【週刊エコノミスト創刊100年キャンペーン実施中】いまなら週刊エコノミストオンラインをお申し込みから3カ月間無料でお読みいただけます!

国際・政治

《緊急特集》「弱肉強食」の新冷戦時代が始まった=福富満久

 <ロシア暴走が招く世界大動乱>

ユーラシア2大国と「欧米」の新冷戦時代

 何もしていない国が、核を持つ大国に突如、軍事侵攻される光景を誰が予測できただろうか。ロシアのプーチン大統領は2月24日、ウクライナへの軍事侵攻を命令、ロシア軍は首都キエフや東部の都市をミサイルで攻撃、軍事侵攻した。(緊急特集 世界大動乱 特集はこちら)

秩序なき弱肉強食

 プーチン氏は国民向けテレビ演説で、ウクライナからの脅威は自らで守る以外に選択肢がなかったと強調し、「わが国を直接攻撃すれば、悲惨な結果につながることになる」とけん制。これに対して、米国のバイデン大統領は、「この攻撃による人命の損失と破壊は、ロシアのみが責任を負う。世界はロシアに行動の責任を取らせる」と非難。英国のジョンソン首相とフランスのマクロン大統領もロシアが欧州に再び戦争をもたらしたと強く非難した。(緊急特集 世界大動乱 特集はこちら)

 国連安全保障理事会は2月26日、ウクライナ情勢を巡り緊急会合を開催したが、ロシアは拒否権を発動して、採決を拒絶した。

 今回のロシアによるウクライナ侵攻は、ソ連崩壊後、「リベラル自由主義」が主導してきた30年間の「平和」が終わりを告げ、国際社会は新しい時代に入ったことを意味する。

 問題はそれだけでない。核を保有しているロシアのような大国が他国に何らかの理由をつけて軍事侵攻した場合、それを止める手立てがないことが証明された時点で、国連安保理の役割や責務は完全に崩壊することになる。安保理は、彼らが好きなように解釈できる国際「私」法を行使しているのだ、ということを白日の下にさらすことになるからだ。

 米英両国は、2001年にアフガニスタンを攻撃し、03年にイラクに侵攻した時は、大量破壊兵器をサダム・フセインが隠し持っている(実際にはなかった)などと情報操作してかく乱し、うまく切り抜けたが、今回は逃れられない。プーチン大統領は、公然となぜ「西側による侵略が許され、我々は許されないのか」という疑問をウクライナ侵攻で問うているからだ。

 実際、米国が行ったベトナム戦争やフランスのアルジェリア戦争、1990年代のユーゴスラビア紛争での北大西洋条約機構(NATO)による一方的な空爆、その他イランや南米での数々の工作に対し、国際法に違反していないといえる西側の国家はない。

「派兵して第三次世界大戦を起こすつもりはない」とバイデン大統領は語っているが、仮にウクライナが、このままロシアの手に落ちてしまえば、国際社会には深刻な傷が残る。西側諸国が、市民を見殺しにした代償は、米国の威信のさらなる低下だけに収まらない。これまで彼らが推し進めてきた価値、つまり自由や民主主義に対する疑問が渦巻くことになろう。

 自由や民主主義がフェイク(ウソ)だったと言えばそれまでだが、ロシアのウクライナ支配が成功すれば、これがデファクトスタンダード(世界標準)となり、大国の小国略奪は許される「秩序なき弱肉強食の時代」となるからだ。

中国の台湾侵攻

 さらに目線を先に向ければ、10年の「アラブの春」以降に見たように多くの難民が欧州諸国へ押し寄せることになるだろう。外国人排斥運動により多くの諸国で極右・極左が台頭し、左右のポピュリズム(大衆迎合主義)が欧州諸国を再び襲うと予想される。

