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新年度の年金改正を味方に付けろ!「第4のお金のため時」で資産形成=横谷聡
お金の貯め時 繰り下げ受給が75歳に延長 受取額は最大8割超も増額=横谷聡
<年金改正1>
人生には、お金が貯(た)まりやすい時期がいくつかある。最初は独身時代、次に結婚後に子どもが生まれ小学校卒業までの時期、そして最後は子どもが独立して自分が会社員なら定年になるまで。この三つが「一般的なお金の貯め時」とされている。それは、比較的支出が少ない、もしくは収入が多い時が家計バランスに有利に働く時期だからだ。(資産形成・年金・仕事 特集はこちら)
実はこのお金の貯め時が、2022年4月の年金法の改正により、一つ増える。4月からの年金法の改正はいくつもあるが、老後への資産形成に追い込みをかけている高齢者にとって朗報だ。そこで新年度の年金法改正をどう生かしたらよいか解説する。
年金改正の注目点は受給ルールだ。公的年金の標準的な受給開始年齢は65歳だが、受け取るタイミングは今までも自分で選ぶことができていた。つまり、60〜64歳で早めに受け取ることを「繰り上げ受給」、66〜70歳で遅めに受け取ることを「繰り下げ受給」という。今回の改正で、この繰り下げ受給の上限が75歳まで延長される。
繰り下げ受給は、年金の受け取りを65歳から1カ月遅らせるごとに、0・7%ずつ年金額が増え、今までは70歳が最大で、年金受給額は42%増となっていた。今回の改正により75歳が最大で受取額は84%もの増額となる。受給年齢で総額比較ができる(図1)。
一方、繰り上げ受給を選択すると早く受け取れるメリットはあるが、年金額自体は減る。現行は1カ月早く受け取るごとに0・5%ずつ減額されていたが、今年4月からは減額率は0・4%に縮小される。改正後でも、5年早い受給を選ぶと減少率は24%となり、この金額が終身固定されるので注意が必要だ。
ただし、年金は損得だけではないが、年金が増えると所得税などが思わぬ増加になる人もあり注意が必要だ。
モデルケースで見てみよう(図2)。Aさんは現在64歳の会社員、65歳で会社をリタイアした後も3年ぐらい雇用継続で働こうと思っている。65歳での年金予定額は20万円だ。Aさんが、もし年金受給の繰り下げを選ぶと年金受給額は次のように変化する。68歳まで3年間受給を繰り下げると年金は25・2%増額の25万400円、さらに70歳まで繰り下げると28万4000円となる。今回の改正で、もしAさんが上限75歳まで繰り下げるとしたら36万8000円になる。
繰り下げの損益分岐年齢についての論議はあるものの、年金とは損得だけで考えるものではなく、ますます伸びる平均余命を考慮して老後の生活が安心して暮らせるか否かで考えることが大事だ。現在は、65歳定年後の再雇用制度と定年後もそのまま勤務を延長する勤務延長制度の2本立てへと雇用環境は変化している。70歳までの雇用維持や年金の受給方法までいろいろと変化している時代だ。
「働き損」が減る?
もう一つの改正、高齢者就労の支援も大きく変化する。今までは「在職老齢年金制度」によって就労意欲が台無しになっているケースも多くあった。それは、雇用延長により60歳以降も会社で働いた場合、「在職老齢年金」の受給が60〜64歳の人は月28万円、65歳以上の人は47万円を超えると、年金受給の制限が掛かり、ある意味「働き損」にもなり「働く意欲の問題」になっていた。働いたことによって逆に年金がカットされるという本末転倒な状態が起こっていたのだ。特に年金受給65歳への移行措置の中で、「特別支給の在職老齢厚生年金」いわゆる「おまけの年金」を受けている人にとっては継続雇用の障害にもなっていた。
これが4月から改正され、給与の上限が拡大してようやく働いても不利にならない環境がそろい60〜64歳の受給上限が47万円に引き上げられる(図3)。これにより、長く働くことで老後の資産形成がより有利になる時代が到来したといえる。「第4のお金の貯め時」の出現である。
また働く意欲としては、65歳の会社員の「在職定時改定」も見逃せない。今までの厚生年金は65歳以降に働いた期間の年金を毎年計算していなかった。つまり雇用延長で年金保険料は天引きされているにもかかわらず、受け取る年金額は未反映の据え置きとなっていた。そしてようやく退職時または70歳時点で年金額に反映される仕組みになっていた。
4月からは「在職定時改定」という毎年1回の再計算を実施して、上積みを確認できるように変わる。長く働けば働いた分、年金受給額が年々増えていくことが実感でき、働きがいが期待できる。
年金法の改正の変化は、なかなかメリットを感じにくい。しかし、モデルケースのAさんのように世帯年金が月20万円としても、20年間で4800万円、30年間で7200万円の大きな給付を受けるお金だ。さらに、より長く働いて繰り下げ受給をすると、その間の貯蓄も膨らむ可能性もあり、受給する年金額も増える。
自分自身の老後家計の準備や資産により、今回の制度改正で選択肢は広がったといえる。この間の第4のお金の貯め時をどう資産形成に生かすのかは、個人に任されたといえるだろう。
(横谷聡・FP事務所トータルサポート代表、ファイナンシャルプランナー)