経済・企業

「蓄電インフラ整備こそ日本の課題」只信一生・電池サプライチェーン協議会会長

 車載用リチウムイオン電池で、中国と韓国に大差をつけられ、電気自動車(EV)や電池製造の政府支援でも米欧中との差は歴然。どう挽回していくのか。電池サプライチェーン協議会(BASC)の只信一生会長(54)に聞いた。

(聞き手=金山隆一・編集部)

電池サプライチェーン協議会 只信一生会長(パナソニックエナジー社長)

 電池の技術では日本が先行していたが、質から量に転換するグローバルな投資競争のタイミングで日本は緩慢で感度も少し鈍かった。(EV&電池 世界戦 ≪特集はこちら)

 ただ今回、蓄電池産業戦略検討官民協議会で2030年までに蓄電池と材料の国内製造基盤で年間150ギガワット時(GWh)、グローバルで同600GWhの製造能力を目指す、という生産目標を置いた。

 国内の能力確保には3.4兆円、そのうち政府投資が2.3兆円必要と、予算の付け方も議論している。

定置用がカギ

 今回、日本のエネルギー政策にまつわる蓄電池の政策を議論していくなかで気づくのは、日本には再生可能エネルギーを余すことなく蓄えて、より快適な電力にしていく蓄電システムがないということ。季節によっては太陽光の電気を捨てている。電気をためようとしたときにそれを支える蓄電池システムを持った会社の育成が国内では遅れている。

 官民協議会の中で提案したのは、車載だけに注目するのではなく、定置用といわれる電力の系統(送電線)に接続する蓄電システムの普及が非常に重要ということ。

 特に経済安全保障を考えるとき、再エネの電気を蓄え、送電線に接続できる定置用蓄電システムを拡大、普及させていくことは、日本のエネルギー政策の一つの大きな切り口になる。

 定置用だけでなく、車載用も送電線につながると将来的には両者は溶け合い、社会全体のエネルギーの需給変動を吸収できるようになる。

 最近は海外でもEVが普及していく中で電力はギリギリで系統に負担がかかっている。EVが普及するほど電力消費は上がり、データ通信の急拡大などでデータセンターが大量の電気を消費する。その需要に発電能力が追いつかない。その中で余すことなく電気を使う仕組みが必要だ。

 その解決策としてリチウムイオン電池を使った蓄電システムの整備は意味がある。こうした視点でNTTや電力会社が発電から蓄電、消費までを総合的にどんな国の仕組みとして整理するか。これは正に国として考えていかないといけない。

電池は国の基幹産業

 パソコンに使われている電池はエネルギーを充放電できるデバイス。しかしいま社会から求められているのは車、スマート化された家電、データ通信の需要など多岐にわたる。結局はインフラだ。

 ガス管や水道管のようなインフラ、社会システムを作ろうという議論の中で電池を中心とした新しい産業をどう整備するか、どこがしっかりとその産業を背負えるのか、今その競争のど真ん中にいる。しかも世界規格が決まっているようで決まっていない。我々がリードしていかなければならない。

 日本のクルマが全部EVになれば国内の雇用にも影響が大きい。国の基幹産業に直結し、国力にも還元するという認識は深まっている。単なる電池ではなく、国の中で大きな役割を果たさないといけない。その責任を負ったという自負を持ってしっかり議論していく。

リサイクルの規模がない日本

 電池のリサイクルについては、ビジネスとして成立するマーケットが必要で、リサイクルに必要な量の電池が出てくることが大前提だ。日本国内でテクノロジーの目はあるが、採算を回収する社会システムができる規模がまだ見えてこない中では、なかなか動きづらい。ただ世界で先行している国にはしっかりと日本チームとして協働しながらノウハウを蓄積し、日本のリサイクルが回るタイミングが来た時に短時間で立ち上げていく形を促していく。


電池サプライチェーン協議会とは

 日本の電池サプライチェーン全体の競争力強化を目指し、政策提言やルール化を進める業界団体として2021年4月に設立された。

 30年の国内の電池生産能力を年150ギガワット時(GWh)、グローバルで同600GWhとする官民目標を設定。製造装置産業の育成、リサイクルの枠組みづくり、人材育成などにも取り組んでいく。

 会員企業は、電池、部材、原料、製造設備、商社、IT、金融、自動車など101社。

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