 新冷戦では、NATOの主要構成国である米、英、仏、独の、いわゆる「西側ブロック」とロシアが対峙(たいじ)することになるが、その際、鍵を握るのが中国だ。

 中国は、欧米諸国から半導体関連やEV(電気自動車)関連ですでに封じ込め戦略にあっており、ロシア側につくと見られる。習近平・中国国家主席が念願としている世界的な覇権を握る時間を急速に短縮できる。栄枯盛衰は歴史の常だが、直接対立で疲弊する「西側ブロック」とロシアを尻目に、中国は虎視眈々(たんたん)と影響力拡大を狙うだろう。

 他方で核兵器も再評価されるだろう。ウクライナが旧ソビエト連邦から抜ける際に核を放棄していなかったら、今回のように侵攻されていただろうか。このような事態にはなっていなかったはずだ。その意味で、北朝鮮やイランは今後、核開発を積極化させるだろう。

 アジア太平洋地域では、ロシアと中国という2大国の影響力がさらに拡大されていく。日本は、安全保障において新たな時代に突入したことを自覚し、新しい安全保障を早急に構築する必要がある。北方領土返還の幻想は捨てるべきだ。

 日本は、今回のロシアによるウクライナ侵攻と同じ戦略を使って中国が台湾へ侵攻する可能性を常に考えながら、外交を組み立てる必要がある。米国の覇権を維持するためだけに、その前線基地となるのであれば、安全よりも危険が増すだけだ。米国の核の傘に転がり込み戦後を安寧に過ごしてきたが、核自衛することも選択肢として真剣に議論すべきである。米国は許さないかもしれないが、中国との友好関係を模索するか、今のうちにインドやオーストラリアなど他のアジア・太平洋諸国と関係を強化しておく必要がある。

「ロシアン・パラノイア」

 ロシアは、広大な領土を保有しているが、逆にいえば、どこからでも攻め込まれる弱点でもある。昔からロシアが恐れているこの問題は、「ロシアン・パラノイア」といわれ、国際政治ではロシアを分析する上で必ず考えなければならない視点であった。西側諸国がその領土を隙(すき)あらば奪おうとしてきた歴史をロシア人が忘れていないこととも関係する。

 また、欧州でロシア人は「飲んだくれの農民」として常に2級市民どころか3級市民扱いされてきたことも忘れてはならない。彼らは、長く心の奥底で西側を憎悪してきたのだ。

 西側はかつてソ連の一部だったバルト3国(リトアニア、ラトビア、エストニア)をもNATOに加盟させ、ソ連崩壊時16カ国だったNATOは、現在では30カ国にまで増えている。西側はロシア側の憎悪を知っているから、ロシアを常に警戒しNATO拡大に動いてきた。こうしたさげすみと憎悪を無視してロシアの行動を語ることはできない。

 この世界で国家は、暴力による支配が横行するアナーキー(無秩序)な環境の中で、生き残りをかけて自国の利益を最大化する、というのがリアリズム(伝統的な国際政治)の考え方だ。

 悲観的なことばかり述べてきたが、歴史を振り返ると、米ソ冷戦時代は、冷戦崩壊後の30年と比べても、2度の大戦期や大戦間期と比べても兵士と民間人の死者数は格段に少なかった(J・ミアシャイマー)。理論から眺めると、米国が好き放題に振る舞う時代より、2勢力が抗争・対立する方が逆説的に安全だということを示唆する。その意味で、「西側」対「ユーラシア2大国」勢力による新冷戦の到来を、我々は冷静に受け入れる必要がある。

 ユーラシア2大国勢力の台頭は、「西側」に好きなようにやられてきた中東、中南米、アフリカ、アジアの多くの国に歓迎されるだろう。自由や民主主義は、「彼ら」だけのものであって、それ以外の者たちには何の恩恵もなかったからだ。

(福富満久・一橋大学大学院教授)

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

12月13日号

論争で学ぶ 景気・物価・ドル円14 バブルは別の顔でやって来る ■熊野 英生17 鳴らないアラート 「経済の体温計」を壊した罪と罰 ■中空 麻奈18 対論1 米国経済 景気後退入りの可能性高い ■宮嶋 貴之19  景気後退入りの可能性は低い ■高橋 尚太郎20 対論2 日銀 23年後半から24年前半 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事