現場と違う理念で組織変革を目指す人にお勧め 評者・加護野忠男
『中二階の原理 日本を支える社会システム』
著者 伊丹敬之(国際大学学長)
日経BP 1980円
経営変革の背景となる日本独自の発想に注目
日本の社会は、外来の普遍的原理を受け入れるときに、そのままではなく、日本の在来の原理と普遍的な原理との折衷原理をつくって受け入れることが多い。著者はこの折衷原理を「中二階の原理」と呼び、次のように書いている。
「この中二階という言葉を、この本では社会あるいは組織体を動かしていくときの一種の原理をさす言葉として使いたい。二階に全体を動かす基本原理があり、一階にその原理のもとで生きている人々が住んでいる現場がある。そして中二階の位置にじつは二階とは別の原理のようなものが挿入されていることが多いのが日本の社会システムであり、企業組織である」
日本でこのような原理が利用されることが多い理由として、次の三つが挙げられる。第一に、普遍性の高い原理が外から入ってくることが多いこと。第二に中二階になりうる原理のタネが、社会の中に多くあること。第三に、二階と中二階という二つの異なった原理の共存を許す土壌があること。
中二階の原理を用いて導入されている社会制度の代表例として本書で挙げられているのは、例えば言語における「かな漢字併用」の日本語表記法である。これは確かに、「漢字」という外来の原理と「かな」という固有文化を「併用」するという中二階構造を取っている。
そして経営学者である著者は、企業経営において中二階の原理が使われる場面として、戦略転換で新しい戦略が導入される場面や、M&A(合併、買収)後の経営統合の場面、アウトソーシングの場面などを具体的に解説している。この他にも中二階の原理が適用できそうな企業経営の場面は多い。
日本でも、一階の原理をそのままにして、二階の原理のパーツのみが取り入れられる例もあるが、それよりも中二階を置いた方がよい理由として、著者はこれも三点挙げている。第一に二階の原理だけで物事を理解しようとすることに限界があること。第二に、中二階の原理が日本の社会で非常に面白く豊かな役割を演じてきたこと。第三に中二階を無視することにマイナスがあること。
日本の企業で、現場を貫く原理とは異なる新しい原理を導入して企業を進化させようと考えている経営者や管理者の方々にぜひ読んでいただきたい一冊である。中二階の原理は、あくまでも原理であって具体的な方法を示唆するものではないが、変化を引き起こそうとする人々に思想的な支えを提供してくれるからである。
(加護野忠男・神戸大学特命教授)
いたみ・ひろゆき 一橋大学大学院商学研究科修士課程修了後、カーネギーメロン大学経営大学院博士課程修了(Ph.D)。現在、一橋大学名誉教授も務める。『日本型コーポレートガバナンス』『日本企業の復活力』など著書多数。
週刊エコノミスト2022年11月22日号掲載
『中二階の原理 日本を支える社会システム』 評者・加護野忠男