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月面へGO! 日本の民間宇宙産業に産声 製造業も回復基調へ 和島英樹

無人月着陸船を載せたロケットの打ち上げライブ映像にispace社員から歓声が上がった(東京都中央区で2022年12月11日)
無人月着陸船を載せたロケットの打ち上げライブ映像にispace社員から歓声が上がった(東京都中央区で2022年12月11日)

宇宙ベンチャー「ispace」年度内に東証上場の可能性

 2023年の株式市場は、比較的明るい展開になることが予想される。その先陣を切るのが、宇宙ベンチャー企業のispace(アイ・スペース)だ。同社は、自社開発した無人月面着陸船を米スペースX社のロケットに搭載。22年12月11日に米フロリダの発射場から打ち上げられ、47分後にロケットから切り離されて打ち上げが成功した。

 計画では地球から38万キロメートル離れた月に向かって航行し、23年4月に月面着陸に挑戦する予定。月面着陸船にはJAXA(宇宙航空研究開発機構)などが開発した小型ロボットなどが搭載されており、着陸が成功すれば、民間では世界初となる。

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 アイ・スペース社は10年9月設立。米グーグル(アルファベット)などが開催し、民間企業で競う月面探査レースにチーム「HAKUTO(ハクト)」として月面探査車を開発し、出場して最終選考までコマを進めた経緯がある。ミッションとして民間企業に月でのビジネスチャンスを提供し、月を生活圏にすることを目指している。

 外資系通信社の報道によれば、同社は22年度内にも東京証券取引所に上場する可能性がある。海外でも株式売り出しを行い、すでに引受証券会社を選定しているという。仮に新規株式公開(IPO)が実現すれば、今回の打ち上げ成功も相まって、市場の注目を集める可能性が高い。日本の宇宙産業が株式市場でもテーマとして急浮上しそうだ。

国内回帰で賃金上昇

 宇宙産業の他にも大きなテーマはまだある。具体的には、インバウンド(訪日外国人)とリオープン(経済再開)、挽回と回復、そして日本の技術力再評価──。これらが株式市場の刺激要因になる。

インバウンド需要が回復すれば、大きな景気刺激効果に
インバウンド需要が回復すれば、大きな景気刺激効果に

 インバウンド関連では、日本政府観光局が発表した22年10月の訪日外客数が、前月比2.4倍の49万8600人となった。10月11日に政府が水際対策の大幅緩和を始めたことが要因となっている。海外の主要国は、ほぼ日常が戻っている。国内でも塩野義製薬の飲むコロナ薬「ゾコーバ」が緊急承認された。旅行や出張が回復し、外食や夜の宴会などもコロナ前のレベルに向かう環境は整いつつある。

 訪日客にとっては円安も追い風だ。新型コロナウイルスの感染拡大前、19年末の為替相場は1ドル=108円に対し、22年12月16日時点では1ドル=135円前後。やや円安一服となったとはいえ、当時に比べて25%の円安水準である。外国人から見れば3年前と比べて全て25%安で買えることを示しており、消費増が見込める。インバウンドと日本人、それぞれの年間消費額を比較すると、インバウンド6人で日本人1人分の消費になるとの試算もあり、拡大への期待は大きい。19年の訪日外国人は年間3188万人で、月間ベースではざっと265万人だった。政府は、30年に年間6000万人の達成を目指している。

 ちなみに、いまドル高・円安になっているのは日米の金利差が主因だ。高い金利を求めてドルを買い、円を売る動きが継続しているためで、日本の先行きを悲観した円安ではない。ただ、円安が進行することで、輸出企業にとっては日本で作って海外で売ったほうがメリットは大きくなる。そのため、国内回帰や日本進出といった企業の動きもある。

 産業用ロボットなどを手掛ける安川電機は、27年にもエアコンなどの消費電力を抑えるインバーター(制御装置)の部品工場を福岡県に新設すると報じられている。自社生産比率を高め中国依存度を下げる狙いもあるだろう。また、キヤノンも栃木県宇都宮市に半導体製造装置の新工場を建設し、25年の稼働を目指すようだ。

TSMC熊本工場の建設予定地。海外企業の日本進出は賃金上昇の機運を高める
TSMC熊本工場の建設予定地。海外企業の日本進出は賃金上昇の機運を高める

 半導体受託世界最大手の台湾・TSMCも熊本に進出する。24年の工場稼働に向けて新規採用する人員は1200人とみられ、23年入社見込みの大卒エンジニアの初任給は28万円。同県では大企業でも大卒の初任給は20万円前後といい、好待遇が目を引く。国内回帰や海外企業の日本進出が増加すれば、いやが上にも国内の賃金上昇圧力が高まる可能性がある。日本では長期間にわたって給料が上がらなかったが、円安も相まってようやく離陸するシナリオが見えてきた。

本格化する「挽回生産」

 製造業にとっても22年は厳しい一年だった。新型コロナ禍で物流や生産が滞り、資材価格の高騰で採算が悪化。加えて半導体不足で作ろうにも作れない時期が長かった。23年はこうした制限が緩和されることで、ようやく挽回の兆しが見えてきている。生産の正常化が期待される。

自動車関連の巻き返しへの地盤は整いつつある
自動車関連の巻き返しへの地盤は整いつつある

 代表例はトヨタ自動車だ。同社は半導体不足の影響を主因に、第2四半期(22年7~9月)時点でトヨタ・レクサスの23年3月期の生産台数見通しを970万台から920万台へと下方修正。損益面では資材価格高騰の影響で、通期の営業損益を1兆6500億円押し下げるとしている。ただ、決算説明会では、半導体の供給問題は最悪期を脱しつつあるとの見方を示した。早ければ23年1~3月期から「挽回生産」が本格化し、24年3月期には巻き返しに転じる可能性が高い。

