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後発薬トップの沢井製薬も不正検査 懸念される医薬不足 坂巻弘之

 後発薬(ジェネリック医薬品)最大手の沢井製薬(大阪市)が、九州工場で製造する胃炎薬の品質試験を、承認を受けた手順と異なる方法で不正に実施していたことが発覚し、自主回収を始めた。新型コロナの感染拡大以降、国内では医薬品の不足が続くが、不祥事の広がり次第ではさらなる逼迫(ひっぱく)につながる可能性もある。

 同社の報告書によると、少なくとも2015年以降、粉末が体内で問題なく溶けるかどうか調べる際、実際に使うカプセルとは別のものに移し替えて実験し、基準をクリアしていたとされる。後発薬を巡っては、小林化工(福井県あわら市)や日医工(富山市)などでも製造工程の不正が相次いだが、今回も極めて悪質だ。

 同社は「工場の総意で、不適切試験の実施を隠す意図はなかった」とするが、カプセルとはいえ「テストの替え玉受験」という、誰がどう考えてもおかしい手順が社内で堂々とまかり通ること自体が理解しがたい。公表の時期も極めて遅い。社内の特別委員会が設置されたのは6月だ。

自浄作用なく

 後発薬業界の「自浄作用」が働かなかったことも示した。沢井製薬を傘下に持つサワイグループホールディングスは21年、不祥事を起こした小林化工の業務を引き取った。業界トップが「問題企業」を引き取り、社員研修などを通じて業界全体の健全化に取り組むと期待していたが、その業界トップ自体がすでに不祥事を起こしていたことになる。

 なぜ後発薬業界で不祥事が繰り返されるのか。厚生労働省の「産業構造のあり方に関する検討会」は10月にまとめた中間報告で、製薬企業の「多品種少量生産」が不祥事の原因になっているとして、その解消を課題に挙げた。製薬企業はたくさんの種類の薬を薄く広く生産している。製造ラインの管理業務が増えてマンパワーが不足するため、品質不良につながっているとされるが、そもそも「多品種少量生産」が不祥事の原因なのか疑問だ。

 50品目以上、薬価収載している後発薬企業を対象に、各企業が製造する品目数(横軸)と、製造・品質トラブルを抱える後発薬の割合(縦軸)を示した(図)。トラブルの割合が高いのは、多品種を生産している沢井製薬や東和薬品といった大手よりは、少ない品種を生産する中堅企業で、「多品種少量生産」がトラブルの原因とは言いがたい。「多品種少量生産」は、後発薬業界に限ったことではなくあらゆる産業でみられる。一連の不祥事は、単純に製薬業界の「コンプライアンスの低さ」に起因するのではないか。

 もともと国内での医薬品の供給体制は十分ではない。そこに業界の相次ぐ不祥事と、新型コロナの感染拡大が重なって、今も供給不足の悪循環が続く。日本ジェネリック製薬協会は沢井製薬の問題前から、全品目について在庫が十分な「通常出荷」を目指す行動計画(22年度から3年間)を示していた。しかし、品質・製造トラブルについては実質的に何ら解決策が示されていない。新たな不祥事が続発するようでは、正常化には10年以上の年月が必要ではないか。厚労省や企業は具体的な再発防止のタイムスケジュールを示して、供給正常化を急ぐべきだ。

(坂巻弘之・神奈川県立保健福祉大学教授)


週刊エコノミスト2023年11月21・28日合併号掲載

FOCUS 沢井製薬が不正検査 後発薬業界で不祥事の連鎖 供給悪化懸念、遠い正常化=坂巻弘之

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