習体制3期目は「中国式現代化」で経済を統制 西濱徹
中国共産党の総書記として異例の3期目入りを決めた習近平氏。最高指導部は習氏自身が最高齢となり、いさめる存在はいない。
習氏の独裁がより強まる人事
中国では、10月16日から22日までの日程で5年に1度の共産党大会が開催された。党最高指導部(党中央政治局常務委員)人事を巡っては、鄧小平氏によって改革開放路線にかじが切られて以降は2期ごとに交代することが慣例となってきたものの、ここ数年は習近平氏への権力集中につながる動きが着実に進んでおり、今回の党大会を経て習近平政権が異例となる3期目入りを果たした。
政権1期目の残りの任期が1年となった第18期中央委員会第6回全体会議(6中全会)では、習氏を党の「核心」とする方針が示され、政権1期目を締めくくる第18期中央委員会第7回全体会議(7中全会)でもそうした姿勢が大きく後押しされた。さらに、5年前の前回の党大会(中国共産党第19回全国代表大会)では党規約が改正され、「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」という現職の指導者として自らの名を冠する思想体系を行動指針に盛り込んだ。
また、翌年の第13期全国人民代表大会(全人代)第1回全体会議では憲法改正が行われ、国家主席と副主席の任期規定(連続3選禁止)を廃止し、習氏は国家主席として3期目入りのみならず「終身化」を図ることも可能となった。
そして、政権2期目の残りの任期が1年となった昨年11月の第19期中央委員会第6回全体会議(6中全会)ではいわゆる「歴史決議」を採択。その中では、習氏に関する「二つの擁護(党中央・全党の核心としての地位、党中央の権威と集中的・統一的指導の断固とした擁護)」と「二つの確立(党中央・全党の核心としての地位、その政治的思想の指導的地位の確立)」が明記されるなど、党及び国家のかじ取りをすべて習氏に託すことが示された。
10月初めに開催された政権2期目を締めくくる第19期中央委員会第7回全体会議(7中全会)では、二つの擁護と二つの確立を盛り込む方向での党規約の改正が討議され、習氏を中心とする党の団結を支持し、習氏による路線に従うことを求めることが改めて強調された(最終的に二つの擁護のみ盛り込まれる)。
習氏は今年6月に69歳を迎えており、これまで最高指導部人事を巡って慣例とされてきた七上八下(67歳以下は留任、68歳以上は退任)が崩れることから、今回の党大会において、習氏以外の人事でもさまざまな「慣例破り」が行われる可能性は高いとみられていた。
中央委人事はサプライズ
人事面では、事前に注目された習近平氏が任期のない「党主席」への就任、ないし「領袖(りょうしゅう)」の呼称復活などは実現しなかった。一方、党大会後の党中枢人事を担う中央委員(205人)の名簿に李克強氏(67歳、国務院首相)及び汪洋氏(67歳、人民政治協商会議主席)の名前はなく、七上八下に抵触しない両氏が党最高指導部から退任した。
両氏は共産党の若手エリート養成機関である共産主義青年団(共青団)出身で習近平指導部の中では習氏と距離があるとされる一方、年齢の面で最高指導部に残ることは問題がなく、事前にはそれなりの処遇を受けるとみられたなかで「サプライズ人事」となった。
さらに、党大会閉幕直後に開催された第20期中央委員会第1回全体会議(1中全会)で明らかになった最高指導部人事では、江沢民氏、胡錦濤氏、習近平氏と3代にわたって政治思想及び内政・外交のブレーンとして仕えた王滬寧氏が中立派として残る一方、習氏を除く5人はいずれも「習派」が占めることとなった。
さらに、最高指導部は習氏の側近だらけとなる一方で、5年後にはほぼ全員が七上八下に抵触することを勘案すれば、次世代の「ポスト習」は示されなかった格好である。また、最高指導部のなかで最も若い丁薛祥氏は、地方政府のトップを担った経験がないなど職務経験が乏しいと言わざるを得ない人材が登用されていることもあり、世代交代を全く考えていないと捉えられる。
その上、中央政治局員人事を巡っても、10年前から政治局員に名を連ねた胡春華氏(59歳、国務院副首相)が外れる事実上の降格となった。胡春華氏も李克強氏、汪洋氏と同じ共青団出身で両氏同様に習氏と距離があるとされる一方、習氏の次を担う「第6世代」の筆頭格の一人として早くから注目を集めてきた。しかし、習近平政権3期目では政権中枢を外れることとなり、来春の全人代では国務院副首相の職も解かれる可能性が高い。
同時に明らかになった中央軍事委員会人事も副主席に張又俠氏(72歳)が留任する異例の内容となった。また、台湾有事や対米戦略への対応に加え、習氏の側近も登用されるなど習氏が重視する「強軍思想」を具現化する方向性が強まると見込まれる。
