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《地銀&メガ》地銀を襲った「含み損」の衝撃=荒木涼子/桐山友一

米の金利急騰が公的資金申請のきっかけに

晴れないコロナ後の視界=荒木涼子/桐山友一

 新型コロナウイルス禍からの回復途上だった地銀を、金融市場の急変が襲った。今年に入って米国の金利が急上昇し、保有する外国債券(外債)などの価格が急落。2022年3月期決算では、有価証券で多額の含み損を抱えた地銀が続出した。米金利上昇による世界的な金融市場の動揺はいまだ収まらず、ロシアのウクライナ侵攻による資源高なども地域経済を疲弊させる。地銀の視界はなかなか晴れない。(地銀&メガ 特集はこちら)

「コロナ禍やウクライナ情勢などにより、厳しい経済環境にある取引先の中小企業などを長期支援するため必要不可欠と判断した」──。じもとホールディングス(HD)傘下のきらやか銀行の川越浩司頭取は5月13日、22年3月期決算発表の記者会見で、金融機能強化法に基づく公的資金の注入を金融庁に申請する方針を表明した。確かにコロナ禍などで地域経済は傷むが、公的資金申請の直接のきっかけは有価証券の含み損だ。

 きらやか銀行は22年3月末時点で、有価証券合計で121億7900万円の含み損を計上。21年3月末も26億7900万円の含み損を計上していたが、さらに95億円も悪化した。中でも、外債などを含む「その他有価証券」の悪化が顕著で、22年3月末の含み損は119億2500万円と、21年3月末に比べて実に90億円以上も拡大している。

きらやかが「第1号」

 米国の金利上昇の影響は甚大だ。米国の物価上昇を受けた米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締めとともに、特に今年に入って金利上昇ペースが加速したが、金利上昇は債券価格の下落も同時に意味する。世界国債運用の指標として多くの日本の投資家に使われる「FTSE世界国債(除く日本)インデックス(円ヘッジ)」は、昨年12月の高値から5カ月で12%も下落した(図)。多額の外債を運用する地銀にとってはひとたまりもない。

 含み損の有価証券は売却して損失を確定しなくても、一段と価格が下落すれば帳簿上の価格を引き下げて損失を計上する減損処理を迫られる。きらやか銀行の自己資本比率(単体)は22年3月末、8.42%と国内基準の4%を上回ってはいるが、有価証券の減損損失計上によって自己資本が傷めば、自己資本比率も大幅に低下しかねない。

 きらやか銀行は21年3月期単体で、投資信託の売却損を主因に48億円の純損失となって12期ぶりの最終赤字に転落し、責任を取る形で当時の粟野学頭取が辞任した。じもとHDは20年11月、SBIHDと資本・業務提携し、きらやか銀行もSBIの助言を受けて運用資産構成の見直しを進めてはいたが、市場の急変は待ってはくれなかった。

 それでなくともきらやか銀行は、金融機能強化法に基づき09年に200億円、12年に100億円の公的資金の注入を受けており、このうち200億円分の返済期限が24年9月末に迫っている。金融庁はコロナ禍を受け、地域経済に資金を融通する地銀が資本増強しやすいよう、公的資金の申請に特例を導入。返済期限を事実上撤廃し、経営責任も問わないことにした。結果的に、市場急変に襲われたきらやか銀行が特例適用の第1号となる見込みだ。

4行が100億円超

 多額の含み損を計上したのは、きらやか銀行だけではない。編集部は地銀全99行の22年3月期決算(単体)を基に、有価証券評価損益の状況をランキングしてまとめた。含み損が最も多かったのは栃木銀行の154億円で、もみじ銀行の151億円と続く。きらやか銀行と筑波銀行を合わせ、100億円以上の大幅な含み損となったのは計4行あった。

 有価証券の含み損で、影響が大きいのはやはり外債などを含む「その他有価証券」だ。編集部がデータのなかった北九州銀行と非開示の琉球銀行を除く97行の「その他有価証券」の含み損益の状況をまとめると、最も含み損が大きかったのは横浜銀行の392億円で、山陰合同銀行の255億円、広島銀行の189億円と続き、6割超の63行が含み損となっていた。ただ、横浜銀行などは株式などの含み益で相殺している。

 金融に詳しいマネックス証券の大槻奈那専門役員は「地銀の多額の含み損は直接、自己資本比率の低下に影響しなくとも、リスクを取って貸し出したり投融資したりする力を押し下げる」と指摘する。コロナ禍で実行された実質無利子・無担保のいわゆる「ゼロゼロ融資」は、返済が今年から始まる企業も少なくない。エネルギーや穀物価格も急騰する今、地銀が市場急変におののけば、地域経済にもその影響は跳ね返る。

(荒木涼子・編集部)

(桐山友一・編集部)

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