取り崩し方のカギは◯◯だった=野尻哲史

退職後の糧 最終年収の「6割」確保する年金・勤労収入・資産の生かし方=野尻哲史

 <資産形成1>

「資産活用」を「登山」に例えると、「山を下る」プロセスといっていい。これに対して「資産形成」は「山を登る」プロセスだ。どんな登山家でも、下山ルートは事前に必ず確認する。登山と同じで、資産を作り上げる「資産形成」は「資産活用」を念頭に置いて考えるべきだ(図)。(資産形成・年金・仕事 特集はこちら)

 すなわち、資産形成は、(1)資産活用のパターンを基に目標資産額を決定する、(2)その金額の達成確率を念頭に「投資」のコンセプトを決める──といったプロセスがあるべき姿だ。このうち(2)の計算は金融機関のウェブサイトで分析が可能なので、読者も一度、試してみてはどうだろうか。

 最も大切なのは(1)の目標資産額を決定することだ。65歳で退職してその後の35年間に一体いくら必要なのか。数年前に「老後2000万円問題」が話題になったとき、マスコミは「誰もが2000万円必要」といった指摘をしたが、そんな一律の議論はあり得ない。自分の生活に合わせた目標設定が重要になる。

二つのステージで考える

資産形成と資産活用は違う Bloomberg
資産形成と資産活用は違う Bloomberg

 40〜50代は、退職後の生活が気になるとはいえ、実際にどれくらいの生活資金が必要になるのかはまだ判然としないだろう。

 そこで、簡便法を紹介しよう。米欧でよく使われている「目標代替率」は退職後の年間生活費を現役最後の年収に対する比率で示すものだ。会計検査院の報告書によると、米国では研究者や金融機関が最も多く指摘するレンジ(範囲)は70〜85%。すなわち、退職後は、退職直前の年収(=支出)の70〜85%で生活することを示している。日本は健康保険制度が充実して米国ほど医療負担が大きくないことから、筆者が計算した数値は60〜70%ぐらいと想定している。

 例えば、目標代替率60%で、現役最後の年収が900万円(税込み)の場合、退職後は税込みで540万円ぐらいの生活費が必要と推計される。これを65歳の退職後35年間で計算すると、総額は1億8900万円(=540万円×35年)となる。

 とんでもない金額に映るが、これをカバーする三つの収入を考えると、決して無謀な水準ではない。三つの収入とは、(1)公的年金、(2)勤労収入、(3)保有資産から取り崩す資産収入──のことだ。

 最大の柱は公的年金。共働き夫婦で公的年金受給額を月28万円とすると、それだけで1億1760万円(=28万円×12カ月×35年)となる。残りは7140万円だ。

 65〜70歳は夫婦とも少し働くとして、2人で月収入10万円を想定すれば、5年合計で600万円(=10万円×12カ月×5年)。これを差し引いた額(6540万円)が、資産収入の合計額となる。もちろん、金額もかなり大きいがここにも視点を変えると、解決策は見つかる。6540万円は35年間の資産収入の合計、すなわち金融資産からの引き出し額の合計だ。退職後も資産運用を続けていれば、その分の運用収益も計算に入れることができるため、退職時点でこの資産額を用意しなくてもいい。

 退職後の資産運用を考えてみよう。企業型確定拠出年金や個人型確定拠出年金(iDeCo=イデコ)、つみたてNISA(=ニーサ、少額投資非課税制度)といった非課税口座を使って資産形成する人は多い。だが、退職時点で資産をすべて売却することはないだろう。例えば、65歳で退職して80歳までの15年間は、追加の積み立ては無理でも、運用は継続できる。この間は資産を取り崩しながら運用することになる。「取り崩し額は残高の4%、運用収益率は年3%」と仮定すると、資産は年率1%ずつ減少することになる。その後、80歳になったら、残りの資産を100歳までの20年間、均等に定額で引き出すとする。

 こうして退職後の生活を二つのステージに分けて、引き出し額の合計を計算すると、その額は65歳時点の資産額のおよそ4割増しになる。逆に考えると、65歳時点で引き出し総額の7割程度の資産があればいいということだ。引き出し総額6540万円の場合なら65歳で用意する資産は4600万円ほど、つまり、引き出し総額は退職時用意する額の1・4倍になる。

年収の1割強を年3%で

 退職金はどれだけ当てにできるだろうか。住宅ローンの返済などを考慮するとそれほど多くを使えないとする。保守的に600万円を退職金から充当できるとすれば、残りの4000万円が65歳までのターゲットになる。

 ここで必要となるのは「運用収益率」と「積み立て投資額」だ。まず、運用収益率を想定してみよう。20年以上の運用実績のある投資信託のうち、8割程度が直近20年間の平均収益率で3%以上となっている(表)。基準価額でみた運用収益率なので、運用報酬を控除したベースのため、iDeCoや、つみたてNISAで運用をしていれば、販売手数料と税金もかからないため純粋な手取りと考えられる。そこで3%を運用収益率と設定しよう。

 次は毎月の積立額だ。まず年代ごとに年収を想定してみた。平均年収を30代500万円、40代700万円、50〜65歳900万円と推移すると仮定する。それぞれの年収の10%を積み立て投資に回すことができると、30代で月4万円、40代で月6万円、50代と60代前半で月8万円ぐらいとなる。これを年率3%で運用し続けられれば、30歳からの35年間で計算上、4312万円を積み上げられる。4000万円の目標額を上回る水準を達成できることになるが、達成確率を引き上げるには、毎月の積立額をもう少し増やすことも検討する必要があろう。

「年収の1割強を年率3%の積み立て投資で」という「率」を使ったルールで、資産形成を考えてみることだ。

(野尻哲史・合同会社フィンウェル研究所代表)

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