中央規律検査委員会人事でも書記に李希氏が就任した。李希氏は習氏と直接的な関係は薄いが、実績面で習氏への忠心を示してきたことが登用につながってきたことを勘案すれば、習近平指導部の下で進められた「反腐敗運動」が今後も推進されるとみられる。その意味では、今回の党大会は5年前の前回党大会以上に「習近平氏の習近平氏による習近平氏のための」共産党大会という色合いが強まったと判断できる。
先行きの政権運営については、党及び政府があらゆる経済活動に積極的に関与する「中国式現代化」の推進により、あらゆる面で統制色の強い発展を目指す方針が示された。具体的には、産業体系の構築と工業化の推進により製造強国、品質強国、宇宙強国、交通強国、インターネット強国、「デジタル中国」の建設を加速させ、2035年をめどに「社会主義現代化」のほぼ実現、並びに50年をめどに「社会主義現代化強国」の実現を目指す中長期目標を掲げるなど、習近平政権の長期化を示唆する内容も示された。
ゼロコロナ政策を維持
一方、経済政策については内需拡大と供給側改革の深化による「国内大循環」の強化を図る。また、国際循環の質向上に向けたサプライチェーンの強靭(きょうじん)化及び安全性の向上のほか、ハイレベルな科学技術の「自立自強」の早期実現により基幹的な核心技術を内製化させるべく、人材戦略計画の拡充を通じた国際的な人材競争の勝利を目指すとしている。
そして、習氏が掲げる格差是正を促す「共同富裕」を推進すべく分配制度の改善に加え、機会平等の推進、低所得者の所得増進、中間所得層の拡充を図る方針だ。また、重大感染症の防止・抑制と救急治療体制の整備・緊急対応力の向上を図るとして引き続き「ゼロコロナ」政策を維持する考えもみせた。
ただし、こうした取り組みは中国に進出する外国企業のみならず、中国企業に対してこれまで以上に党及び政府の意向順守を求めることにつながるとみられ、企業活動が制約される可能性も予想される。また、党大会の最終日に採択された党規約の改正案では、「台独(台湾独立)に断固として反対し抑え込む」とする文言のほか、その実現を念頭に「科技強軍(科学技術力を有する強力な軍隊)、世界一流の軍隊を建設する」といった文言が盛り込まれるなど、活動報告同様に安全保障を前面に打ち出す姿勢が示された。
1中全会の直後、習氏は中国経済について「強靭であり、潜在力も十分であり、政策の選択肢も多く、長期的にもファンダメンタルズは変わらない」とした上で、「改革開放の扉はますます広がり、今後も改革開放を全面的に深化して質の高い発展を推進する」と述べるなど、党大会で言及が少なかった改革開放に触れた。
しかし、コロナ禍を経て人口減少が加速するなど潜在成長率の低下が避けられず、不動産需要の低下が見込まれる一方、経済成長を不動産投資に依存するいびつな構造を抱えるなかで構造転換が進むかは極めておぼつかない(図1)。こうした状況にもかかわらず、景気下支えの軸足を依然インフラ支援に据えていることは、企業部門を中心とする過剰債務といった構造問題を温存するとともに将来的な問題解決をこれまで以上に困難なものにすると考えられる(図2)。
中国経済が世界のリスク
他方、政権3期目の最高指導部は習氏自身が最高齢となるなど習氏をいさめる存在はおらず、習氏の「子飼い」のみとなることで、これまで以上に習氏の意向のみが政策に反映される展開も予想される。これまで経済政策や対中交渉を担った劉鶴氏(70歳、国務院副首相)の引退のほか、改革派官僚である易鋼氏(64歳、中国人民銀行総裁)や郭樹清氏(66歳、中国銀行保険監督管理委員会主席、中国人民銀行党委書記)は中央委員及び中央委員候補から外れており、政策運営を離れることは必至とみられる。
一方、最高指導部入りした李強氏(63歳、上海市党委書記)や中央政治局員入りした何立峰氏(67歳、国家発展改革委員会主任)が代わりに政権3期目の経済政策を担うとみられるが、李強氏は上海市の都市封鎖を巡り政策運営に疑問符が付いたほか、何立峰氏もその手腕が未知数のなかでどのような方策が取られるかは見通せない。市場経済の後退を示唆する「人民経済」という言葉に注目が集まる動きもみられるなど、高い経済成長の実現を後押しした改革開放路線は掛け声とは裏腹に逆行していくことも考えられる。
00年代以降の世界経済は中国経済の高い成長に「おんぶに抱っこ」の形でその成長を享受することができたものの、今後は中国経済の成長が期待しにくくなる一方、中国経済が抱える構造問題が翻ってリスク要因となる可能性に注意が必要といえる。
(西濱徹・第一生命経済研究所主席エコノミスト)
週刊エコノミスト2022年11月15日号掲載
異例の総書記3選 習氏の独裁がより強まる人事 「中国式現代化」で経済を統制=西濱徹