 資材価格の高騰もピークアウト感が浮上しつつあり、採算も改善に向かう可能性が高い。他の自動車、部品、家電メーカーなども同様だ。

 FA(工場自動化)関連では、中国での需要が回復する公算が大きい。その関連機器は日本が強みを持っている。

 中国は新型コロナの感染再拡大で「ゼロコロナ政策」を打ち出し、都市封鎖(ロックダウン)を行ったことがFA需要の押し下げ要因となっていた。この影響で工作機械受注は10月に前年同期5.4%減と、2年ぶりのマイナス。工作機械の制御に使われるNC(数値制御)装置で世界首位のファナック、サーボ(制御)モーター世界首位の安川電機などに悪影響があった。しかし、厳しすぎるゼロコロナ政策に中国の住民が各地で抗議行動を起こし、当局と衝突。その後、政府はロックダウン政策を緩和することを表明している。

 中国国家統計局が発表した22年7~9月期のGDP(国内総生産)は、物価変動の影響を調整した実質で前年同期比3.9%増。年間の成長率は政府目標の5.5%前後を大幅に下回ることが確実で、当局も看過できない情勢だ。また、米国との対立で半導体産業を自前で育成する方針もあり、23年は中国のFA投資の波に期待を寄せたい。

半導体は23年前半が底

 半導体分野も23年は関連銘柄が復活すると予想する。米調査会社ガートナーによれば、23年の世界の半導体市場は3.6%減とマイナス成長が見込まれ、22年の株価の下落は、これを織り込んだ面もある。国内証券のアナリストは「スマホ需要の回復で、メモリーの需給悪は23年前半にもボトムを付ける」と予想する。

 一方、演算などのロジック半導体の需要は引き続き高水準だ。工場自動化などのIoT(モノのインターネット)や自動運転、ゲームなどで通信量の増大が続き、高性能な半導体ニーズはいまも増え続けている。これを受け、半導体を多く搭載するのに必要な微細化投資も進んでいる。米国では自国の半導体産業を支援するCHIPS法が成立し、欧州でも同様の動きがある(「半導体は在庫調整明けの2024年以降に20兆円特需 津村明宏」参照)。

 先端半導体を囲い込む動きはさらに加速化する。24年以降の市場をにらみ、世界で強みのある半導体製造装置企業の受注環境は良好だ。

 一方、22年末から株式市場でパワー半導体関連銘柄を物色する動きが目立ち始めた。この流れは23年に本格化する可能性がある。パワー半導体とはモーターや照明などの制御や電力の変換を行う半導体のことで、利用先として最も注目を集めているのが電気自動車(EV)分野だ。モーターを低速から高速まで精度よく回すことでEVの性能を上げ、効率よく動かすことで省エネ・省電力化に貢献する。ビルの省エネなどで、CO₂(二酸化炭素)削減を課題に挙げる企業のGX(グリーントランスフォーメーション)用途でも注目されている。

 これまでのパワー半導体はSi(シリコン=ケイ素)ウエハーだったが、高性能化需要の高まりで次世代のSiC(シリコンカーバイド=炭化ケイ素)という、二つの元素を合わせた化合物半導体へのニーズが高まっている。トヨタやホンダも次期モデルEVにSiCパワー半導体を搭載すると報じられている。

 ただ、インゴットからウエハーにスライスする際に切断が難しく、歩留まりが悪いという問題があった。これをクリアしたのが、タカトリやディスコといった日本企業だ。いずれも独自の手法でスムーズに切り出せる手法を編み出した。

 SiC材料切断加工装置を手掛けるタカトリの株価は、22年11月末までの約1カ月でおよそ3倍となっている。切断、切削、研磨装置で世界首位のディスコの切断装置は、切断工程にレーザーを用いることで、切断時間を短縮できるうえ、1インゴット当たりのウエハー生産枚数が従来比約1.4倍になるという。ディスコの株価は上場来高値圏にある。

 パワー半導体はロームや富士電機など日本企業が強みのある分野で、Siパワー半導体の需要増で業績も堅調。GXの高まりもあり、SiCへのシフトは追い風になるだろう。

グロース市場も戻り歩調

 最後に、23年はグロース(成長株)市場の継続的な回復にも期待が持てる。

 22年4月から東京証券取引所の市場区分が再編され、プライム、スタンダード、グロースの3市場に変更された。その中でグロースは新興企業中心の市場として、従来の東証マザーズ、JASDAQグロースを集約したものに位置づけられる。グロース市場のベンチマークは今なおマザーズ指数が参考になり、22年12月16日現在の同指数は774.83。20年10月から下落を続け、22年6月20日に年初来安値となる607.33まで落ち込んだものの、ようやく戻り歩調にある。

 中でも最近IPOを行った企業は比較的、業績も好調だ。工業用、宝飾用の人工ダイヤの種結晶を製造しているイーディーピー、会員制転職支援サービスのビズリーチを運営するビジョナルなどに注目したい。

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(和島英樹・経済ジャーナリスト)


週刊エコノミスト2023年1月10日号掲載

2023投資のタネ 「日本の宇宙産業」産声上げる 自動車・製造業も回復基調へ=和島英樹

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