投資・運用

底堅い日経平均 株主提案は過去最多=稲留正英

東京証券取引所の隣のビルのスクリーンに表示された日経平均(2022年6月7日撮影)Bloomberg
東京証券取引所の隣のビルのスクリーンに表示された日経平均(2022年6月7日撮影)Bloomberg

物言う株主

 インフレや急激に金融引き締めに揺れる金融市場だが、目を凝らせば期待できる日本株の銘柄はいくつもある。

滋賀銀行、三ツ星ベルト…「株主提案」が株価底上げ=稲留正英

 インフレやロシアによるウクライナ侵攻に見舞われる中でも、日本株の値動きが底堅い。米連邦準備制度理事会(FRB)が急激な金融引き締めに踏み切り、米国株は年初から14%も下落したが、日経平均株価は9%安の水準にとどまっている。中でも、アクティビスト(物言う株主)などから株主総会で株主提案があった企業は、上昇している銘柄も少なくない。(今こそ仕込む日本株 特集はこちら)

 ここで、今年6月の株主総会でアクティビストから株主提案があった企業のうち、年初から7月4日までの株価の騰落率が日経平均株価を上回った主な銘柄を見てみよう。

 上昇率が32%とトップの滋賀銀行は、英投資ファンド、シルチェスター・インターナショナル・インベスターズから、大幅な特別配当を求められた。6〜8位の中国銀行、岩手銀行、京都銀行もシルチェスターから同様の提案を受けている。

東芝は16%上昇

 2位は三ツ星ベルトで、英ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンドから取締役の報酬増額や最大58億円の自社株買いの提案を通告されたことが材料となった。4位の東芝は、6月28日の総会で、大株主である米ファラロン・キャピタル・マネジメントと米エリオット・マネジメントの幹部を取締役として選任。経営改革への期待から株価は16%上昇している。

 三菱UFJ信託銀行によると、今年6月の株主総会におけるアクティビストの株主提案は、上場企業43社に対し128議案となり、1年前の17社、47議案からそれぞれ、2.5倍、2.7倍に増えて過去最高を更新した。同行の中川雅博・法人コンサルティング部部長は「増配や自社株買いなど株主還元に関連したものが多いほか、政策保有株式の売却などガバナンス(企業統治)関連の提案も継続している」と分析する。

 アクティビストの活動を後押ししているのは、今年4月の東京証券取引所の市場再編や、コーポレートガバナンス・コード(企業統治の指針)の改定だ。経営の効率性向上や成長への道筋の明確化、少数株主に配慮した経営などが求められ、株主還元の強化を打ち出す企業も少なくない。実際、滋賀銀行は今年5月、総還元性向(配当と自社株買いの合計を純利益で割った指標)をこれまでの30%から40%へ引き上げると発表した。

危機をチャンスに

 アイ・アールジャパンによると、日本に参入しているアクティビストの数は2014年の7社から、今年の6月時点で66社にまで増えた。マネックス・アクティビスト・ファンドを運用するカタリスト投資顧問の平野太郎社長は、「お金という媒体を使って、社会や経済を効率化させるのが株式投資の大義。アクティビストはその触媒となる。社会がその必要性に気付き始めた」と強調する。

 大和総研の吉川英徳・経営コンサルティング第1部主任コンサルタントは、「上場企業の経営者は、ROE(株主資本利益率)などの指標を意識し、従来以上に資本市場、株主を意識した経営をやっていく必要に迫られている」と説明する。アクティビスト側も、そもそも株価や企業価値の向上が見込めない銘柄には手を出さない。改善の余地があるからこそ企業側に要求し、株価も反応しているのだ。

 フィデリティ・インスティテュートの重見吉徳マクロストラテジストは、「日本株が継続的に上昇するには、最終的には企業が収益性を高めることが必要」とするが、この点で日本企業が優位な局面を迎えていると話す。理由は、気候変動やエネルギー問題への対応だ。日本は1960年代の公害、70年代の2度のオイルショックの過程で、液化天然ガス(LNG)など環境や省エネ技術を開発してきた。

 重見氏は「今回の脱炭素の流れやエネルギー問題は日本の得意なものづくりを生かせる分野」という。技術を磨き過去、何度も危機を乗り越えてきた日本企業。アクティビストの力も借りて経営力を引き上げれば、その先には明るい未来が待つ。今こそが日本株の仕込み時かもしれない。

(稲留正英・編集部)

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