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《戦時経済》【ウクライナ侵攻】ドイツが武器供与に一大転換した決意のほど=森井祐一
ドイツ 「ウクライナに武器供与」へ転換 エネルギーとの難しいかじ取りに=森井裕一
ショルツ独首相は2月27日、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて開催された連邦議会で、「これはロシアによる戦争であり、国際法違反であり、決して正当化することはできない」と、かつてなく厳しい口調でロシアのプーチン大統領を非難した。今、ロシアを止めなければ軍事力が支配する国際政治の世界に戻ってしまうというショルツ首相の認識は主要政党間で共有された。(世界戦時経済 特集はこちら)
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ドイツでは社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)による3党連立政権が2021年12月に発足して以来、ベーアボック外相を中心に危機打開外交が続けられた。しかしロシアによる侵攻が始まると、局面は完全に転換した。操業許可待ちのドイツ─ロシア間を結ぶ天然ガスパイプライン「ノルド・ストリーム2」の稼働を支持する声は消え、欧州各国の厳しい対露制裁にも積極的に歩調を合わせている。
ウクライナへの武器供与と約1000億ユーロ(約13兆円)に及ぶ特別基金で連邦軍装備を拡充する方針が打ち出され、22年の防衛予算は長年達成できなかった国内総生産(GDP)の2%目標を超える見込みとなった。
ドイツは武器・装備品の輸出国として知られるものの、国際協定と欧州連合(EU)の合意を順守するのに加えて、紛争当事国への武器輸出は原則として政治判断で行ってこなかった。紛争への関与を回避するためであり、国際合意によらない武力による紛争解決は政治的に受け入れられないとの認識である。
そのため、今回は他国がウクライナへの武器供与を決定する段階で、ヘルメットのみ供与する決定をしたことが批判された。しかし、ロシア侵攻後は、ウクライナ側に完全な正当性があり、見殺しにできないとの認識から支援が決定された。
経済重視から転換
シュレーダー、メルケル政権とドイツは長年にわたってロシアとの経済関係を重視してきた。しかし、シュレーダー元首相の親露路線も、メルケル前首相の長年の忍耐強い説得と関与の外交も、ロシアの侵攻を抑止できなかった以上、プーチン氏に誤ったメッセージを送ったと認識されている。SPDも緑の党も左派は軍事予算の拡大を嫌ってきたが、戦時モードとなってしまった以上、政権与党として政策転換を幅広く支えている。
野党となったキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)も、防衛費の増額を含む安全保障政策の転換を安定して支えている。しかし、ドイツは天然ガスの半分をロシアに依存しており、一層の制裁強化となれば経済・社会に与える影響は甚大である。再生可能エネルギーへの転換には時間が足りず、年末の原子力発電の完全停止予定もあり、政権は気候変動政策と矛盾する石炭火力の利用など難しい対応を迫られる。
過去への反省から戦後ドイツが重視してきた人権、民主主義などの諸価値を、ロシアがウクライナで踏みにじる行為は許せないとするコンセンサスは強固である。しかし、同時に第三次世界大戦への引き金となる行動も避けなければならないという認識も強い。ドイツはEU諸国とともに、理念と安全保障の現実との厳しいバランスの模索を続けざるを得ない。
(森井裕一・東京大学大学院総合文化研究科教授)