経済・企業

中国にも物価上昇圧力 “豚肉価格”を注視せよ

年後半は豚肉価格が大幅上昇するリスクも…(上海で6月6日)Bloomberg
年後半は豚肉価格が大幅上昇するリスクも…(上海で6月6日)Bloomberg

<インタビュー>関辰一・日本総合研究所主任研究員

 ゼロコロナ政策によって景気減速が懸念される中国経済。現状と、中長期的な見通しについて、専門家に聞いた。

(聞き手・構成=斎藤信世・編集部)

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原油高騰で物価上昇の足音そろり

ゼロコロナ政策の長期化が焦点

── ゼロコロナ政策を続ける政府の方針で、上海では約2カ月にわたり都市封鎖が実施された。中国経済への影響をどうみるか。

■3〜4月は景気の急激な落ち込みがみられ、特に製造業の生産活動や、個人消費、インフラ投資の減速が顕著だった。国際物流については、2020年のコロナ禍初期に比べて影響は小さいものの、自動車部品などが停滞した。

 一方で、足元では厳しい活動制限が実施されている地域は減少している。経済の持ち直しの動きがみられており、今後も改善が続くだろう。5月に入ってからは、自動車セクターを含む国際物流も回復しつつある。

── ゼロコロナ政策によるサプライチェーンの混乱は、外資系企業の中国離れにつながらないか。

■中国政府は(そのリスクを)警戒はしているものの、強気の姿勢だ。政府としては、中国の代わりになる進出先がないとみている。インドなどが候補として挙がるが、同国の経済成長が、中国の1978年以降の持続的な成長と同等程度になるかという点については、不安材料が多い。そういう意味で、中国のメリットは依然として残るというのが政府の見立てだ。

 ゼロコロナ政策に伴う活動制限によって、外資系企業の短期的な損失は回避できない状況だが、長い目でみたら、やはり中国でビジネスをしていくことが、外資系企業が成長するためには避けられない選択だろう。

── 景気は回復基調にあるということだが、懸念すべきリスクはあるか。

■短期的には、景気の回復スピードには注目すべきだろう。政府は、活動制限を緩和することで経済活動がコロナ禍前の状態まで正常化することを狙っている。また、景気対策によって民間需要が喚起され、景気が息を吹き返すことも期待しているだろう。

 不動産市場のリスクもある。政府の需要刺激策があったとしても、不動産価格の下落、あるいは横ばいの状態が続いた場合、不動産企業にとっては苦しい状況が続く。こうした状況が続けば、年後半〜23年の中国経済にとって大きな足かせとなるだろう。

 加えて、物価動向にも注意が必要だ。足元では、政府が価格統制を行っているため、中国の消費者物価上昇は2%程度にとどまっている。企業サイドとしては価格転嫁を進めたいが、大幅な値上げをした場合、罰金や、取り締まりの対象になる。ただ、原油価格が高騰する中で、企業がどこまで持ちこたえられるかは疑問だ。短期的には、国有銀行が融資を手厚くすることで、非常事態を抜けることができるが、状況が長引けば、企業は徐々に価格転嫁にかじを切るだろう。それが中国における物価上昇、実質所得の鈍化、消費の抑制につながりうる。年末には消費者物価は3%まで上がるとみている。

── 今後、中国でも物価上昇が本格化した場合、政府は利上げに踏み切るのか。

■インフレ対策には利上げは重要だが、その分景気を冷やすことになるので、政府は基本的には金融緩和を続けるだろう。

 一方、懸念すべきは、中国で3〜4年間隔で起きる、豚肉価格が急騰・急落する「ピッグ・サイクル」によって、年後半の豚肉価格が大幅上昇するリスクだ。豚肉は中国の食卓には欠かせないので、豚肉価格がどの程度上昇するかは、中国の消費者物価をみる上では重要だ。

── 長期的なリスクについてはどうみるか。

■ゼロコロナ政策の長期化は警戒すべきだ。感染者が増加する度に活動制限が発動される可能性が高く、それによる景気下振れリスクは意識すべきだろう。また、格差縮小に向けた「共同富裕(共に豊かになる)」で、分配が重視されれば、成長のペースが鈍化し、中国市場の成長余地が想定よりも小さくなることも考えられるだろう。こうした状況の中で、外資系企業は中国事業について、今一度立ち止まって考える必要があるとは思う。


 ■人物略歴

せき・しんいち

 1981年生まれ。2004年早稲田大学政治経済学部卒業、06年同大学院経済学研究科修士課程修了。野村証券金融経済研究所などを経て、08年に日本総合研究所に入社。19年から現職。

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