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インバウンド 中国人団体客に過度な期待は禁物 処理水放出が影響の恐れも 永浜利広
中国政府は8月10日、日本に向かう団体旅行を解禁した。訪日する中国人が増え、国内景気にプラスという見方がある。
中国人は2019年、インバウンド(訪日外国人客)の30.1%を占め、国別でトップ。消費額に占める比率も36.8%と高かった。しかし、今年4~6月期は19年同期の19.1%、32.6%にとどまる。中国人以外を含むインバウンド全体が同69.0%、95.1%に回復しているのとは対照的だ。
日本政府は10月の国慶節連休に向け、中国人団体旅行客の訪日が本格化すると想定。インバウンド全体は年内に単月ベースでコロナ禍前の水準に戻ることも視野に入れるとしている。
しかし、団体旅行解禁の効果には慎重な見方をせざるを得ない側面もある。中国経済がデフレに転じるリスクが高まる中で政府の対応が鈍く、人々の不安が広がっているからだ。中国政府は22年末、ゼロコロナ政策を解除し、景気が一時的に持ち直す動きがあったものの、不動産市況の悪化や地政学的緊張の高まりによる悪影響が当初の予想以上の重しになっている。特に国内総生産の3割程度を占めるとされる不動産開発部門は低調で、企業の債務問題が長期化する中、景気の足を引っ張っている。
中国人民銀行(中央銀行)は金融緩和に着手しているが、地政学的緊張の高まりを背景に続く中国からの資本流出を加速させるリスクもあり、ジレンマに陥っている。また、若年層の雇用所得環境が悪化しており、少子化も相まって中国の経済成長率は長期的に伸びが抑制される可能性が高まっている。
19年超えは難しく
福島第1原発の処理水の影響も無視できない。処理水の海洋放出が始まったことを受け、中国政府は8月24日、日本産の水産物輸入を全面的に停止すると発表した。訪日を予定していた中国人団体客の一部が行き先を他国に変更するといった影響が出る可能性もある。
中国の措置に日本政府が対抗すれば、中国政府は団体旅行の渡航解禁国から日本を外す可能性があることにも注意が必要だ。22年末、日本政府が中国から直行便で入国する人に対する水際対策を一時的に強化したところ、中国政府が団体旅行の渡航解禁国から日本を対象外としたことがあった。
さらに、国内観光産業の人手不足も勘案すれば、中国の団体旅行解禁に過度な経済効果を期待するのは禁物といえるだろう。中国人のインバウンド消費額は今年、今回の解禁に伴って0.1兆円程度増えて0.7兆円程度、24年は1.6兆円程度と予想する(図)。19年の約1.8兆円には及ばず、中国人のインバウンド消費額が過去最高を更新するのは大阪・関西万博が開催される25年以降だろう。
(永浜利広・第一生命経済研究所首席エコノミスト)
週刊エコノミスト2023年9月12日号掲載
FOCUS インバウンド 中国人団体客に過度な期待は禁物 処理水放出が影響の恐れも=永浜利広