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国際・政治 踊る!インド経済

インタビュー「授業にMBAプログラム導入を提案」プラニク・ヨゲンドラ土浦第一高校校長

 インド人材が世界的に活躍している。日本では茨城県の名門高校校長にインド出身のプラニク・ヨゲンドラ氏が就任した。同氏にインドの教育の強みや、日本の教育が抱える課題、改革の方向性について聞いた。(聞き手=稲留正英/安藤大介・編集部)

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── 4月に土浦第一高等学校の校長に就任したが、反響は。

■4月に校長になってから、3回もインドの校長団の視察があった。彼らには、「日本の教育はすごい」というイメージがある。インドと日本の教育のほか、西洋や最近は中国の動きも交えて話をすると、非常に関心をもって聞いてもらえる。

── どんな話をするのか。

■まず、日本の教育の良さは、小学校の課程で、チームビルディングを学ぶことだ。組み体操をしたり、みんなで音楽や水泳などを学ぶ。中学になると、みんな部活動に入る。インドには部活動が全くない。こうしたところは日本の強みだ。

 一方で、インドの強みは、小学校から多言語の教育をしながら、数学や理科などの勉強も進めることだ。中学2年生から、化学、物理、生物など専攻する科目ごとに分かれて勉強が始まり、毎週、実験室に入る。それに対し、日本の小学校の課程は、言語教育としつけが主で勉強のペースが遅いのが弱みだ。

インドはITで学習管理

── インドの教育は昔からそうなのか。

■1980~90年代のインドは英国統治の影響で貧しく、保護者もまずは、自分で3食分稼げる子になればよいという教育だった。しかし、今では、オリンピックでメダルを取り、海外で活躍する人材を育てるように教育方針が変わっている。

 インドのすべての公立校には、ITを使った学習管理システムが導入されており、子供たちのデータが管理されている。それから、生徒のIQ(知能指数)、EQ(心の知能指数)を測る適性検査をして、それぞれの生徒に見合った中学で、見合った教科を学ばせるようになっている。これは、日本や米国とは全く違うベクトルだ。中学に入ると、企業へのインターンを認め、働きながら勉強することも可能だ。自分の適性にあった3言語と3教科・科目を学ぶ。そうすると、どんどん、それぞれの分野のスペシャリストが生まれていく。

── そもそも、日本の教育に関わろうと思ったきっかけは。

■私が校長になろうと思った背景には、息子の経験があった。日本の公立中学校で先生のいじめを受けて、イギリスに留学してしまった。私はそれを逆頭脳流出と呼んでいるが、移民の子供の代表的な事例だと思う。

 日本の学校に行く移民の子供たちも、金銭的な理由から私立に行けず公立校に行く子たちと、せっかく住んでいるのだから日本の公立校に行ってみようという子たちに大きく二つに分類される。金銭的に私立に行けない子たちには選択肢はない。一方、日本の学校に行ってみようという子たちにとって、日本の公立校は勉強の内容も授業の進め方も、自分たちの期待通りではない。例えば、数学や英語の授業一つとっても学びが少ない。だから、外国人の子供は1年半や2年通ったらギブアップする。

── 日本企業で働いた自身の経験もあるようだが。

■私は日本の銀行で、海外店舗進出のリーダー役として働いた。しかし、海外の店舗に人材を派遣するとなると、まず、人がいない。派遣された日本の駐在員は向こうの文化も分からず、英語もできないので、向こうの状況を理解しながら仕事をするというスタンスにはならない。多文化共生ができていない。

 だが、日本の経済を見た時に、日本の企業が海外に行って、モノやサービスを売って外貨を稼ぎ、それで食料や燃料を買っている国だ。それならば、それに相当する人材を育てる必要があるが、どこでそんな人材を育てるんだというのが私の疑問だった。

息子へのいじめが、日本の教育に関心を持つきっかけになった(土浦第一高等学校の旧校舎の前で)
息子へのいじめが、日本の教育に関心を持つきっかけになった(土浦第一高等学校の旧校舎の前で)

── 実際に土浦第一高校に赴任した感想は。

■最初に感じたのは、「ああ、よく勉強しているんだな」と。英語はしゃべれないけど、みんな読み書きはよくできる。文武両道ということで、学習活動と特別活動(学級、クラブ、学校行事などの活動)の両方をうまくやっている。県内で同レベルの水戸第一高等学校を除く他の学校と比べると、一段とよい取り組みができている。日本にもこんな学校もあるんだというのがその時の正直な気持ちだ。

生徒のEQを見る

── 今後、どのような取り組みをするのか。

■日本の教育システムには適性検査がない。そこで、IQ、EQテストをして、きちんと適性検査をして、どこまで型破りなことができるのか、感情をコントロールできるのかを見たい。私から見ると、日本の進学校の子供たちの1~2割は受験勉強で、精神的に追い詰められている。せっかく、良い高校や大学に入っても、プレッシャーに耐えられず壊れていく。そういう子たちには他の道もあるし、EQが弱い子たちには、EQを上げる方法を考えないといけない。そして、県と一緒に来年からでも、パイロットでITを使った学校管理システムを導入したいと考えている。

 また、ハイスクールMBA(経営学修士)というプログラムを提案している。きちっと、貸借対照表が作れ、実践的なビジネス知識を得るようにする。第1段階では、「自分は何者か」と自分の適性をきちんと理解することから始める。第2段階で人格形成、第3段階では、企業経営や起業家精神とはなにかという専門的な知識を学んでいく。

 人格形成では、食卓や服装のマナーや、問題解決の方法論の習得、英語でのパブリックスピーチの能力の向上などを図りたい。そして学校行事などで、学んだものを実践してもらう。これらの改革はロールモデルとして、他の学校でも再現できるものにしたい。日本全国の学校や教育に対し、何か示すことが一番の課題だと考えている。

── どれぐらいの期間をかけて、改革を進めるのか。

■日本の企業で働いてみて、スタートの時点から変化を起こそうとすると反発が来ることは経験している。もともとは1期4年で辞めようかと思っていたが、今は考えが変わり、改革をじっくりと進めるため、2期目をやろうかと思っている。まずは、教員の方と仲良くするところから、始めたい。

(プラニク・ヨゲンドラ 土浦第一高等学校校長)


 ■人物略歴

Puranik Yogendra

 1977年インド・マハラシュトラ州出身。同国プネ大学(数学・経済)卒業、同大学院修士取得(国際経済・労働経済)。97年来日、2012年日本に帰化。みずほ銀行国際事務部調査役、楽天銀行企画本部副本部長などを経て、19~21年東京・江戸川区議。22年4月から茨城県立土浦第一高等学校・付属中学校副校長、23年4月同校長に就任。全日本インド人協会会長も務める。愛称は「よぎさん」


週刊エコノミスト2023年11月7日号掲載

踊る!インド経済 プラニク・ヨゲンドラ 授業にMBAプログラムを導入 生徒に適性検査の実施を検討

インタビュー

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